そうだ! 世直しをしよう!(19)
しばらくして……巨大な空間の歪みから、細身の男性と……。
ギギィ……ズシャァァンッ!
白銀の鋼板を全身に纏った、巨人の様な存在がやって来る。
地響きにも近い音を立て、悠然と仁王立ちしているのは……。
「ゴーレム……なのか?」
リリアは独り言ちた。
見る限り、それはゴーレムと呼んで差し支えない、魔導人形の一種に見える。
戦略兵器の一つとしては、割とポピュラーな巨大兵器でもある……が、しかし。
その姿は、見た事もない色をした鋼鉄の巨人だった。
「姫様! 下がって!」
口早に叫んだリリアは、間もなく愛剣のマグネ・フェイの聖剣を右手に握りしめる。
同時に雄太はセシア姫を庇う様にして前に立った。
「これはこれは、お初にお目にかかります赤髪の英雄」
細身の男は、悠然と白銀のゴーレムの前に立っては、不敵な笑みを悠然と作りながらもリリアへと口を開く。
「……何者だ?」
声を向けられたリリアは、屹然とした面持ちのまま声を返した。
「失礼……私の名前はラルカスと申します。宮廷魔導師団にて、筆頭魔導師を務めさせております」
「なんでそんな奴が、物騒なゴーレムを引き連れてあたし達の前に現れたんだ?」
「おや? ご存知ないと?……では、簡略に一言だけ申し上げましょう……ルフレ第二王女に仕える者……と申せば、これ以上の言葉を必要としないのでは?」
「つまり、セシア姫が持つ証拠品を強奪するつもりだと言いたいのだな?」
「ご理解頂けて幸いです」
「ほざけっ!」
慇懃なまでの態度を取りつつ、反面瞳は敵意に満ち満ちていた細身の男……ラルカスの言葉を耳にした直後、リリアは素早くゴーレムへと刃を向ける。
ガキィィィィンッッッ!
甲高い金属音が、周囲一面にこだました。
「……なっ!」
リリアは瞳を大きく見開く。
仁王立ちしたまま、全く動かなかったゴーレムへと、大剣の刃を力一杯振りかぶってはぶつけたと言うのに、その刃はアッサリと弾き返されてしまった。
衝突にも似た勢いでゴーレムの右肩へと向けられた一太刀は……全くダメージになっていない。
文字通り刃が立たないと言わんばかりの状態で、傷一つ付いていなかった。
直後、ゴーレムの反撃がやって来る。
左コブシでカウンタ―を決めようと、素早い身のこなしでリリアへとコブシを振りぬいた。
「……くっ!」
苦い顔になりつつ、リリアは後方へと避ける形で左ストレートを回避する。
「どうですか? このゴーレムは! 魔鉱石をふんだんに使った超合金のゴーレムは! 如何に英雄様と言えど、堅牢かつ強固な特殊合金で作られた鋼鉄の巨人を前には形無しでしょう?……そうですね? 三分……そう、三分です! それだけの時間、立って居られたのであれば、貴女の実力は本物であったと皆に伝えて上げましょう……ふふ……ふははははっ!」
勝ち誇った顔をして高笑いするラルカスがいた時……。
「ほうほう? こんなオモチャを見せて置いて、三分で倒すと? 私達をですか?」
亜明がゴーレムの前にやって来ては、マジマジと見据えながら口を開いた。
気付いたらゴーレムの前に立っていた。
空間転移でもしたのだろう。
普通に歩いて行っても問題ない距離だったと言うのに。
「とんだお笑い芸人ですね? あなた? 私にへそでハーブティーでも沸かせたいのですか?」
亜明は鼻で笑う様な態度を色濃く見せ、両手を上げて「はぁ、やれやれ……」って感じのジェスチャーをしてみせる。
思い切り馬鹿にしていた。
もう、これ以上ないばかりにラルカスをコケにしていた。
直後、ゴーレムが目前の亜明を踏み潰そうと右足を上げる。
「お嬢さん?……大見得を切った代償は大きいですよ?」
ゆっくり右足を上げたゴーレムがいた所で、ラルカスはやんわりと声を吐き出す。
当人は「私は冷静です、小娘ごときに短気なんで起こしませんよ?」って感じの態度を見せていたけど、額にデッカい怒りマークを付けていたので、確実に怒っていた。
きっと凄い短気なんだろう。
だって、殺意の波動とか凄いもの。
果たして、踏み潰す勢いで右足を亜明に振り下ろし……止まった。
振り下ろしたゴーレムの右足を、亜明は左手の人差し指で止めていた。
左腕一本ではなく、わざわざ指先一本にしたのは他でもない。
亜明は言いたいのだ。
こんなオモチャみたいな人形の攻撃なんぞ、指一本でも余裕で凌げる……と。
そして、強く主張したい。
「三分もてば……と、貴方は言いましたね? チッチッチッ! それは違いますよ、ひょろひょろしてるお兄さん。私の感覚で言うのであれば、この様な燃えない産業廃棄物を処理するのに三分など必要としません。そうですね? 三秒?……いいえ、一秒」
そこまで答えると、開いてる右手をパチンッ! と軽く鳴らした。
「これで終わります」
ニヤリ……と、地味に悪役っぽい笑みを作った時、ゴーレムは消えた。
もう、空間転移か何かで別の何処かに強制移動させたんじゃないかって勢いで消えた。