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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
六章・そうだ! これはスカウトだ!
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そうだ! これはスカウトだ!(21)

「素直に言えば……この世界に骨を埋めて、リリアと一緒にずっとここに居たい……可能なら、結婚とかもしたいと思ってはいるんですよ」

 雄太は笑みのまま答える。

 心成しか、陰りのある笑みだった。

「……? どうして、そんなに悲しそうなのですか?」

「悲しそうに見えますか? 俺?」

「ええ……とっても」

「そ、そうですか……はは」

 雄太は愛想笑いにも等しい微笑みを浮かべた。

 そこから会話が途切れる。

 数十秒程度、無音状態になった。

「前に少し言ってたかも知れませんけど……俺は、この世界の人間じゃないんです」

 沈黙を破ったのは雄太だった。

 少し思考を張り巡らせる形で口を開き……「ふぅ……」と、息を吐き出してみせる。

 嘆息とも溜息とも言える様な……それとは違う意図がある吐息の様な?……なんとも良く分からない意味深長な吐き出し方だった。

「自分でも良く分からない内にやって来て……そして、ここに居る。つまり、逆に言えばいつ自分の世界に戻ってしまうかも分からない。自分の意思とは関係なく自分の世界に戻るかも知れない……そんな自分が、彼女を愛して良いのか? 正直、怖いんですよね……はは」

 お得意の愛想笑いのまま、頭を右手でポリポリかいて言う。

「リリアさんを、この世界に残してしまう事が怖い……と?」

「有り体に言えば……そうですね。俺も一度経験してますから……」

 セシアの言葉に、雄太は苦笑しか出来ないと言うばかりに苦笑いを見せ……頷いた。

 追憶の中にある、遠い遠い記憶。

 一生一緒にいると、底なしで抱いた愛してる気持ち。

 雄太は知っている。

 愛してる気持ちが強ければ強いだけ……失った時の喪失感が大きいと言う事を。

 好きであればあるだけ……別れた時の絶望感は強く激しくなる事を。

「リリアに好きだと言う意思を伝える事はあっても、俺の方から積極的に愛してる気持ちや行動を起こさない理由は……実は、ここにあります。あんなに悲しい気持ちは……絶対にリリアにはさせたくない」

「……そうですか」

 雄太の言葉に、セシアは頷きだけを返した。

 リリアが好きであれば、例え異世界人であっても素直に生きれば良いじゃない?……とは、言えなかった。

 理由は簡単だ。

 雄太が異世界人であり、本来の世界に戻ってしまう可能性を、セシアの意思でどうこうする事が出来ない以上、無駄に楽観的な台詞を口にする事が出来ないからだ。

 感情的に「今の気持ちをちゃんと伝えて、幸せになりなさいよ!」……と言うのは容易い。

 しかし、これは無責任だ。

 本当に異世界へと帰ってしまったら、絶望感に苛まれてしまうのはセシアではなくリリアだ。

 つまるに、セシアの話ではない。

 そうだと言うのに、勝手にセシアが出しゃばって言うのは無責任極まる。

 この言葉を言う権利があるのは、絶望感を味わう覚悟を持っている者にしか許されない。

 ハイティーンの若者であったのなら、あるいはセシアもそんな台詞を口にする事が出来たのかも知れないが……悲しいかな、セシアは既に大人だった。

 故に、自分の言葉には責任を持ち……かつ、相手の気持ちも考えた上で言葉を発する行為を自然と持ち合わせてしまった。

 だからと言うのも変な話ではあるのだが、

「私は……ちょっと、子供に戻りたくなりました」

 苦笑しながらセシアは言った。

 すると、雄太も苦笑する。

「そう……ですね。なんか、その気持ち分かります。ちょっとだけ」


 歳を重ね……恋情と言う概念が薄くなってしまった。

 歳を取り……自分本位な考えが薄くなってしまった。

 歳が増え……出会う事の感情が薄くなってしまった。

  

 別れる辛さよりも、出会いがある喜びを優先出来なくなってしまった。


「歳なんて取りたくない……若ければ、まだちょっと違う思考だったのかも知れない……若さって素晴らしいのかも知れませんね」

 四十五歳になって気付く。

 情熱的な行動は、やっぱり若いからこそ可能にしているなぁ……と。

 そうと……空に向かって、若者への憧れ染みた……無い物ねだりを無意識にしていた時だった。


 ブゥ……ゥンッッ!


 空間が歪んだ。

「………へ?」

 雄太はキョトンとなる。

 空間が歪んだのは、まだ分かる……これは空間転移魔法による物だ。

 問題は次だった。

 空間転移魔法によって現れた存在……それは、ナーザス公爵と一緒にいる邪神……レンだ。

「あれ? レンじゃない? どうしたの? いきなり?」

 黒髪の少年……レンの存在を見て、セシアは不思議そうな顔になって声を掛ける。

 ナーザスの旧友だったセシアは、何気にシンとも知り合い程度の面識があったのだ。

 他方、雄太の場合は、レンに対する面識なんぞ限りなくゼロに近い。

「なんでアンタが?」

 ついでに、なんの用事があったのかさえ分かり様もない雄太は、頭上にハテナマークを作って小首を傾げる事しか出来なかった。

 果たして。

「ヤバイぞ……非常事態だ」

 シンは雄太へと言う。

 極めて深刻な顔をして。

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