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IFストーリー 大園ひろきの選択

ポテチ、コーラ、焼鳥……

 

 魅惑の商品溢れる場所であるコンビニに大園ひろきは想いを募らせていた。

 ひろきは同室の神原翔と「カップ麺って、偶に無性に食べたくなるよね」で大いに盛り上がり、就寝の時を迎えていた。

 ひろきは今日の風呂である事に気付き、ちょっとした計画を立てていた。

 その計画とは護衛達を出し抜き、コンビニでジャンクフードを大量に購入すると言う物だ。

 

 神原翔と大園ひろきの朝昼晩の食事は栄養バランスに優れ、成長に良い物しか提供される事は無い。

 いわゆるジャンクフードの類を提供される事はあり得ないのだ。

 貴族である神原翔は言わずもがなではあったが、平民の自分もジャンクフードを食べる事が出来ない事にひろきは不満である。

 

 卵かけ御飯、お茶漬け、おでん……

 

 食べたい物がどんどんひろきの脳裏に浮かんでは消えて行く。

 ひろきが母親から渡された電子マネーカードは限度額無制限ではあったが、コンビニに立ち寄る事は許されない。

 ひろきの護衛達は交代制であり、休暇の者達は今日の夕飯に居酒屋へ向かい、締めにラーメンを食べたそうだ。

 飲み帰りの彼女達は今頃気持ち良く眠っているだろう。

 ひろきには彼女達が羨ましくて仕方がない。

 ジャンクフードを護衛達に買いに行かせる事はお門違いであり、そのような命令を彼女達は聞き入れるはずも無い。

 護衛達を束ねる筒井七瀬の耳に入りよう物ならば、壮絶なヤキ入れが彼女達を襲う。

 しかし、七瀬は今夜大事な会合があるらしく、3時間程護衛の任から外れている。

 護衛達を束ねる者が不在である事は千載一遇の機会と言えた。

 

(今日、上手くやればコンビニに行ける。近くのコンビニはホテルから200mしか離れてないから、多分大丈夫。2回目の入浴時には露天風呂の勝手口に鍵が掛かってなかった。偶然発見出来ただけだけど、あそこから外に出られたらコンビニでポテチが買える)

 

 ひろきが想像を膨らませれば、膨らませる程にこの計画が上手く行く気がして来る。

 何故、露天風呂の勝手口の鍵が掛かっていなかったのか?

 超一流のホテルのスタッフがその様な凡ミスを放置するであろうか?

 ひろきは何故その事を護衛達に知らせなかったのか?

 七瀬ならば、勝手口の鍵が掛かっていない事に不信感を必ず覚える。

 七瀬は勝手口の施錠有無の確認を欠かした事などは無い。

 開いていたならば、決して偶然であるとは片付けずにあらゆる可能性を考えて対処を行ったであろう。

 しかし、ひろき及び翔と水着を着用しての入浴が許されるのは七瀬のみであり、2回目の入浴時に彼女は会合へと出掛けてしまっている。

 残った護衛達はひろき及び翔の入浴前に浴場の安全確認する事を怠ってしまっており、ひろきと翔が2度目の入浴をした事さえ七瀬に報告をしていない。

 ひろきは七瀬の真似をして、勝手口の施錠確認を行い、そして、勝手口の鍵が掛かっていない事に気付いてしまった。

 これは取り返しのつかない致命的なミスであった。

 彼女達の心には慢心があり、自分達が護衛する以上、何もあるはずが無いと高を括っていた。

 少しずつパズルが埋まりつつあった。

 これは確かに誰かの千載一遇の機会である。

 

→露天風呂に向かう

 何か嫌な予感がする

 

(露天風呂に向かおう。そこの勝手口からコンビニに行こう。行けなかったら、諦めれば良いし。寝汗かいて目覚めたから、お風呂に入ってスッキリしたいって言えば不自然じゃないね)

 

 ひろきはベッドルームの明かりを付け、端末を取り出してから護衛の1人にコールした。

 要件を伝え終わり、満足しながら準備を進めて行く。

 

 俺、電話嫌いって言ったじゃん。確実に……

 

 ひろきの脳裏に何故か翔の声が聞こえて来た。

 翔が何故電話が嫌いだったのかをひろきは不思議と思い出せない。

 それが警鐘である事にひろきが気付けない事は最大の不幸と言えた。

 思い出せない事ならば、大した事は無いとひろきは考え、大浴場へと向かう。

 ひろきは翔を起こさない様に細心の注意を払い、物音を立てずに部屋を抜け出す。

 翔はひろきが部屋を抜け出した事に気付けず、寝入っていた。

 ひろきの服装は浴衣姿であり、履物はホテルのスリッパ、端末は部屋に置いたままだ。

 ひろきが自分の靴を履いていたならば、その靴にはGPS搭載の発信機が搭載されていたのに……

 1つまた1つとピースが集まり、パズルが埋まる。

 パズルが埋まってしまう。

 ひろきは護衛の1人とエレベーターを使い、1階の大浴場へと向かった。

 護衛が大浴場の受付に聞くと、利用客は居ないらしい。

 また1つピースが揃う。

 ひろきは護衛と別れ、脱衣所に入ると直ぐに露天風呂を目指す。

 勝手口のドアノブを回すと確かな手応えがあり、カチリと音が聞こえる。

 

(開いてる。やった!)

 

 ひろきは歓喜の声を心で挙げ、ゆっくりと勝手口のドアを開ける。

 そして、そこには1人の女性が立っていた。

 息を荒げ、ひろきを見下ろす女性の姿にひろきは腰を抜かしてしまった。

 

「ひろき坊っちゃま! ああっ! よくぞ御無事で! 良かった! 本当に! 本当に! 七瀬は……七瀬は……誠に申し訳ございません……」

 

 声の主はひろきの良く知る七瀬であり、彼女の周囲には黒装束の者達が倒れている。

 七瀬は泣きながらひろきの胸に抱きついて来たが、ひろきは自分の状況を理解出来ずにいる。

 恐らくは七瀬が黒装束の者達を倒したのだろう。

 普段の優しい七瀬しか知らないひろきは彼女の裏の顔を見たショックにただ震えるだけだった。

 しかし、ひろきは勇気を振り絞り抱きついて来た七瀬の頭の上に両手を優しく乗せる。

 

「ありがとう……。いつも助けてくれて……。本当にありがとう……」

 

 ひろきの声は上擦り、震えも止まらなかったが、七瀬に伝えるべき言葉が言えたと彼には思えた。

 七瀬はひろきの言葉を受け、ゆっくりと顔を上げる。

 激しく争ったのか、頬には浅い切傷があり、泣いた事で化粧も崩れている。

 

「ひろき坊っちゃま……願わくば、七瀬に心配を掛けまするな」

 

 優しい声色の七瀬の言葉と赤心がひろきの心に響く。

 ひろきは七瀬を美しい人だと思っていた。

 ひろきはいつの日か七瀬と一夜を供にしたいと願っていた。

 歪んだ妄想を重ね、欲望を抱いていた。

 その様な下賎な考えを持った事をひろきは深く恥じ入る。

 ひろきが瞬きを忘れて見惚れた七瀬の顔はとても美しく、抱かれた事も心地良い。

 今世の自分よりも2倍以上、前世を合わせて同い歳の七瀬はひろきとは違う大人だった。

 経験も知識も違う七瀬にひろきは憧憬と尊敬の念を抱く。

 されど、それは少し違うと言えた。

 

 そう、大園ひろきは初めて女性を愛すると言う感情を抱いた。

 

 

 

 そのまま寝たら、フラグは立ちまへん。

 あくまでもIFストーリーやで。

 そのまま寝たとして、話は進みましゅ。

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