そうだ! 助け合おう!(4)
投げの構えを取った狼男を見て、雄太は右腕を軽く前に突き出した。
今度は防御の態勢すら取らない。
だってハリボテなんだもの。
本当は大岩なのかも知れないけど、感覚的に言えば発泡スチロールか段ボールで出来た大玉なのだから。
一呼吸程度の間を置いて、狼男は左手の大岩をやっぱり全力投球して来る。
なんとかの一つ覚えならぬ、狼男の一つ覚えだった。
もしかして、コイツはこれしか出来ないのだろうか?
大岩を投げる事しか能がないのであれば、ヤツは大岩ピッチングマシーンの二つ名を襲名する事が可能だろう。
なんて恥ずかしい二つ名なのだろうか。
ドォォォォンッッ!
「……は?」
想定外な事が起こった。
岩が飛んだ直後、予め前に突き出していた右手が、にわかに光った。
狼男が大岩を出した時と同じ様な、ゲームのエフェクト染みた光が右手から出て来た。
なんだこれ?……防御スキルの類だろうか?
仮にそうなら、いよいよゲームの世界と言う可能性も捨てられなくなって来た。
直後、大岩が雄太の眼前へと超高速で迫って来る。
さっきよりも投げられた距離が近かった事もあり、威力も速度もマシマシ状態で雄太へとダイレクトアタックを掛けて来て……垂直に跳ね返った。
そう、それはまさに垂直。
真っすぐ飛んで来た大岩は、そのまま真逆の方向へとベクトルを変え、慣性の法則が涙目になってしまう勢いで跳ね返っていた。
その先には、大岩を投げた張本人が。
果たして。
「あ、あのぅ……大丈夫ですか?」
雄太は自分なりの気遣いを込めて狼男へと声を掛けてみる。
返事はない。
ただの屍の様だ。
これが比喩的な嘯きであったのならまだ笑い話で済んだのだが……今回ばかりは比喩とは無縁の光景が雄太の視界に広がっていた。
これは間違いない、圧死してるパターンだ。
救急救命士とかの資格も三角も持ってない雄太ではあったが、そんな素人にだって三秒で理解可能なやられ方だった。
「………」
雄太は無言。
絶句と言う表現の方がより妥当かも知れない。
これはやってしまった!
明らかに殺人罪で「お巡りさんコチラです!」……の案件だ!
幸いにして、周囲に誰も居なかったのは雄太にとっての僥倖だろうか?
「いやいやいや! 待て! もしかしたら、まだ生きてるかも知れない!」
とにかく助けなければ!
救える命がそこにあるのだから!
「いやこれ、絶対に死んでるぅぅぅぅぅぅっ!」
一念発起して狼男に近付き、取り敢えず自動車学校とかで大昔に習った救命措置とかを頑張って試してみようと思っていたんだけど、その考えはアッサリ霧散した!
もう、言葉ですら表現したくないまでにぐちゃぐちゃな有様だったからだ。
きっと、これが漫画やアニメだったら放送倫理機構が文句を言って来るだろう。
その関係で、確実にモザイクが掛かってしまう程度には損傷が激しかった。