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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
六章・そうだ! これはスカウトだ!
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そうだ! これはスカウトだ!(8)

「え?……リリアに、ですか?」

 銀髪の青年に言われた雄太は、不意にリリアへと顔を向ける。

 見れば、雄太以外の三人もリリアに視線を集中させていた。

「さっぱり要件が飲めないんだが?」

 雄太達四人の視線を一身に浴びてしまったリリアは、少し苦笑交じりになって口を開く。

 初対面以外の何者でもない……名前すら不明な男に、いきなり用事があると言われても困惑する事しか出来ないと言うのが、リリアなりに感じた正直な感想だった。

「そもそも……アンタ、誰?」

 片眉を捻って尋ねるリリアがいた所で、銀髪の青年は厳かに頭を傾けてから声を返して来た。

「これは失礼致しました……僕の名前はジン・ミナハ・リルと申します。以後、お見知りおきを」

「リルですか?……すると、貴方はリル公爵家の御子息でいらっしゃるのですか?」

 銀髪の青年……ジンの言葉に逸早く声を返したのはセシアだった。

 セシアはかなり意外そうな顔になってジンへと尋ねてみせる。

 すると、ジンは朗らかな笑みを柔和に作りながらも、温和に声を返した。

「流石はプラム王家の三女……我が家をご存知でしたか」

「知っていると言う程ではありませんが……名前程度は聞き及んでおります。西の大帝国にある宰相の家柄ですから」

 ジンの言葉にセシアも温和な笑みを雅やかに描いては、気品溢れる声音を返してみせる。

 流石はお姫様と言った所だろうか?

 駆け出し冒険者の恰好をしている上に、タケノコ狩りで服をアチコチ泥だらけにしていたと言うのに、それでも高貴な姫としての姿を宛然と生み出している。

 きっとセシアは天性の猫かぶりなのだろう。

 だって常人には出来ないし。

「そこまで御存知であるのなら話は早い……僕は、西の大陸から海を越えて、東の帝国……その一角を支えるプラムへと馳せ参じました」

 ジンは品のある笑みを濃やかに浮かべながら声を吐き出し、そこで視線をリリアに向けてから再び口を開く。

「リリア・ナナシノさん……あなたをお迎えする為に」

「は?」

 リリアは眉間に大きな皺を寄せた。

 言ってる意味が分からない。

 思い切り意味不明過ぎて「ホワイ?」って顔すら出来なかった。

 その代わりと言うのも変な話ではあるのだが、

「オイ、銀髪のにーさんよ?……あたしゃ、割と冗談が通じる方の人間ではあるが……笑えない冗談にはコブシで対応する様な阿婆擦れなんだよ?……そこんトコ、分かっててぬかしてんのか? テメーはよ?」

 思い切り喧嘩腰でジンへと答えていた。

 まさに喧嘩上等状態である。

 こんなキャラ……今時、チャンピ〇ンにだっていやしない。

「落ち着いて下さい!……今、僕たちの均衡は大きく崩壊しつつあるんです。東西のパワーバランスが……です」

 一触即発状態と言う言葉を、全身で力一杯表現していたリリアを前に、ジンは冷や汗を思い切り流しながらも返答してみせる。

 どう言う理屈なのかは分からないが、サーベルタイガーとレッド・ドラゴンを1秒未満で細切れにして来た相手……そう思っていたが故に、ジンの内心は穏やかでは居られなかった。

 実際にやったのは雄太ではあったのだが、木陰の向こうで見ていたジンの視点では、誰が何をやったのかまでは、詳しく見る事が出来なかったからだ。

 尤も、近くでじっくりよぉぉぉぉく見ても、何が起きたか分からなかったろうが。

 いずれにしても、ジンはサーベルタイガーとレッド・ドラゴンの二体を倒した相手がリリアだと勘違いしていた。

 その理由もシンプル。

「赤髪の英雄様の武勇伝は色々とお聞きしております! なんでも魔王を容易く撃ち滅ぼし……更に邪神をも戦わずして屈服させたらしいではありませんか!」

 こんな事を高らかに話すジンの台詞が全てを物語っていた。

 実際にやったのは雄太ではあったのだが、この事実を世の中へと公表してしまった日には、雄太は墓の下である。

 きっと、今頃は千の風になって大空の彼方へと旅立っているに違いない。

 ここらの関係があった為、赤髪の英雄ことリリアが全てやった事になっているのだが……だ?

「その素晴らしい辣腕を、是非とも我が西の帝国で振っては頂けないでしょうか!」

 その結果、リリアは西側にある大帝国の貴族に目を付けれられた模様である。

 果たして、リリアは答えた。

「死ね」

 それは答えなんだろうか?

 ともかくリリアは秒を必要とせずにジンへと答えた。

「話はそれだけか? それならサッサと消えろ。気分が悪い」

「待って下さい! これは東西のパワーバランスに大きく関わる事で……つまり、歴史すら揺るがし兼ねない大きな事件へと発展してしまう恐れがあるのです!」

「あん? 歴史ぃ? そんなのあたしが知るか。そもそも、パワーバランスがどうとか言うが、冒険者のあたしが歴史を動かす様な真似が出来るか。寝言は寝てる時に言え……いや、寝てる時ですら言うな、マジでムカつくから」

「あなた様程の実力者であるのなら、例え本人にその気がなかったとしても、時代が放って置きません! 東大陸の人間として、確実に西側の帝国を亡ぼす大敵となる! その前に、どうしてもコチラ側の人間にして置きたいのです!」

 完全に「私は西側になんて行きたくありません」って感じの文字を顔にデカデカと書いていたリリアに……しかし、それでも必死に抵抗して説き伏せようとするジンの姿があった。

 恐らく彼の中では、言葉通りの未来が起こる事を激しく危惧しているのだろう。

 実際にそうなるかどうかはさておいて……なのだが。    

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