そうだ! 世直しをしよう!(24)
ルフレは聡明だった。
それと同じ位……自分を愛せない人間だった。
自分よりも、国民を。
自分よりも、他人を。
自分よりも、家族を。
……妹を。
「私……私、馬鹿だった! ちょっと考えれば分かる事さえ考えなかった! ゴメン! 本当にごめんなさい!……ぅぅ……ふぅ……ぅわぁぁぁぁんっ!」
とめどなくあぶれ出る涙と激情。
全てを隠す事なく……隠し切れない感情を、一切の淀みなく涙として瞳から放出した。
ルフレに抱き着いたセシアは、胸の中で爆発的に膨れ上がった感情を全て叩き付けるかの様に叫び……号泣した。
「………本当に……全く……もう」
ルフレは呟く。
なんとも気抜けした声音だ。
一応、ナーザスは気付くと予測していた。
ただ、彼女にとっての誤算は、気付く速さだ。
「降参よ……もうお手上げ。策はないわ……ナーザスの言葉じゃないけど、素直にしてあげる」
答えたルフレは、仄かに優しく微笑みながら、しがみつく様に抱き着いて来た妹の肩に自分の両腕を向けた。
「やっと素直になったか……やれやれ」
泣きながら抱き着いたセシアと、優しい微笑を浮かべて抱き留めるルフレの姿を見て、ナーザスは軽く吐息を口から吐き出した。
嘆息にも近い吐息ではあったが、表情はその限りではない。
少なからず、ナーザスの表情には温和な何かが生まれていた。
きっと、その吐息は安堵の息にも近い物だったのだろう。
果たして、ナーザスは再び答えた。
「それじゃ、今回の件は全部不問で良いか? 元からこれは密会だ。お忍びの用事だからな? まだ世間には公表されていない」
「うん……うん、それで良い……良いよ! 私……もう、お姉ちゃんを苦しめたくない!」
ナーザスの言葉に、セシアは即座に頷いていた。
結局の所、姉は誰よりも妹を愛していた。
妹がどんなに憎んでいたとしても、姉は妹への愛情を一切捨てなかった。
その事実を知った今となれば、ルフレを処刑台に上げる事なんて出来る訳がなかったのだ。
「そんで、ルフレ姫様御乱心の結婚話なんだが……面倒になった。この話、俺は受けとく」
「うんうん! それもさんせ…………え?」
更に続けて答えたナーザスの言葉にセシアは再び頷こうとしたのだが、途中でハタッ!……と、気付く。
「なんだ? だから言ってるだろ? 御乱心の結婚話……受けるよ。このツンデレ王女! マジで俺が見てないと、暴挙に出捲るからな! しかも二手・三手先を考えた暴挙を、だ!」
「いやいやいや! だからって、ナーザスが人柱になる事ないでしょ!」
眉を捩りまくって言うナーザスに、セシアはかなり必死になって叫んだ。
確かにルフレは自慢の姉ではあったし、自分を最優先してくれるステキな姉ではあったのだが……しかしながら、それはそれ。
恋は別腹なのである!
「そ、そそそそそ! そうよ! アンタだって今回の事は分かってるでしょ! これは私の策略であり、計算した上での話なんだから! べ、べべべべっ! 別にあんたなんかと結婚したかった訳じゃ、ないんだからね!」
他方のルフレも反論していた。
でも、顔はハチャメチャに赤くなっていて、おおよそ正気を保っている様には見えなかった。
てか、顔に書いてある「私はあなたに惚れてます」と。
ここまで典型的なツンデレは、きっと天然記念物。
2010年代初頭頃から少しずつ減退して行った絶滅危惧種張りのツンデレ王女に違いない。
「俺がこの話を受ける理由は三つある。一つはこれ以上お前の計略に付き合うつもりはないと言う事だ。大人しく俺の嫁になったら、あとは自粛しろ!……いや、そうじゃないな? 素直に生きろ! もっと自分が楽しいと思える事を考えろ」
「今だって素直に生きてるでしょ! 馬鹿じゃないの!」
「二つ目……俺もいい加減に嫁を貰えと喧しく言われてる。もうマジで勘弁して欲しいんだよ……俺だって一応それなりの人生プランはあったんだよ! 人生が65年的な事を言ってるが、俺は100年は生きるつもりなんだよ! だから30過ぎて結婚でも、ぜ~んぜん行けるんだよ! 俺の人生プランでは!」
「そんな人生プランなんて、私には関係ないでしょ!」
「あるだろ! 嫁になるんだから!」
「承諾してないのに、勝手に嫁にするなぁっ!」
「そして最後の三つ目! これが決定打だ!」
反論するルフレの言葉をガン無視する形で言葉を続けたナーザスは、ここで言葉を区切る。
厳密に言うと、少し言うのを躊躇っていた。
理由は簡単にしてシンプル。
恥ずかしかったからだ!
故に、ナーザスは顔を思い切り赤くしてから……しかし、声を大にして言い放った。
「俺もお前が好きだからだよ!」
叫んだナーザスは、語気を荒げて……でも、強い熱意を持ってルフレを見つめていた。