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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
六章・そうだ! これはスカウトだ!
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そうだ! これはスカウトだ!(18)

「どうしてこうなっちゃうのかなぁ……はぁ」

 セシアは嘆息交じりだ。

 スタートラインに立とうとしたら、既にゴール寸前の競争相手が居た気分だ。

 どうにもこうにも運がない。

 せめてスタートが一緒であったのなら、まだ張り合う気持ちにもなるのだが。

「これだけの差を付けられたらなぁ……」

 セシアは呟いてから、少しだけ歩き……木陰から隠れる形で虚空を見上げた。

 不毛だと思いつつ……必要のない物だと思いつつ……でも、心の何処かからやって来る焦燥感が、瞳から涙として溢れてしまった。

 全く以て恥ずかしい限りだと思う。

 またしても、自分は独り相撲をしている。

 本当に本気で真面目に……。

「なに、やってんだか……」

 セシアの独り言は、木々の合間にある虚空へとささやかに伸びて行き、消えた。






 数週間後、広く世間へと注目を抱かせる程度のニュースが、世界へと発信された。

 それは東西間における新たな不可侵条約が立案され……早々遠くない内に成立する見込みだと言うニュースだ。

 不可侵条約自体は前々からあった物であり、真新しい物がまるでないかの様に見えるのだが……実はちょっとだけ違う。

 条約が一部改訂されたからだ。

 その改訂された部分が、広く世界的に注目している訳となる。

 では、どの様な改定がなされたのか?

 改定文を原文ママで書くと、恐ろしく仰々しい格式張った内容になっているので、ここではザックリと変更された部分だけを柔軟に抜粋して述べる事にしよう。

 

 不可侵を破ったら、破った方にリリアが攻撃をするぞ!


 これが改訂された部分となる。

 要は、赤髪の英雄はニュートラルな存在なんだけど、東西のどっちかが戦争を始めたら、戦争を始めた方を悪として、赤髪の英雄様がとっちめてやるから覚悟しとけよ!……と、こんな感じである。

 日本風に言うと……かなり前の話になってしまうが、朝廷(天皇)が付いた方が官軍なので、天皇が敵対認定した連中は賊軍として撃ち滅ぼされますよ!……と、言ってる様な物。

 果たして、リリアにそれだけの能力と政治的な価値が存在しているかは不明だが、旗印としてはこの上無く上等なので、赤髪の英雄様をむざむざ敵に回したいとは東西どちらも思わない。

 結果、リリアは互いの抑止力として東西を均等に保つための神輿となって行くのであった。






「……これ、あたしがやらなくても良かったんじゃないのか?」

 新しい不可侵条約案が締結されそうだと言うニュースが飛び交う中……リリアは、朝刊の一面を飾った記事を軽く見据えながらも口にする。

 場所は、雄太と亜明の二人が借りているホテルの一室。

 最近では、なんとなく自宅と化してさえいる様な場所になってしまった。

 不特定ながらも休日を有していた関係もあり、本日は事実上の自宅となっていたホテルでのんびり休養していた。

 そして至極当然の様にリリアが遊びに来ていたのだった。

 そんなリリアの顔は見事に渋面である。

 もう、百点満点の渋面と言えたリリアを前に、ソファに軽く腰かけていた亜明が、にこやかに声を吐き出して行く。

「他の人間ではダメだったのは、他でもないアナタが一番知っている事でしょう?……良かったではありませんか? これで貴女は世界の英雄様ですよ? きっと世界の英雄として子々孫々の代まで語られ続けられますよ? 伝記になったり吟遊詩人の歌詞になったり、絵画にされる可能性もありますね?」

「誰も望んでねぇぇぇぇぇぇぇぇんだよ! あたしゃっ!」

 コロコロ笑う感じで言う亜明の言葉に、リリアは今にもちゃぶ台をひっくり返す様な勢いで激昂する。

 ハッキリ言って不本意極まる。

 リリアとしては、これ以上有名になんてなりたくない。

「それで? そろそろお兄様を諦めたら如何です? 貴女は高名過ぎます。お兄様の呪いが如何なる代物であるのかは御存知の筈でしょう?」

「分かってるよ! だから、ホテルの中に居てもこうしてお前の光魔法を付与したままでいるんじゃないか!」

 やや茶化し半分……それでいて目は笑ってない亜明の言葉に、リリアは半べそ交じりのまま激しく反論してみせる。

 世界大戦を回避する為とは言え、リリアの名前を東西の抑止力として不本意に使われたのだ。

 そう、不本意だ!

 これでリリアは世界の何処に行っても、リリアだと分かれば赤髪の英雄様として認識されてしまう。

 雄太と一緒に生きるのであれば、もれなく変装して生きる事を約束されてしまった様な物だ。

 あるいは、雄太の呪いが解ければワンチャンあるかも知れないのだが。

「なぁ、亜明? お前って、魔導特化なんだろ? 雄太の呪いを解く方法とかを知ってたりしないのか?」

「あれは無理です。あなた風に言うのであれば、私の能力をも凌駕した邪神……いや、創造神とでも言うべきでしょうかね? ともかく、向こうからすれば暇潰しにも等しい茶番をしているだけに過ぎない「保険の様な物」なんでしょうけど、私からすれば絶対的な呪いです。言うなればこの世の理にも匹敵してますから」

「……言ってる意味が分からないんだが?」

 亜明の言葉に、リリアは苦々しい顔のまま頭上にハテナマークを作って答えた。

 そもそも、創造神って何だよ!……と、言いたそうな顔だ。

 実際問題、非現実かつ謎めいた内容過ぎて、どんな返答をして良いのか分からない内容だった。 

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