そうだ! これはスカウトだ!(4)
亜明の中では、雄太は自分と一緒にいる事は大前提であり、この部分は未来永劫・不動不変である事に一切の疑問を感じる事はない。
よって、ここは基本だ。
基本中の基本だ!
呼吸する事と同義語である。
しかしながら、亜明が現状で実現可能にしている事は、24時間フルタイムで雄太と一緒に居ると言う、呼吸と同義語と言える基本中の基本的な部分しかない。
つまり、必要最低限な事しか出来てないのだ。
今の亜明が必要最低限の状態で甘んじる羽目になってしまったのは、間違いなくリリアとセシアの二人による物。
ここは早急な排除をする必要性が存分にある!
ある……んだけど、実際に実現可能なのかと言うと、極めて難しい!
そう……難しい!
今日だって、ランク的におかしい仕事を一緒にしているリリアに押し切られる形で、一緒にタケノコ採りをしている。
これは明らかにおかしい。
それは雄太だって重々承知していると言うのに、だ。
持ち前の希薄な精神力であったが故、結局は押しの強いリリアに言い負かされてしまったと言う事もあったかも知れないが、実際は雄太も雄太で、彼女が一緒にやって来た事も「悪くはない」と考えていたからこその結果だった。
本人から直接聞いた話ではないのだが……少なからず、亜明はそうだと思っている。
他方のセシアもまた、右ならえな事情でありながらもタケノコ狩りに参加しているのだが……ここは「リリアは良くてセシアはダメではおかしい」と言う理屈からだ。
英雄様がタケノコ狩りに参加しても良いと言っているのに、姫様はダメ……では、話の筋的におかしいし、単なる仲間はずれにしか見えない。
そこらを考慮するのであれば、リリアの同行を認めている時点で、既にセシアの申し出にも相応の返事をするしかなかったと言う事になる。
極論からすると「リリアがこのクエに参加した」事が、今ある現状を招いている。
つまるに。
「リリアは良いのか……」
亜明は、誰に言う訳でもなく呟いた。
ちょっとだけ……遠い目をして。
「……? どうした亜明?」
程なくして、近くでタケノコを掘っていた雄太が、不思議そうな顔になって亜明へと声を向ける。
この声に亜明はハッとした顔になってから声を返した。
「え? う、ううん! なんでもありませんよ? お兄様!」
完全に誤魔化し半分の口調で、あわわわ! っと驚いた顔をしつつも、亜明が大仰に慌ていた……その時だった。
ガサァァッッッ!
茂みの間から巨大な牙を持つ大虎が!
「っっ! なんで、こんな所にサーベルタイガーが!」
直後、セシアが顔面蒼白になって叫ぶ。
彼女の言葉通り、それはサーベルタイガーと呼ばれる大型モンスターだ。
サーベルタイガーなんぞと呼ばれているのは、そのまんま見た目を表している。
口に生えている大きな大きな牙は、まさにサーベルを連想させてしまうまでに立派で鋭敏な牙であったからだ。
モンスターとしての脅威度も高く、根本的にランクC以上の冒険者じゃなければ、討伐クエストの受注をする事すら出来ない。
そして、タケノコ狩りをしてるこのエリアにやって来る様なモンスターでもなかった。
そもそも、主な生息地からして違うのだ。
よって、こんな所にいきなりやって来る様なモンスターであろう筈もなく……単なるタケノコ狩りが、命懸けの鬼ごっこになりかねない、凄惨な状況へと姿を変える……と、元来ならそうなる筈だった。
しかし、実際にはその限りではない。
理由もシンプルだ。
「へぇ。この世界には、こんなゲームみたいな動物も存在しているんだなぁ……ちょっとびっくりしたよ」
「お兄様も、この世界のダンジョンには潜った事がございましたでしょう? この程度の特殊な動物なんて、その辺にゴロゴロしてます。今更驚く様な事でもありません」
茂みから突発的に出現したと言うのに、雄太と亜明の二人は全く動じる素振りをみせない。
そればかりか、タケノコ狩りをやめる様子すらなく、悠長におしゃべりまでしている始末。
「ゆ、雄太! それに亜明さんも! あなた達、そこにいる凶悪なモンスターが見えないのですか? は、はやくなんとかしないと!」
セシアは、蒼白な顔のまま声高にけしかける。
だが、雄太と亜明の二人は、タケノコをのんびり掘り起こす事をやめない。
セシア的に異様な光景だ。
一体、この二人はどうしてそこまでタケノコを掘り起こしたいと言うのか!
眼前の恐怖に、とうとう頭がショートしてお花畑状態になってしまったと言うのか!
「もう! 本当にどうしたって言うの!」
「安心して下さい姫様。サーベルタイガーの事でしたら、もう既に問題が解決しているのですから」
想定外な出来事と、予想不可避な行動を見せる雄太と亜明の二人を見て、両目を渦にして頭を抱えていたセシアが居た所で、リリアがやんわりと声を吐き出した。