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続・六畳一間 [短編集]   作者: 六合綾宵
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第四話 真夜中の撮影 

第四話投稿いたしました。よろしくお願いいたします。

 俺は友人、2人でちょっとした肝試しのつもりで、とある橋に来ていた。ここは有名な自殺橋である。毎週1人のペースで亡くなっているというのだ。そのことから、今では2メートルのフェンスが取り付けられているのだがそれでも、自殺が絶えないという。

 そのことから、俺たちは、自殺の瞬間を撮りに来たのだ。周りからしたら、そんなこと罰当たり、と云うか、自殺する人を止めろという話でもあるのだが。


「録画モードにしたか?」


「あ、うん。しといた」


 俺が運転、助手席にいるのが撮影担当という割り振り。


「もしかしたら、やばいのが撮れるかもしれないな」


「そしたら、サイトにアップしよう。それで、再生回数が稼げるね」


「だな」 


 そんな談笑をする。

 今は11時。よく自殺する時間は日の変わる12時だ。それまでは暇ともいえる。だから、俺たちはコンビニで買ってきたつまみと酒で時間を削る。ちなみに俺はノンアルコールである。法は守らなければな。

 ラジオでもつけておくか。ざざ、ざざざざざざぁ。ざ。


「最近さ、仕事でさ。休みを取るやつが多いんだよ。で、取ったら、そこから音信不通。どうだよ。可笑しくないか?おかげで俺の仕事は増えつつある」


「ご愁傷様としか云えないね。でも、仕事好きなんでしょ」


「まぁな。子供の時から、やりたいと思っていたからな」


「なら、いいじゃないか。僕は毎日大変だよ。解体するときに血が飛ぶし、すぐに綺麗に捌いて新鮮さを保たせないといけないから」

 

 あ、そうか。確か、彼は普段、肉の解体業者に勤めているからな。

 

「確かにな」


「僕の仕事は彼らの夢を断つ仕事だからさ」


「やさしいな、お前は」


「全然だよ。僕はいつか罪を償わなきゃいけないから。僕はきっと地獄に落ちる」


「そんなことない。お前が地獄に落ちるのなら、人間みんな食べているんだから、地獄行きさ」


「そう……だね」 


「いちいち、気にすることないさ。ちゃんといただきます、ごちそうさま、って云っている限り、俺たちは地獄なんて行かない」


「そうだね。確かにそうだ。僕もちゃんと解体するときに云うようにするよ」


「ははは」


少し話を変えてみよう。


「彼女とは順調かい?」


「まぁね」


「朝も昼も夜も仲良くしているかい?」


「いやらしいことはしてないよ」


「まじで?まだ、してないの?」

 俺は話題を晒させないようすぐに食いつく。


「うん、彼女そういうこと、結婚するまで大事にしたい派なんだ」


「そうか。じゃ、キスは?」


「まぁ、そのくらいなら……」


「そこまでか、高校生でももう少し先に行くのにな」


「僕は自分の欲望をむき出しには出来ないよ」


「流石です。理性をコントロールできるのは本物の大人っすね」


『明日の予報は雨時々曇りです。降水確率は……』

 

 突如無音となる車内にラジオが聞こえる。明日は雨か。俺はつまみのするめいかのげそをとるとそのまま口に放り込む。程よい塩味と癖のある香りが口の中に広がる。

 とりあえず、沈黙を中断する。

 

「あと、30分くらいか。にしても、周りに何もないな」

 

 周りは木々がよく伸びているような場所。もう少し行けば、遊園地があるらしいのだが。この辺りには街灯が一つだけ。自動販売機の一つくらい欲しいものだ。


「そうだね。風も強くて、音が不気味だよ」


「だな」


 ふと、視点を橋に戻す。何故か、気配を感じ気になったのだ。すると、目の前には女がいた。髪の長い女。顔は見えない。服装は黒の半袖に丈の長いスカート。正直全身が真っ黒だった。 


「おい、いるぞ!」


「え、あぁ!」


「撮れているか!?」


「撮れてるよ!」


 女はゆっくりとした足取りでフェンスを上る。俺たちがそろそろ自殺を止めないとな。そう思ったときだった。体がまるで金縛りにあったかのように動かないのだ。


「すまん、なぜか、体が動かねぇ。止めに行ってくれ!」


「え、あぁ。あれ、なんで!?動かない!」


「まじか!くそっ、動け!動け、足ぃ!」


 だが、体全体が動かない。意識を集中させれば……ゆびがぴくぴくと動く。だが、それだけだ。動かない。

 女はもう、フェンス上にまで来ている。フェンスは揺れている。そして、目の前で女は落下した。数秒後にはどさっ、ばきっという重複音が聞えた。あぁ、俺たちの目の前で女が落ちたんだ。見てしまった。瞼を閉じてもその光景が焼き付いて離れない。耳にはあの重複音が聞こえるのだ。

 しかし、その後、不可解な出来事が起きた。目の前の視界が歪む。女は録画された映像の如く、フェンス前に出現した。正確には戻ったというべきだった。時間というものが逆再生されたような。そして、またしても、フェンスを上り、目の前で落ちた。そして、また、逆再生され、フェンスの手前に戻る。そして、またフェンスから……


「もう、いい!やめてくれ!」


 友人は悲鳴というに近い声を上げる。これはまるで、拷問のようだった。俺たちが見てしまったから。友人は興奮し、失神した。と同時に俺の金縛りは解ける。俺は友人の体を揺さぶる。


「おい!しっかりしろ!」


 返事はない。完全に落ちてしまったのだ。

 視点を前に戻す。気づいたら、女はいなくなっていた。あの、不気味な映像ともいえる光景は無くなっていた。

 俺は吐き気を催し、外に出る。林に向かい、吐いた。喉を胃液が通り、焼けるような痛み残った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。さっさとこの場から移動しよう」


 そう思い、車に戻る。しかし、


「おい、なんで!?」


 友人がいなくなっているのだ。周りを見渡す。すると、友人はフェンスの上にいた。


「おぃおい!やめろ!それだけは……それだけはやめてくれ!」


 俺は走り、フェンスから友人をこちらに戻そうとする。だが……

 友人は俺の腕を蹴り、前に飛び込んだ。飛び込んだ先はあの場所。女が落ちた場所へ。同じ音が聞えた。そのとき、俺は……。もう、だめだ。意識が遠のいてくる。 ようやく、分かった。彼らは自ら死んだんじゃない。あちら側に呼ばれたんだ!これが自殺橋の由縁なのか。そして、あの逆再生は……

今はそんなこと考えている場合じゃない。俺は車に戻る。まだ、だ。

俺は意識を朦朧とさせながら、車を走らせるのだった。




 気付くと、俺は病室にいた。曰く、車を走らせて、山を下りたは良いが、途中の駐車場で俺が意識を失っているのを近くの住民が発見し通報したという。医者によると、俺は命に別状はないというが。俺は友人について、医者に話し、その後警察に通報した。3時間後、俺の友人の遺体のみ発見された。なら、あの女は一体何だったのだろうか?

 そう思い、俺の車に入っていた動画を見た。そこにはちゃんと女が映っているのだ。それを俺は警察に提供し、捜索をお願いした。ところが女の遺体は見つからない。なら、俺たちの見ていたものは…


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