そうだ! 助け合おう!(3)
どちらにせよ、これは雄太にとって大きな安心材料だ。
どう言う理屈で大岩がハリボテと化してしまったのかは分からないが、これで死への恐怖に怯える必要性は全くの皆無となった。
今なら、さっきの大岩をぶつけられても片手で弾き飛ばしてやれる。
思った雄太は、爽やかな愛想笑いを作っては、ゆっくりとムキムキの大男へと近づいた。
「……すいません。申し訳ないんですが、こちらは何処の洞窟でしょうか?」
程なくして、営業スマイル状態で大男へと尋ねてみた。
顧客の安心と信頼を勝ち取る生活を二十年ばかりやって来た、雄太なりの集大成だ。
それでも営業成績は芳しくなかった二十年間の集大成だ。
……脱サラして良かった。
「ウゥゥゥ……ッッ!」
雄太に声を掛けられた大男は、まるで犬みたいな唸り声を上げる。
どう見ても威嚇している犬のそれだ。
良く子犬とかがワンワン・キャンキャンやってるアレだ。
違いがあるとしたら、実際にワンワンとかキャンキャン吠えるまでには至らない。
良く見たら顔まで犬だった。
……いや、あるいは狼だったのかも知れない。
しかし、残念ながら雄太は狼と犬の見分け方を知らない。
これは困った。
彼は何者なのだろう?
犬男なのか、狼男なのか?
間違ったら失礼だろう。
取り敢えず分からないので、その部分は触れないで置こう。
顧客の機嫌を損ねない様な会話を嫌と言う程やって気が故にやっているだろう、果てしなくどうでも良い気遣いがあった。
顔が犬か狼の大男の左手に、さっきと全く同じ様な大岩が握られたのは、そこから間もなくの事だ。
左腕に土色の淡い光が、ゲームのエフェクト染みた感じで仄かに浮かびあがると、数秒後にはエフェクトが消えて大岩が握られる。
まるでゲームだ。
「そう言えば、あの謎女が『これからゲームをしましょう』みたいな事を言ってた様な?」
一連の光景を目の当たりにした所で、雄太は真っ白空間であった謎女の言葉を軽く思い出す。
あの謎女が言った事が正しいとするのであれば、これはゲームの世界になるのだろうか?
「ウォォォォォンンッッッ!」
もし、ここがゲームの世界であるのなら、もうちょっとデバックの管理しとけよ? てか、チュートリアルも用意出来ないの? KОTYにエントリーしちゃうんじゃないのか?……とかって考えていた所で、大男が左腕の大岩を投げつけようと構える。
どうやら、この大男は言葉が通じない模様だ。
そして、吠える様に……と言うか、まんま吠える形で口から飛び出た咆哮は、確実にワンコではなかった。
きっと狼なのだろう。
詳しい事は分からないけど、こんな恰好良く咆哮するヤツが愛玩犬と一緒とは雄太には思えない。
だから狼って事にして置いた。
だって、そっちの方が恰好良いんだもの。