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SEAKINGさん登場 故人を偲ぶ空手家親子

 分かる人には分かる究極の悪ふざけです。

 規約はきちんと読んでいる私です。

 さて、何を以て違反とするのでしょうか?

 

 救命阿ジュウミンア! 救命阿(ジュウミンア)


「義父さん、今、あの人の声が聞こえたような?」

 日本を代表する空手会本部の道場で義父との組手を終えた青年はタオルで汗を拭く。

 青年に声を掛けられた義父はペットボトルの水を喉を鳴らしながら美味そうに飲んでいる。

「何でぇ。お前にも聞こえたのかい? 空耳にしては変だったな。それは『救命阿(ジュウミンア)!』って声か?」

 隻眼の義父は残された右目を嬉しそうに細め、道着の帯を外してから答えた。

「ええ。義父さんも可笑しな空耳が聞こえましたか。あの人さんが必死に助けを求めている感じがして……縁起でもないなって」

 汗を拭き終えた青年は軽く苦笑する。

 古の剣豪との死闘の末に散ってしまった故人が不様な声を挙げて助けを求めるなど、青年には考えられなかった。

 一瞬でもその様な無礼極まり無い空耳を聞いた事を青年は強く恥じる。

「何やら落ち着かないってか。確かに虫の知らせにしては妙だな。まあ、奴の事だ。あっちに行っても相変わらず闘ってんだろうよ」

 青年は故人から受け継いだ珠玉の右拳を強く握り締めた。

 見つめるその先にある褐色の右腕を左の掌でそっと撫でる。

 今は自分の右腕だが、これは尊敬する男から託されたものだ。

 中国四千年の歴史の集大成が宿る至宝と言えよう。

「腕の調子は良さそうだな。まあ、隻腕のオリジナリティを追求するお前も見てみたかったんだがな」

 嬉しそうにしている青年に義父は揶揄する。

「皮肉は止めて下さいよ、義父さん。大恩あるあの人への真の供養と御老公が仰りましたから。俺はあの人の意志を受け継ぎます」

 義父の言葉に奮起した青年は受け継いだ右腕から神速の正拳突きを放つ。

 その技のキレを目の当たりにした義父は軽く「ひゅ〜っ」と口笛を吹いた。


 その一方で、予定に無い異世界に転生させられたSEAKINGは極度の緊張に襲われていた。

「君達! 服を着るんだ!」

 目の前に広がる光景はSEAKINGが今まで体験した事の無い物だ。

 彼は下着姿になった麗しき女性達に囲まれていた。

 SEAKINGの後ろには彼女達が膨らませたエアーベッド。

 これより寝技を教授するつもりであったSEAKINGではあるが、ここでの修練の仕方は下着姿で行うものなのであろうか。

 郷に入りては郷に従うのもやぶさかでは無かったが、うら若き女性達が肌を露わにするのは完全にSEAKINGの想定外の事であった。

「え〜何でですか? もしかして、SEAKINGさんが脱がしてくれたりしたんですか? それも良いかも。でも、時間がありませんから、お手合わせをお願いします」

 黒い下着姿の美少女がSEAKINGを眺めながら、うっとりとした声を出す。

「き、着るんだ!」

 顔を赤らめ、極力彼女達を辱めないように視線を逸らしながらSEAKINGが叫ぶ。

 SEAKINGの心臓がかつてない程に高鳴っており、呼吸を整えるのにさえ、多大な労力を必要とする。

「もう! SEAKINGさん、優し過ぎ〜ねえ、みんなどうする? 私は我慢出来ないから、このままお手合わせお願いするね」

 彼女達の代表者である黒い下着姿の美少女がジリジリと間合いを詰めて来る。

 地下闘技場で初めて友人と対戦した時、友人もまたゆっくりと間合いを詰めて来た事をSEAKINGは覚えている。

「たくましい筋肉……初めては優しくされたい……でも、SEAKINGさんにはめちゃくちゃにされたい……」

 息を荒げた美少女が迫って来る。

 これはSEAKINGが今まで体験した事の無い闘い方だ。

 どんな強敵にも負ける気は無かった。

 確かに敗北の憂き目を味わう事も彼にはあった。

 しかし、彼、SEAKINGの目の前に立ちはだかる者達は1人を除いて、格闘技経験者は見受けられない。

 されど、ここまでSEAKINGに緊張を強いる者はそうは居ない。


(認めるんだ……彼女達には何かがある。これは本能的な恐怖から来る緊張……彼女達からは絶対的捕食者としての圧を感じる)


 少しの強がりを込めて、SEAKINGは彼女達を鋭い眼光で見つめた。

 ゆっくりと流水の如く身体を動かし、構える。

「では、約束通り、軽く揉んでやるとしよう」

 SEAKINGの不敵な笑みと共に吐き出された言葉は彼女達の脳を破壊した。

 この世界の「揉む」と言う言葉が意味する物をSEAKINGは残念ながら理解に及んではいない。

 当然彼女達もSEAKINGの言葉への答えを返す。

 そう、彼女達はブラジャーのフロントホックを外したのだ。

 その光景を目の当たりにしたSEAKINGは思わず目を瞑る。

「闘いの場で目を瞑る」事がどれ程愚かな事かを知らぬSEAKINGでは無い。

 ただ、この世界の戦闘は彼が今まで経験していないのも確かだった。

 その隙を見逃す彼女達では無い。

 一斉に飛び掛かり、SEAKINGをエアーベッドの上に押し倒す。

 油断と言うには余りにも愚か。

 まるで地割れに飲み込まれるかのように、彼の下半身が見えなくなる。

 SEAKINGは初めて大声で助けを求めた。


救命阿(ジュウミンア)! 救命阿(ジュウミンア)!」


 その魂の叫びは時空を超えて朋友の元へと届くのであった。


 中国武術がまるで通用しないこのクソったれ世界のバトルと言う物をSEAKINGが分からせられる訳に行かない。

 現状、SEAKINGは目を血張らせた麗しい上半身裸の女性達に良いようにされている。

 これは寝技の修練だが、女性達は誰もSEAKINGに関節技や絞技を仕掛ける気配は無い。

 ただ、全身を優しく撫で回すだけ。

 目のやり場に非常に難儀はしたが、SEAKINGは努めて冷静に状況を判断する。

 1人の女性が優しくSEAKINGの右腕を取り、自らの胸部へと誘う。

「さあ、約束通りに軽く揉んで下さいませ」

 蕩けるような声色で女性がSEAKINGの耳元で囁く。

 その時に伝わる柔らかな感触は時空を超えた。

「ん? これは確か? ヤバいな、昨日の女子大生との合コンの名残かよ」

 SEAKINGから託された青年は空手会本部の道場で1人呟く。

 離れ離れになったSEAKINGと青年ではあったが、2人の間は強い絆で結ばれている。

 確かな共感が2人を包んでいた。

 SEAKINGは初めて経験する事態に戸惑いを覚えてはいたが、直ぐに正気を取り戻す。

 と言う訳は決して無く、複数の女性達から揉みくちゃにされるこの異常事態にただ混乱をきたしていた。

「さあ、私達をめちゃくちゃにして下さい」

 リーダーの美少女がSEAKINGに言葉を掛けるが、誰がどう見てもめちゃくちゃにされているのは彼自身だった。

 その言葉に彼は勢い良く立ち上がってみせる。

 クンフー服のパンツはかなり際どいところまでずり落ちてはいたが、取り敢えずは無事と見ても良い。

 SEAKINGには何故自分のパンツを寝技の修練で脱がせようとするのかが理解出来ない。

 しかし、少し思考する事で答えは見つかる。

 そう、この世界において、寝技の修練でパンツは着用しない事に。

 SEAKINGも彼女達と同じく下着姿で寝業の修練に取り組まなければならない事。

 それがこのクソったれ世界のバトルルールであった。

 そして、彼は彼女達に「すまぬ」と声を掛けて走り去る事に決めた。

 羞恥心に染まったSEAKINGでは彼女達の相手は務まらない事に気付いたからだ。

 敵から背を向けて逃げ出す。

 その様な選択をSEAKINGが取った事。

 それが答えであり、決して一筋縄ではいかないこの世界の闘いを物語っていた。

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