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最強の能力を貰ったら、もれなく有名になると死ぬ呪いも付与された。  作者: 雲州みかん
五章・そうだ! 世直しをしよう!
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そうだ! 世直しをしよう!(28)

 暫く沈黙が生まれた。

 当時の感情を引き戻してしまった結果、言葉が出なくなってしまった雄太と……そんな彼に対して、どの様な台詞を口すれば良いのか迷っていたセシアがいた。

 そして気付く。

 失恋していたのは、自分ではなかったのか?……と。

 リアルタイムで傷心して、心が傷付いて泣きたかったのは、自分ではなかったのか?……と。

「………ぷっ! あは……あははは!」

 セシアは思わず笑ってしまった。

 この男は本当に何がしたかったんだろう?

 予想でしかないのだが……きっと、セシアを慰めに来た筈だ。

 それなのに、自分の失恋話を口にして、思い出しては泣いている。

 なんとも間抜けな話だ。

 そして、思う。

 過去の話に涙する、さっき知り合ったばかりのオッサンに同情して、逆に慰めようとしてる自分もまた、とんでもないお人好しの間抜け女だ、と。

 そんな自分が実に滑稽でおかしくて……他愛のない人間に見えた。

 故に、ついつい笑ってしまった。

 果たして、雄太は言った。

「良かった。笑って貰えた」

 にこやかに、満面の笑みで。

「……え?」

 セシアはビックリした。

 あの話を聞いた上で、笑い飛ばすかの様に大笑いをすれば、普通なら怒り出す所である。

 相手が王族だからなのだろうか?……こんな思考がセシアの中に転がって来たが、間もなくそれはないと考える。

 恐らく、このみょうちきりんなオッサンは、相手が王族とか貴族とか、そんな階級社会とは無縁の所に社会的な概念を持ち合わせている。

 まるで異世界から来たかの様に、自分の知っている常識とは別の何かを常識としている。

 実際問題、セシアの考えは大当たりではあったのだが、誰彼に言われるまでもなくこの答えに到達する事が出来たのだから、彼女の推察力も甚だ馬鹿に出来ないだろう。

「そっかぁ……なるほど、なるほど。つまり、死にたくなるまでに酷い失恋話がある貴方から比べたら、私の失恋なんて大した事ないよ?……と、でも言いたいのかな?」

「うーん……ちょっと違いますね。今回は失恋繋がりで話をしてましたが、恋愛だけにとどまらず色々な事情から、誰でも一回ぐらいは失望とか絶望とか、そう言う考えに至る経験ってする物だから、とりあえず今日は泣いて、そこから笑って下さい」

「……泣く?」

 セシアは小首を傾げた。

 笑っていたセシアを見て、軽く安堵する様な態度を取っていたと言うのに、泣けと言う。

 一体、何が言いたいのだろう。

 つくづく不思議な男にしか見えなかった。

「そうです。まずは泣きましょ? 人間、泣きたい時に泣くのは自然です。泣く事で溜め込んだストレスを発散出来ます。だから泣いて良いんです……良いんですけど、泣くだけ泣いたら笑いましょう?」

 雄太は、そうと答えて和やかに微笑を浮かべた。

「可愛いんですから、笑顔が一番ですよ、セシア姫様」 

「………」

 セシアは無言だ。

 なんだろう?………心が揺れた。

 同時に思えた。

 素直になっても良いのではないか?

 どう、素直になるのか?

「そう……だね。うん……本当に……そうだね……うぅ……ふぅ……ぅぅぅ……ぐす……」

 彼の前で泣きべそを晒しても良いし、素直に泣いても良いんだ! と。

 本当に本気だった恋。

 好きで好きで恋焦がれた日々。

 そして終わりを告げた、今。

 その全てを、哀しみを……悔しさを。

 明日に残さない様にする為に。

「うわぁぁぁぁぁっっ!」

 セシアは泣いた。

 もう、わんわん泣いた。

 姫様だと言うのに、大粒の涙で顔がぐちゃぐちゃになった。

 みっともない事、この上ない。

 けれど、泣き続けた。

 ここで、全ての涙を流そうと……全てを引きずらない様にしようと。

 過去の全てを涙で流そうと、全力で泣いた。

「うん、それで良いと思います……よしよし」

 ひたすら号泣するセシアを前に、雄太は彼女の頭を優しく撫でつつも、背中をさすっていた。

 こんな事をした日には、マジで処刑台行きである。

 ある意味で、命懸けの対応と言えたのだが……しかし。

「ひっく……ひっく……うぅ……ぐしぐし」

「少しは気がまぎれました?」

「うん……だいぶ、良くなったよ……ぐすぐす」

「じゃ、笑いましょ? ほら、笑顔、笑顔!」

 雄太は答えて、朗らかに笑う。

 これに合わせる形でセシアも笑った。

「うん、良いですね! 素晴らしい! さっきも言いましたけど、笑うと可愛いですよ!」

「……っ! あ、ありが、と……」

 雄太の言葉に、セシアも一応の声を返す。

 一応と言うのは他でもない。

 なんとなく上手に口を動かす事が出来なかったのだ。

「まぁ、立ち直るのは難しいかも知れませんけど、そうですねぇ……自分に何か出来る事があったら助けますんで」

「………」   

 雄太の言葉にセシアは無言のまま、ちょっと頭を捻らせる。

 そこから少し間を置いてから雄太に尋ねた。

「あなたが出来る事であれば、私を助けてくれる?」

「そうですね。なんか放って置くのが嫌なので、助けます……まぁ、自分が出来る程度の事ですけど」

「大丈夫、むしろ貴方しか出来ない」

「……? そうなのですか? じゃあ、具体的にどんな手助けをすれば良いのですか?」

 今一つ要領を得ないと言う感じだった雄太を前に、セシアはここで悩む様な仕草を見せる。

 どうやら、言葉を選んでいる様子だった。

 果たして、セシアは答えた。

「新しい恋の手助けをして欲しいんだ!」

 そうと断言したセシアの頬は、誰からも分かるレベルで赤くなっていた。

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