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北条義時  作者: 恵美乃海
52/70

52 初代執権

 実朝への征夷大将軍宣下と合わせ、北条時政は政所別当となった。大江広元もそのまま政所別当であった。

 政所は財政、一般政務を司る。別当はその長である。


 征夷大将軍である実朝は未だ13歳。また実朝は兄頼家とは異なり政務には関心を持たなかった。

 さらに武芸に才能を示した頼家と違って実朝は武には興味を持たなかった。

 実朝が興味を持ち、才能を示したのは文だった。

 そして実朝は宮廷文化に憧れていたのである。


 当初の13人から人数は減ったが合議制は継続しており、それが鎌倉幕府における最高議決機関ということになろう。が実務を行うのは政所。

 北条時政は、大江広元と並んで内閣首班となったと言えよう。


 そして比企能員の変のあと。

 政所別当の中でも中心となる人物に対する称として、北条時政は執権となった。


 元々は伊豆の小豪族で、頼朝挙兵以降も他の有力な関東の御家人と比較して動員できる手勢も少なかった北条。

 が、鎌倉殿頼朝の正室の父という立場により頼朝治世下において、伊豆、駿河、遠江三国の守護となり経済的な基盤を築いていた時政は、ここにおいて外祖父ということでは同様だが、頼家とは異なり自分の娘が乳母であった鎌倉殿の外祖父ともなり、名実ともに御家人筆頭と言い得る地位に達したのであった。


 そして元久元年(1204)。

 時政は後妻であり、今は正室として遇している牧の方との間の男子、政範の位階を従五位下とした。

(位階を正式に定めるのは朝廷だが、幕府からの要請は、四位あたりから以上の高位であれば政治的交渉も必要であったが、五位以下であれば、幕府の意向はほぼそのまま認められたようである。)


 従五位下は、その時の義時の位階でもあった。

 時政は、16歳の政範を、42歳の義時と同じ位階にした。

 それは北条家の嫡男は政範である、という宣言であったと言い得よう。



 姫の前は義時に対し、しばしば


 ー より一層のご出世を


 という言葉を口にした。

 何より、姫の前が義時の妻になることを決意したのも、御所様、頼朝の


 ー 小四郎はあるいは将来、御家人の一番上に立つ男となるかもしれんぞ


 という言葉があったからだった。



 比企一族を滅ぼすとき、義時が、


 ー 姫の前は、激しく憤るであろうが結局は自分を許すだろう


 そう、心に思い描いたのは、自分が一番上に立つことを望む姫の前の言葉があったことも一因だった。


 姫の前が義時を激しく責めたとき、義時は弁解の言葉として、そのことも言った。


 ー 儂が御家人の中で、一番上に立とうと思えば、比企はどうしても滅ぼさねばならない相手だったのだ。


 と。


 それを聞いた姫の前は、はっとしたような顔をしてしばし黙った。

 が、そのあと姫の前が発した言葉は


 ー 私は愚かでした


 だった。


 姫の前は美しかった。

 が、政治向きの話ができる相手ではなかった。

 義時が、その種の話をしようとすると

 ー そのような細々とした話、私は興味はありません。

 で終わりだった。


 義時は思う。


ー 姫の前が夫の出世を望んだのは、着実な思考に基づくものではなく、妻としてそれが体裁がよく、姫の前の自尊心を満足させることであるから。

 さらには、おのれの際立った美貌を充分過ぎるほどに自覚していた姫の前は、自分の夫は、最も上に立つ男こそ相応しい。と、そう考えていただけなのだろう。そう、比企一族が滅亡するまでは。



 ー あまり見目麗しくないおなごがよい。


 そう望んだ義時の継室となった伊賀の方は、義時の望んだ通りの娘だった。


 姫の前は華麗な美貌ではあったが、黙っていたら人形のようなとでも形容したくなるような玲瓏で硬質な美を持った顔立ちだった。


 伊賀の方は、ひとことで言えば「地味」な顔立ちだったが、20歳という若さもあって、その表情は生き生きと活力に溢れていた。


 そして、伊賀の方は、義時の語る政治向きの話に多大な関心を示した。

 そしてその受け答えも、義時を「ほう」と驚かすものだった。


 ー この若さでよう色々なことに興味を持ち、色々なことを知っておるわ。


 ー 姫の前のことを早く心から消すためだけにもろうた嫁じゃったが、これはよい拾い物をした。


 姫の前と違って話題を探す必要もない。伊賀の方はどんなことにでも興味を示した。


 そして、義時は、初めて見た時は地味なおなごじゃな、としか感じなかったその顔立ちも何やら好ましく感じるようになったのだった。



 ー 父は政範を儂と同じ従五位下にしたか。


 ー では、そのことについてどう思うか、伊賀の方と話してみるか。


父のとった処遇は、父とともに北条の家をここまでのものにした、という自負を持つ義時にとっては承服し難いものだった。


が、このことについての伊賀の方の存念を聞き、どう対処するかを考えるということに何やら楽しげな気持ちにもなる義時なのであった。













 

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