そうだ! 世直しをしよう!(20)
しかし、実際に強制移動を行ったのかと言えば、その限りではない。
「………な、何が起きたと言うのだ……?」
突発的に消えた謎現象を前に、ワナワナと身体を大きく震わすラルカスが居る中、亜明はちょっと得意気な顔になって声を返した。
「何が起きたか? 良いでしょう? 良いでしょう! 説明しまぁ~す! 世の中に存在する、あらゆる万物は全て対になってます。例えば? 光があれば影があったり、裏があれば表が存在する様に、必ず対となる物……作用と反作用が存在するのです。これは物質も同じで、プラスの物質とマイナスの物質、この二つが存在しております。これを「物質と反物質」と言います」
亜明は軽く説明する形で口を動かし、ついでに虚空を黒板に見立てる形で文字を描き始めた。
ちょっとした亜明ちゃん講座って感じになっていた。
「物質とは、光粒子を集合させて質量を発生させた存在……まぁ、平たく言う所の「物」です。手に持てるマクロ的な物体から、目に見えないミクロの物体まで色々存在しますが、要は質量が存在する「物」であれば全部物質です」
亜明はヒラヒラと右手を動かしながらも講釈を垂れて行く。
同時に虚空へと、答えた物を文字化していた。
地味に器用な奴である。
「一方、反物質とは、この物質の正反対に位置する真逆の概念です。宇宙には物質が誕生すると、それと全く同じ数だけ反対の存在が生まれます。先程も申しましたが、万物は常に対となっているので、反対の存在が生まれる訳です」
言うなり、やっぱり虚空にも書いて行く亜明。
ちゃんと「物質」と「反物質」を左右対称にして見やすくしていた。
ついでに、赤丸付けて「ここ、テストに出ます!」とか書いてた。
どんなテストをやらせる気なのかは不明だ。
「物質は光粒子が結合し、質量が発生した状態……と言いましたが、反物質はこの逆で、光粒子が分解されて質量が無くなります。つまり消滅するのです」
ここまで答えた所で、反物質の所に矢印を書いて、物質へと矢印をぶつける。
「反物質による物質の消滅は、物質に反物質を衝突させる事で発生します。光粒子の集合体があるからそれを分解する事が出来るのです。ありもしない物を分解する事は出来ませんよね? あるから出来るんですよ……と、この様に。私がやったのは、ゴーレム(物質)の質量と全く同じ量の反物質を出現させて、それを衝突させました」
言うなり亜明は矢印の上に「衝突!」と書いて、物質の隣付近に「消滅」と書く。
割と普通に授業風の説明をしていた。
「……なるほど。世の中にはこんな物があるんだな」
それらの説明を見たリリアは結構感心していた。
「そうですね。私もビックリしました」
セシアもやっぱり感心している。
コクコクと、首を何回も縦に振っていた。
「魔法名は特にありませんが、命名するのなら「完全消滅魔法」って所ですね? これで理解しましたか?」
ニコニコっと可愛く笑いながら、亜明は近くにいたラルカスへと尋ねる。
「………」
ラルカスは無言。
一応、説明は聞いていたが、言ってる事が余りに非現実過ぎて絶句していた。
「それで? ひょろひょろのお兄さん? あなたはまだ私に抵抗しますか? 構いませんけど……消えます?」
「ひぃぃぃぃっっ!」
右手を向けた亜明がいた所で、ラルカスは血相を変えて悲鳴を上げた。
無理もない。
この法則と言うか……完全消滅魔法なる代物を使われてしまったのなら、ラルカスの命など風前の灯火だろう。
対抗策だって思いつかない。
哀れ……王宮魔導師様は、顔面蒼白のまま空間転移して逃げた。
「どうやら尻尾巻いて逃げたみたいですね? それでは、目的の場所に向かいましょうか?」
「……そ、そうですね」
ラルカスが居なくなった所を確認した亜明が軽く微笑んで答えると、セシアは口元を引き攣らせて頷いた。
「あの……そのぅ、良かったら私の護衛とかやりません? お給金は弾みますよ?」
程なくして、セシアは割と本気で亜明をスカウトした。
「すいません。私はお兄様……もとい、愛しの旦那様が大好きなので、その申し出は受けられないのですよ」
亜明は悪びれた風もなく答え、セシアの話を断っていた。
「おまっ! この! だからいつ結婚したんだよ!」
直後、リリアが怒りマークを作ってがなり立ていたけど無視していた。
両手で耳を塞いで「私は何も聞こえません」って態度を太々しく作ってた。
本当に良い根性してた。