表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

RESPECT HER

裕斗の話です。

蓮と再会したことで、彼の心に光が差したのだろうなと思いながら書きました。実は彼と結ばれる予定だったので、そのパターンもいつか書けたらいいと思っています。

 幼い頃、同じ年の女の子と遊んだ記憶がある。顔も名前も忘れてしまったが、黒髪で、和服を着ていたことだけは覚えている。

 白野が変わったのは、母が亡くなってからだった。幼かった裕斗は白野に引き取られ、絵を教えてくれた。

 この時、白野は既に歪んでいたのだろう。しかし、幼い裕斗はそれに気付かなかった。気付かないまま、盗作され続けた。

 成長し、裕斗はおかしいと思い始めていた。しかし、そんなわけないと目を逸らし続けた。兄弟子の一人が自殺してしまっても、先生のせいではないと恐怖を抑え込んだ。

 ある日、久重に聞かれた。「逃げたくないのか」と。

「……逃げられるものなら、逃げ出したい」

 口をついて出た言葉は、そんなものだった。期限に間に合わなかったり、イライラしていると怒られ、殴られる生活から逃れたい。

 だが、裕斗は中学生である上に身寄りがない。このあばら家から出ることなど、不可能なのだ。

 最後の兄弟子がいなくなり、裕斗はたった一人であばら家に住み込んでいた。

 高校に入り、裕斗は一つの作品を描き上げた。

 ――こんな理不尽、やってられるか。

 「秋の森」と題された作品は、いつものように白野の作品として展示されることになった。


 ――それは、偶然にして必然の再会だった。

 凛条高校の制服を身にまとった金髪の女性を追いかけていると、それを阻むようにその少年……いや、少女は出てきた。どこかで見たことのある気がする黒髪の少女はしかし、かの日の和服ではなく凛条高校の制服を着ていた。

 少女――蓮はその日から、風花の護衛と称して良希と一緒に来ることが多くなった。

ある日、「サヤカ」を見せると蓮は「子を憂う母のようだ……美しい……」と零した。師の処女作が褒められたようで、裕斗は嬉しかった。

 しかし、それは母の作品であったことをのちに知った。蓮は本当の「サヤカ」を見た時、「遺された日々の思い出」と言った。

 ――ねぇ、さやかさん。これ、なんて作品なの?

 ――これ?これはね、息子に渡そうって思ってるから何も考えてなかったけど……もしつけるなら、「遺された日々の思い出」かしらね。

 ――どうして?

 ――私はね、多分もう、そこまで永くないの。だから、私が愛した証を残してあげたいのよ。

 そんな会話を思い出す。あれは、この少女と母の会話だったのか。


 白野のオタカラを盗んだ後、個展に行くと変装した蓮の姿を見かけた。

「蓮か。何か気になったことでもあったか?」

 裕斗が声をかけると、蓮は気付いたらしく「あぁ」と横目で彼を見た。

「ちょっと回ってみようと思ってな」

「そうか。ゆっくりしてくれ」

 蓮が見ていたのは、怪盗団に出会う前に描いたあの作品。

「……これ、お前が描いたんだろ?」

 不意に、誰にも聞こえない声で言われた。裕斗は驚いて蓮を見る。

 彼女は笑っていた。なんでもお見通しだと言いたげに。

「言わなくても分かる。この作品が、お前の怒りを、苦しみを、嘆きを教えてくれる。……今まで、よく頑張ったな」

 普通の人には分からないだろう。しかしこの少女は、当時裕斗が抱えていた激情を受け取った。そして、労わってくれた。



 ――俺が君を尊敬するには十分だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ