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北条義時  作者: 恵美乃海
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3 九条兼実

九条兼実は、今のおのれの境遇について、思いを凝らさざるを得ない。


兼実は、昨年、三十八歳にして、藤原氏の氏の長者、そして摂政となった。


(作者注 当時の上級貴族は、そのほとんどが、藤原氏です。それ故、その居住地等を由来として、一般的には別の姓で呼ばれるようになります。

藤原氏の中でもその家格により、どこまでの地位に登ることができるかが定められています。


のちに、人臣としては最高の地位である摂政、関白まで登ることのできる五つの家が定められ、五摂家と呼ばれます。

近衛、鷹司、九条、一条、二条です。

九条兼実は、その九条家の祖です。一条、二条は、九条家から派生した家ですので、兼実はその両家にとっても祖となるわけです。


日本には「藤」の付く姓が多いですが、元は、藤原だったと考えてよいでしょう。

伊藤は、伊勢の藤原

加藤は、加賀の藤原

近藤は、近江の藤原

安藤は、安芸の藤原

ということになるのであろうと思います。今の都道府県が旧国名ではどう呼ばれていたのか、日本全国のそれを覚えておけば、歴史物を読むときは便利でより面白さが増すのでは、と思います)


兼実は、その家柄により、十六歳で内大臣に。十八歳で右大臣になった。

その上にあるのは、左大臣、常置ではない太政大臣、そして摂政、関白だけである。

が、兼実は、それ以降、ずっと右大臣に留め置かれた。

上がつかえていたこともある。

が、それだけでもない。


教養を身に付けるのが仕事のような当時の公卿の中にあっても、兼実のそれは図抜けていた。

そして、有職故実、昔からの仕来り、作法に詳しい。

そのことにより重宝がられてもいたが、作法に合わないことを成すものに対しては、すぐに指摘するので、煙たがれてもいたのだ。


兼実は、十六歳の時から、「玉葉」と名付けた日記を執筆している。身辺のこと。世相のこと。そして、有職故実に関すること。様々なことを書いている。

その日記は、公開してはいない。

その内容には周囲の人びとに対する批判も忌憚なく書いているので、公開するわけにはいかない。


面白くないことは、その日記の中で書くだけに留めるよう心掛けてはいるのだが、ついつい表面にも現れてしまうようである。


その兼実が昨年、摂政となったのは、今、鎌倉の地において武家を統べる源頼朝の推挙があったから。

そのことを知って兼実は驚いた。また、おのれが、あたかも関東に通じていたかのように周囲に思われることも恐れた。


兼実は、頼朝と面識があるわけではない。

なぜ、頼朝が自分を推挙したのか、その理由が直ぐには分からなかった。


今、朝廷において独裁的な力を揮うのは、後白河法皇。

法皇は、まつりごとは、摂政、関白以下に任せるということはなく、自らの意志を通されようとされる方だ。


その法皇が、現に、都で武威を揮っていた義経の要請を拒めず、その求めに応じて、頼朝追討の院宣を与えた。

今となってはそれが弱みとなり、後白河は、頼朝の推挙に応じざるをえなかったのである。


これまでの摂政は、時の権力者と通じた者がなっていた。平家一門と結び、木曾義仲と結ぶ。


が、兼実は、政争には関わらないという信条を貫き、いつの時代であっても、自らを中立の立場においた。


政治的な色に染まってはいない中で、最も高い地位にある者。

頼朝が自分を推挙したのはそれが理由であろうと、今は、兼実にも察しがついた。


源頼朝か。

兼実は思う。

自分より二歳年上のその男は、私の今後の人生において大きな関わりを持つのであろう。



何はともあれ、今、私は、人臣第一の権力者。

嫡男の良通は、二十一歳にして、内大臣。

確固たる後継者にも恵まれた。


そして長女。

任子(たえこ)、十五歳になった。

もう結婚させねばならない年齢だ。

なかなかに見目麗しい娘になったと思う。


兼実は、任子を後鳥羽天皇の中宮に、と考えていた。今の自分が持つ力があれば、それは可能なはず。


後鳥羽天皇は、今、八歳。まだほんの子供だ。

任子は、七歳年上になる。


が、至尊の君がまだ大人の体にならない内に、ある程度の年齢に達した乙女をその室に入れることは、これまで普通に行われてきたこと。


任子が後鳥羽天皇の中宮になる、ということは、自然なことのはずだ。


(作者注 摂政は、天皇が幼少などの理由により政務を行うことができないときに、それを執り行う役職。

関白は、最終決裁者はあくまでも天皇という違いがあるようです。

同じ時に、摂政と関白がそれぞれいる、ということはありません。)

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