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続・六畳一間 [短編集]   作者: 六合綾宵
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第九話 彼の視線 [前編]

第九話、投稿いたしました。よろしくお願いいたします。

―1年前―


―はぁ……はぁ……


―あれから、3時間が経過した


―人が足を踏み入れないであろう山奥まであれを運んだ


―気づけば、綺麗な夕焼けの空は星の輝く空へと変化している


―もう、彼は冷たくなり、関節が硬直し始めている


―彼をゆっくりと地べたに下ろすと、手に持っていた折り畳みのスコップを使い、一心不乱に穴を振り続けた


―掘り続け、さらに一時間くらいが経過した頃、必要な穴の大きさになると、彼を穴へと放り込んだ


―彼の服からは、見つかったときのため、疑われるものはすべて取り除いた


―携帯電話も、プレゼントしたアクセサリも


―そして、彼の上に土を戻す


―戻すたびに、彼と過ごした日々を思い出す


―彼と過ごした、春夏秋冬


―あっという間の一年間だった


―彼ともっと一緒にいたかった


―けれども、彼が私を裏切ったのだ


―だから、


―だから、後悔はない


―彼を探す彼女が、真実に辿り着き、彼を見つけたとしても




 8時間半の仕事を終え、定時に会社から退出した。電車で30分、駅から20分の所に私の自宅はある。大通りの商店街は、帰宅する会社員と、セールを待つ主婦でごった返していた。私は、人の多いところはあまり好きではないため、細い路地に入る。このほうが、早く帰れる上、無駄な買い物をしなくて済む。昔は彼と私の同僚で、大通りの居酒屋に行っては夜遅くまで飲んだものだ。私は酒にあまり強くないのに、彼に合わせてしまい、よく飲みすぎたものだから、帰りは彼に付き添ってもらいながら、帰宅していたものだ。だが、彼はもういない。1年前の春、彼は失踪した。失踪前日、彼は、誰かにストーカーされていると云っていた。私はそのときは冗談だと思った。一般的にストーカーされるのは、女性だと思っている。だから、彼には気のせいだと、笑って云った。けれども、今、思い返せば、警察にでも、相談していれば、このようなことにはならなかったのではないだろう。失踪が分かったのは、それから、数日後。私とのデートをすっぽかしたときだ。何度も電話をかけた。電話が繋がることはなかった。ラインで何度も、何をしているのか、訊いた。けれども、返信は返ってこなかった。そして、私は彼の会社へと向かった。彼の会社に行くと、受付の近くにいた男性に話をかけた。その男性は黒い手袋を身に着けており、やや不気味な印象が記憶に残っている。その男性に聞くと、思っていたよりその男性は親切で調べてくれた。けれども、調べた結果は「数日前から着ていないらしい。休む旨の電話はなかったようだよ」とのこと。

 1週間後、親族により行方不明届が警察に提出された。警察も調べたが、既に1週間が経過したことにより、防犯カメラのデータ等による捜索はできず、結果、チラシによる捜索もされたが、目撃証言はなし。進展のないまま、1年が経過した。

 そんな、過去を思い出しているときだった。私は後ろから視線を感じ、咄嗟に後ろ振り返る。しかし、


 「なにも……いない?」


 振り返った先には街頭が数本あり、LEDの心もとない小さな光が広がるばかり。気のせいなのだろうか。

 私は、振り返ることを止めると、歩き出す。1つ目の角を曲がった時だった。再び、視線を感じた。反射的に振り返るが、先ほど同じく、なにもない。


 「疲れているのかしら……」


 私は再び、歩き出した。それから数分が経過した頃、あと自宅まで、数百メートルというくらいのことだった。ぺたん、ぺたん、という奇妙な音が、私の歩くタイミングに合わせて付いてくる。それが、人間の足跡に似ていると感じたのはそれからこの奇妙な出来事が発生して三度目のときだった。


 私は、三度目の出来事の次の日、仲の良い同僚の女性に打ち明けた。

仲の良い同僚は私より一つ下の26歳で入社においても一つ下である。

 私の話を聞き終えると、すぐに結論づけた。


「よくあるよね、そういうのってさ」


「そうなの?」


彼女にも経験があるのだろうか。だが、聞いていくうちにそれが私の経験した出来事に当てはまらないと気づいた。


 「あるよ、そんなの。細い路地とかは特に。脂のついた中年が私をいやらしい目で見ているの。それから、私の少し後ろで私の歩幅に合わせて付いてくるの。そういうのは、家バレはまずいから、私は遠回りしたりして、まくんだけどね」

 

「そういのじゃなくて……」

 

「あれ?ちがった?」

 

「私の場合、振り返っても、人がいないの」

 

「うーん、人影も?」


「うん、見た……憶えはないかな」


「じゃあ、ちょっと考え方を変えてみよう」


「考え方を……変える?」

「そう!私、そっち方面の専門家、知ってるから行ってみない?」


「専門家?なんの?」


彼女は、口元に弧を描かせ、云った。


「霊能力の専門家だよ」




 休日、彼女に教えられた場所に向かう。そこにあったのは、どこにでもある民家だった。あまりにも普通の民家だったものだか、彼女が教えた場所が間違っているのだと、思ったけれど、表札を見れば、彼女の云っていた場所であるのだと分かった。

 私はチャイムを鳴らす。馴染みのある音が、響いた。ゆっくりと外開きのドアは開かれた。

「はーい、どなたでしょう?」


「あの、友里さんからの紹介で来ました悠那と申します」


「友里……えぇ、話は聞いております。私は霊能力関係を専門に扱っている専門家の赫埼と申します。さぁ、中へどうぞ」


 私は案内されるまま、リビングへと入る。リビングは宗教的な雰囲気があるものだとばかり思っていたが、普通の家庭と変わりのない雰囲気だった。

 彼女に言われ、リビングのソファーに腰を掛ける。


 「コーヒーと紅茶、どちらにします?」

 

 「そこまで、気を使わなくて構いません」


 「いえ、そういうわけにはいきませんよ、大事なお客様ですから。なにより、私自身が飲みたいのです。自分だけ出すのも、おかしなことでしょうから」


 「わかりました。では、紅茶をください」


 それから、数分が経過し、盆にのった、二つのカップ。どちらにも紅茶が入っているようだ。

「 ダージリンティーです。爽快感のある引き締まった渋み、深いコクのある味わいが特徴の紅茶です。タンニンが豊富に含まれており、肌のシミやくすみを防止してくれるそうですよ」


「そうなんですね。紅茶にお詳しいのですか?」


「そんなことはありません、ネットで調べたくらいの浅知恵ですよ」


そして、私はあの奇妙な出来事を伝えた。彼女は真剣に聞き終えると、云った。


「では、質問を三点ほど……一つ目に、貴方は最近、職場、プライベートにおいて、そのような視線を感じたことはありますか?」


 私は悩むことなく、はっきりと答えた。


「ないです」


「では、二つ目、その視線はどのようなものですか?」


「うーん、嫌な視線ではないんですよね……どちらかというと、見守っているような、暖かい……そんな感じの視線です」


「では、最後の質問です。暖かい、そんな視線だと云っていましたが、それは今まで感じたことのある視線で最も近い人物はどなたですか?」


 私は、その視線に近い人物を思い浮かべる。そして、それがある人物から感じた視線と同じであることを思い出した。


「……彼氏です」


「それが、答えです」


「え?」


彼女は微笑みながら云った。


「貴方は最初からその視線の正体に気づいていた。けれども、それは違うと心のどこかで否定していたのではないですか?恐らく、それを肯定してしまえば、彼がこの世にいないのだと気づいてしまうから」


「え、どうして、彼が……」


「わかりますよ、貴方のすぐそばにいるのですから」


私の……すぐそばに?


「気にすることはありません。悪い霊ではありませんから。どちらかというと守護霊に近いようにも思えます」


私はふっと、力を抜くと、彼女に訊いた。


「その……彼氏は1年前から行方不明なのです。彼はもう、この世にはいないのですか?」


「えぇ、残念ながら。私が能力で感じるのは、死に近い存在だけなのです。故に私が感じ取った時点で瀕死の状態であるか、既に亡くなっている場合のみです」


「そんな……」


「一つだけ云わなければならないことがあります。私が“死”を視認した時点でそれは色づいて現れます。それは死に方によって違います。蒼であれば、病死。翠であれば、事故死。そして、赫は、人による外傷的死……つまりは殺害です。まぁ、他にも種類はありますが、今回はこの三つを挙げさせていただきました。そして、貴方の彼は……赫」


「それは……」


「何方かが、貴方の彼氏を殺害したのです」


「どうして……」


「そこまで、私にはわかりません。それは、貴方が調べるべきことです」


 彼女が云う通りだ。それは、私が調べなくてはならない。彼の死の真相を調べ、必ず、彼を見つけ出してみせる。


 先ほどまで蒼かった空には灰色一色と化し、ぽつり、ぽつりと雨が降り出していた。


 


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