表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・六畳一間 [短編集]   作者: 六合綾宵
7/13

第七話 六畳一間 転[後編] ~in the after~

第七話投稿いたしました。よろしくお願いいたします。

「何方様でございますか?」


私はドアを開け、型通りの事を云う。例え、相手をしていても、相手は私の事を知らない。それが、彼を招き入れるには必要だと感じた。私の白髪交じりの髪を見て、彼は私のことをこう思うことだろう。50代前半だと。それは見当違いだ。私は未だ、40代なのだから。彼は私の顔を見て云った。


「私は一階の部屋に住んでいる者です。少し聞きたいことがありまして……。昨日の夜、確か1時頃だったと思うのですが。物音が聞えまして」


 何のことだろう。音?私はこの部屋に前から住んでいるが、聞いたことは無い。さて、どうしたものか。


 「そうですか、まだ聞こえるのですね」


 「ん?まだ?」


 彼は私の嘘に食いついた。そんな物音など私は知らないが、あのことに繋げるのであれば丁度いい。


 「恐らく、貴方は個々の不動産屋から何も聞いていないのですね」


 「何のことですか?」


 はぁ、と私はわざとらしく、ため息をついてみる。


 「立ち話は大変でしょう、上がっていってください」


 そう云い、リビングに向かい入れる。そして気づくことだろう。あの部屋の異質さに。あの部屋は人間の感情を歪まされるために、あれから幾つか拵えている。私の壁紙が綺麗な白壁に対し、彼の部屋は紅い壁。私の住む部屋には何も施していないため、築年数が分かる程、古びている。私はコーヒーを用意する。私の分と、彼の分を。彼の分には少量、睡眠薬を仕込んで。


 「さて、何処から話しましょうか。音の原因か、それとも、全てか」


 「全てでお願いします」


 「分かりました」


 さて、誘導は済んだ。あの話をして、どういった表情を見せるか、見物である。

 そう云い、あの出来事を私は語る。一部には嘘を仕込んで。


 「ここが、建造してから、20年が経過したころ、二人の若いカップルが、私の隣の部屋に住んでいました。とても、仲が良く、愛し合っておりました。そして、近々結婚する予定でもありました。そんなとき、男性のほうが、家を出てしまい、行方知らずとなってしまいました。彼女は警察に通報し、捜索願をお願いしたということでしたが、警察は捜索することまではしなかったとのことです。それから、一か月後、彼のほうは、とあることがきっかけとなり遺体となり発見されました。死後、1、2か月程が経過していたとのことで。その遺体は四肢が切り落とされ、和室の押し入れ下に袋詰めして置いてあったとのことです。きっかけというのは、下の階に住む、つまりは貴方の部屋に住んでいた方が、天井から血液のようなものが滴り落ちてくるというもでした。通報を受け、警察はすぐに出動し、二階に行ったとのことです。鍵は開いており、スムーズに入れたとか。警察が突入すれば、そこには、腹の裂かれた彼女の遺体があったとのことです。何故、彼女が亡くなっていたのか。彼女は何故捜索をお願いしたのか。警察の見解では彼女は浮気をしており、彼のいない間に他の男を招きいれて入れた。そして、偶然にも彼が早く帰ってきてしまい、彼と男が口論になり、取っ組み合いになる。そこで男は彼を殺してしまい、遺体を隠すためにばらばらにした。その後、彼女が行方不明を装うため、警察に捜索を依頼する。彼女と男は、ようやく邪魔者がいなくなり、幸せな生活を過ごせるに思えたましたが、彼女のお腹には彼の子供がいました。男は子を落とすよう説得しますが、云うことを彼女はききませんでした。だから、男は彼女を殺しました。子宮には妊娠20週目ほどの子供がいた跡が残っているとのことで。

まぁ、そこまでが、警察の見解ですが」


 「違うのですか?」


 「えぇ、私は違うと考えております。何故なら、私はあの頃からずっと、ここに来ていた男がいたというお話を聞いたことがありません。唯一、その頃から、度々、目撃されているのは彼女の弟くらいなものでしょう」


 「ということは……」


 「その当時は、空き巣の線も考えられましたが、物色跡がないことから私はその兄だと思っております。理由として挙げるのであれば、彼女が警察に依頼した二日前、僅かにぎいぎいという音が聞えましたので。その日は、朝早く、彼女が仕事を行くところを見ていますので、家には彼のほうしかいない。いえ、彼以外に弟がいた筈なのです。ですが、それは警察は知る由はありません」


 「その兄は今……」


 「普通の生活を送っていると思われます。そういえば、兄には何度か、お話したことがありますが、子供の時に出来た火傷の跡が今でも残っているとかで、右手は常に黒皮の手袋をつけているとのことです。実際にはその手は見たことないのですがね」

 



 さて、そんな長いお話を聞かせたころには、ようやく薬は効いてきてようで、すぅという寝息と共に眠りについている。本来であれば、彼に話す必要のないことを話してしまったが、どうせもう目覚めることは無い。そして、話したことには多くの嘘を含んでいる。彼らは愛し合っていたようにも見える。だが、その愛は一方的なものであったのだろう。何故なら、男には他にも女性と関係を持っていたのだから。そして、彼が二人を殺害し、私が遺体を処理した。そのため、警察になど云っていない。行方不明となり、七年が経過したため、現在では死亡となっている。故に事実など彼が殺したという事実のみ。私は彼が何故、黒皮の手袋をつけているのかなど、知らない。ただ、云えることはただ一つ。あの手は既に血に塗れている。そして、私自身もだ。だが、私は人を殺すこと自体、何も思わない。私においては仕事をする上で大切なことなのだがら。

 私は彼をあの部屋へと移動させる。理由は簡単だ。あの部屋は防音設備、処理設備が整っている。あの部屋の壁紙が赤いことには理由がある。それは、使用する者の精神状態に異常を与えることが出来る。また、もう一点。あの壁紙は簡単に剥がせるようになっており、一部には扉がある。それは、私の部屋とあの部屋を繋ぐための扉である。私はその扉を開ければ、そこには階段が出現する。彼を抱えながら、階段を下りる。そして、彼の部屋の扉を開ける。




 彼を浴槽に入れる。彼はすぅという寝息をさせながら寝ている。きっと良い夢を見ていることだろう。浴室にもいくつか細工しておいたが、彼は気づいていないことだろう。浴室の天井には長方形の蓋。蓋を開けると、そこにはおおきな滑車が露わになる。これは、人間を吊るすために用意した滑車である。私は、彼の両足をひもで縛り、吊るした。それは、まるで牛を解体するときのように。

 私はこれから彼の処理をする。私は自室から持ってきた工具入れに手を掛ける。そこに入っていたのは、複数の包丁だ。

 私は包丁を取り出すと、彼が身に着けている服に手を掛け、切り捨てる。全身の肌が露わになる。そして、睾丸に触れた。


「あら、なかなかのものを持っているわね……もしかしたら、既に経験もしているのでしょうね……ふふ、これはまた、価値が高くなるわ」

 

 私は眼で愉しんだ後、彼の頸筋に軽く切った。すると、どくどくと流れる赤黒い液体は浴槽を汚しながら、零れてゆく。血抜きには時間が掛かる。人間は大人くらいになると約6~7L。約1時間ほどかかるだろう。苦労するものだ。

 私はそれまでの間、暇になる。右ポケットから、スマートフォンを取り出し、血抜きが終わるまで、時間を潰した。二曲ほどクラッシクを流していた頃だろうか、彼から電話が来ていた。

 

「もしもし」

 

 男性らしい太い声が、流れた。彼からの電話だ。

 

「もしもし、あら、珍しいわね。あなたから電話してくるなんて」

 

「あぁ、そうだな。特に目的もなく、君に電話することなどしないほうがいいからね」

 

「そんなことないでしょう、別に私たちはただの知り合い。特に問題はないと思うのだけれど」

 

「ただの知り合いか……まぁ、そうとも云えるか。ところで、既に彼を処理したのか」

 

「今やっているわ……ん?何故、貴方が知っているのかしら?」

 

「よく、人の部下を処理していていうものだな」

 

「あら、そうなの?」

 

「白を切るか……まぁ、いい。で、何故、彼にしたんだ?」

 

 彼には事実を話してもいいだろう。

 

「そうね、彼は丁度良かったの」

 

「丁度いい?」

 

 彼にはこの意味が分からないのだろう。

 

「そういえば、云ってなかったね。私、とある料理店でシェフをやっているのよ」

 

「何の話だ?」

 

「いいから、私の話を聞いていなさい……最初は普通の料理店として、経営していたの。御客からはなかなか好評のお店でね。まぁ、私って、一時期はヨーロッパのお店で修行していた頃もあったから。ある日、私はふと、思ったの。今、御客に出しているのは、牧場主が丹精込めて生み出した、宝石のような家畜。その家畜を生み出すために、様々なものを使っている。良い物を食べさせてね。そこで、思ったの。その良い物を食べた家畜の肉が美味しいのならば、その肉を食べた人間はどのような味なのだろうかと」

 

「君は、つまり死体の処理が専門なのではなく……」

 

「そう、私は死体の処理ではなく、素材を選定し、料理店に出しているの。まぁ、お店自体、一見様お断りだから、今のところ、問題は無いのだけどね」

 

「そうか、なら、私の妹も」

 

「そう。彼女の卵巣は塩漬けにして、調理したわ。なかなか、好評だったわ」

 

「君は人間を喰う化け物だったのか……」


「人の事云えないでしょう。貴方だって、彼女の脳を食らったのだから。もう私と同類よ」


「そうかもしれないな」


「で、話は戻るけど、二か月ほど前の三月末に御客から要望があってね。内容はこうだった。『20代ほどの若者。中肉中背の男性を食べたい』ってね。だから、あの部屋を貸し出した。勝手に貸し出して悪かったわ」


「まぁ、いいさ。ちゃんと処理したのなら。ところで、その処理、興味がある。見学させてくれないか?」


「あら、いいの?気分を害すると思うのだけれど」


「問題ない」


「そう、じゃあ、あの部屋で待っているわ」


 そして、電話を切った。



 それから、30分したころだろうか。がちゃりとした音が、玄関から鳴り響く。

 予期せぬ来訪。何故、ここの鍵を持っているのだろう。そして、気づいた。彼には彼女がいることに。さて、どうしたものか。正直を云えば、選択肢は一つだ。


「はぁ、一日に二人の処理なんていつぶりかしら」


 私は、音を立てずに、”六畳一間”へと向かった。


「さー君、どこ?」


 彼女は部屋を慌てた足通りで、隣の部屋の扉に手を掛ける。だが、いない。そして、スマートフォンに手を掛けると、誰かに電話しているようだ。私はその時、瞬時に動ける準備をする。恐らく、既に彼女は彼に何かあったことは分かるはずだ。部屋には強烈な鉄臭い香りが漂っているのだから。だが、問題はなかったようだ。なぜなら、彼女が電話を掛けたのは


「もしもし、あの……課の……に用があるのですが?」


 彼なのだから。さて、電話に意識を捕られているうちに、先手を打つ。


「そうですか。ありがとうございました」


 彼女が電話を切った瞬間、私は手に持っていたナイフの柄を彼女の頸筋に叩き、意識を落とす。彼女の体は意識が落ちたため、崩れ落ちる。私は彼女を抱くようにして、包み込む。その時、血抜き用に使っていた黒皮の手袋ははらりと、床に落ちた。今の状況では取れない。取るのは彼女をあの浴室に持って行ってからでいいだろう。

 

 時間は夕刻。アブラゼミは泣き止み、ひぐらしのかなかなかなかな、という音色へと移り変わっていた。

 

End


and


After Higurashi Cried


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ