そうだ! 世直しをしよう!(13)
ルフレ第二王女にとって、ナーザス公爵は最高のパートナーと呼べた。
とかく、このナーザス公爵さんは恐ろしく有能だ。
単なる自治領の当主のクセに、小国ながら一国の王に立てついたばかりか、そのまま滅ぼしてしまうのだから。
これだけでも凄い事なのだが、実はこれだけはない。
同じ帝国内にあるバンブーの危機まで救っている。
魔道鉱石が主な主産地だったバンブーは、鉱山から取れる鉱石を輸出する事で成り立つ国家だったのだが……この鉱山が枯渇すると言う、とんでもない窮地に追いやられた。
これがハッキリ言って笑えない。
鉱山がメインだったので、食料自給率は凡そ25%。
これまでは輸入に頼る事で食料が不足する事などなかったのだが……鉱石による収入がなくなった事で、国内生産を当てにする必要性が生まれた。
だが、国内生産と言うより国内凄惨……って感じと言える25%は絶望的で、バンブー国内に餓死者が発生してもなんらおかしな状態ではないレベルまで困窮するのだった。
この危機を救う為、ナーザス公爵はバンブー国に対し、自治領のオリジナル品種となる小麦の苗をプレゼントする。
後にバンブー国内にて「黄金の小麦」と語られる、特殊な苗だ。
元来、この苗はレーミン領の人間が、お世辞にも肥沃とは呼べない自治領の土地であっても、しっかり成長する事が出来、なおかつ手間もそこまで掛からない様に色々と品種改良した、血と汗と涙の結晶!
少しずつ、何年も何回も試行錯誤を繰り返し、努力に努力を重ねてようやく生まれた奇跡の苗だ。
元来であるのなら、レーミン領から持ち出す事すらご法度とも言える代物ではあったのだが……この苗をバンブーに寄与し、更に育て方まで懇切丁寧に教えた。
挙句の果てに、小麦が育つまでの約半年間は食料輸入に必要となるお金も負担。
物価高騰を大きく抑え、国内インフレの防止まで行った。
その他、畜産試験場の開設を促し、放牧地を開拓……新しい産業文化を作ると、今度はダム建設計画を推進。
予算はレーミン領の借款ではあった物の、全体の七割をレーミン公爵が持ち……建設には公爵家の建築士を監督とした上で、地元民を建築現場の作業員にした。
つまり、新しい雇用の創出である。
こうして、餓死者が出る寸前だったバンブー国は、単なる自治領の当主により、わずか三年足らずで復興の道を辿って行くのだった。
……と、まぁ。
これはほんの一例に過ぎない。
他でも結構色々やってくれてる公爵様。
おかげさまでレーミン領は、単なる自治領のクセに下手な独立国家の何倍もの資産総額を持っている。
なんでか?
贔屓してくれる周辺国や地域が山の様にいるからだ。
投資をする事で返って来るお金がとんでもないからだ。
返って来る潤沢な資金を次の投資に使う事で、またまた儲かるからだ。
更に困ってる国や地域を救う事で、最終的に利益として自分に返って来るからだ。
情けは人の為ならず……なのである。
与えた情けは巡り廻って自分の元へと戻って来る。
それも、等倍ではなく何倍にもなって戻って来るのだ。
しかしながら、元来であれば出る杭は打たれる物であり、こうもあからさまに儲け捲ってウハウハな自治領があったのなら、帝国が黙って見過ごす筈がない。
当たり前の当然の様に、呼吸するレベルのナチュラルさで「テメーは帝国内でなに金儲けしてんの? 諸馬代払えや! ゴルァァァァッ!」って、感じで帝国の人間が重税を掛けて来るが、ここはなんと「武力で解決」していたりもする。
彼がここまで周辺国や地域に貢献出来るだけの資産を生み出す事が出来た切っ掛けとも言える存在……名も無き邪神の存在によって。
最初は名前がなかったのだが、無いと面倒だったので「レン」とナーザス公爵が命名している。
この邪神こそが、こないだのクエに出て来た黒髪の少年でもある。
公営盗賊団とか言うアホみたいな組織を壊滅し、内部調査を行っていた時に雄太や亜明を襲った、自称リリアの弟がそうだ。
レンとは、ひょんなことから出会った。
約十年前の話だ。
当時十四歳だった彼は、習い立ての狩りを楽しんでいた時に見付けた洞穴内にて、なんだか良く分からない像の様な物があったので、特に気にする事なく手に取ったのが出会いの始まりだった。
話しによると、当時のナーザス少年が手に取った像は封印の像らしく、姉と喧嘩した結果……約35年前に封印されてしまった……との事。
テキトーに封印されてしまったらしいのだが、折角だから覇王と呼べる存在が触ると開封!……って条件にした模様で、姉は厨二病なのだ……とか、なんとか?
まぁ、ナーザス少年には良く分からない事を言っていたのだが、この出会いによってナーザス公爵は掛け替えのない相棒を手に入れるのだった。