そうだ! 世直しをしよう!(18)
「そ、そうですね……あは、あはは……」
実際に全くピンと来ない感じではあった物の、否定する訳にも行かなかったリリアは、上擦った声ながらも肯定的な台詞を口にしていた。
「では、そろそろ向かう事に致しましょうか」
程なくして、セシアは朗らかな笑みを絶やす事なく答える。
驚く程に清楚なオーラをキラキラ・エフェクトとセットで出していた。
やっぱり姫様は常人とは違った。
「はい、よろしくお願いいたします!」
歩き出したセシアを見た所で、リリアが後を追う形で歩き出す。
雄太と亜明の二人も、後続する形で歩き出した。
城門を超え、城の敷地内へと進んで行く。
城門を超えると、広い芝生で覆われた広場の様な所に出る。
広場の向こう側には城の本丸が見えるのだが、どうやら今回は本城には向かわない模様だ。
密会と言う形になっているので、城内で行うのは得策ではないと考えたのかも知れない。
方角からすると、兵士達の駐屯地っぽい建物へと向かっている模様だ。
近くに馬鹿デカい王城があるので小さく見えるが、実際は七階建ての雑居ビル程度の大きさがある。
「所で、今回のお忍びの件なのですが……やはり、例のクエストで得た物を題材とした物なのでしょうか?」
芝生の上を歩きながら、リリアはそれとなくセシアへと尋ねる。
今回は護衛任務だったと言う事もあり、セシアの意図は全く知らされてない。
ただ、前回の密売組織に関係する密会である事は、セシアの口から聞くまでもなく予想出来た。
だからと言うのも変な話ではあるのだが……。
「そうですね。リリアさんにはちゃんとお話しして置きましょう。今回は、件の組織を動かしていた真の黒幕に、この売買契約書を叩きつけてやるんですわ!」
答えたセシアは、自分の目的をしっかりと口にする。
冒険者協会は信用第一主義の集団として有名なので、セシアもかなり信頼していたのだ。
尚、冒険者組合はその限りではない。
フランチャイズ制なので、信用度がまちまちなのだ。
そこらはさて置き。
セシアが右手を虚空に向けた所で、数枚の書類が出現する。
彼女個人が所有する亜空間庫から、密売の証拠品である売買契約書が取り出された。
「密売組織を事実上動かしていたのは、恥ずかしながら私の姉、ルフレ・ロードル・プラムだったのです。ライドマの魔石を使ってプラム総督府の腐敗化を企て、プラムの国家転覆を目論みました」
「……っ!」
セシアの言葉に、リリアは思わず息を飲む。
これが真実だったとするのなら……密会するのも頷ける。
公式の場で言える内容などではないからだ。
「故に私は、この契約書を元に姉を断罪し……約束させるのです」
セシアは神妙な顔付きのままリリアへと口を動かして行った。
「なるほど……そう言う事でしたか」
内容は全て理解した。
少なからず、リリアはそう思えた。
総督府の人間にライドマの魔石を売りつけ、魔石中毒にさせる事が出来たのであれば、確かにプラムの国政を自由にする事が出来る。
実権を持っているのは王家ではなく、プラム総督府であるからだ。
国家転覆を狙っていたとすれば、総督府を意のままに操り……腐敗化させ、革命でも起こさせるつもりだったのかも知れない。
いや……そう言う事なのだろう。
こんな事をリリアが思っていた時、セシアの口が再び動いた。
「あたしのナーザスに手を出すな!……と!」
「………は?」
リリアの口がポッカリ開いた。
もう、八等分にスライスされたスイカみたいな口になってしまった。
目は点で、頭の上にはでっかいハテナマークが浮き出ていた。
「あのぅ……話が見えないのですが?」
「だからですね? つまりですね? あの馬鹿姉はこれを逆強請に掛けたんですよ! ナーザスの思考を計算して! 許せます? ねぇ? 許せないですよね! 本当に!」
「いや……その、話が見えないのですが?」
頭から湯気が出そうな勢いで喚き散らす姫様を前に、リリアは思い切りふためいてしまった。
相手が王族なので、下手な台詞を口に出来ないと言うのもあるのだが……国の危機っぽい話をしていたのに、いきなり横恋慕されて怒り出す痴情のもつれ話へとワープしちゃった為、どんな返事をして良いのか本気で迷った。
思わぬ存在がやって来たのは、その直後だった。
ブゥ……ゥゥ……ンッッ!
リリアとセシア……その後ろを歩く雄太と亜明の二人から少し離れた部分の空間がぐにゃりと歪む。
「……っ! これは……空間転移?」
リリアは顔を引き締めた。
通常の空間転移……と言うか、一人だけの場合、歪める空間はそこまで大きな物ではない。
比喩的な物として、フラフープのワッカを想像して貰えると嬉しい。
この輪っかを頭から通して足元まで落とせば、目的地へと移動している。
輪っかの部分が超短いトンネルになっていて、手前側が現在地で奥側が目的地に繋がってる……と、こんな具合だ。
しかしながら、今回の空間転移は明らかに規模が違う。
見る限り、半径3メートル程度はあるだろう巨大な亜空間トンネルが出来上がっていた。