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北条義時  作者: 恵美乃海
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21 阿津賀志山の戦い

義時が、おのれの将来について思いを馳せたとき自分と同世代でその器量を認め、特におのれの好敵手とみなしていたのは、畠山重忠、三浦義村、葛西清重の三人であった。


頼朝の傍らで、今のやり取りを聞いていた義時は


ー 儂も名乗りを挙げるべきだったか


と思った。


ー 我も武士、いくさ場でのめざましき功名、手柄は得ておきたい。


が、やはり名乗りでることはしなかった。


ー ここでこの三人が大きな手柄をたてれば、その処遇において大きな差がつくことになるやもしれぬ。

しかし儂が、力量を発揮すべきはこのようなことではあるまい。




作戦は成功した。

夜、夜陰に紛れ陣を抜けた七人の武者は、七日の半月の月明かりの中、物見の兵の寝首を掻き、哨戒で起きていた兵もさほどの物音をたてることもなく、全てその命を絶った。一兵も損なわなかった。


七人の中でも、葛西清重は特に手際が鮮やかで、物見の兵の中のほぼ半数は、彼ひとりが害した。

そのことは、後に同行の三浦義村がありのままに証した。


さらにその七人の武者は、自陣に戻り、成功の旨だけ告げると、誰にも断らずに自陣を抜け駆け、馬に乗り防塁を迂回し、七騎にて阿津賀志山の敵本陣を急襲。敵陣を混乱させるという華々しい先陣の武功までたてたのであった。その際も最もめざましく活躍したのは葛西清重であった。


尚、この抜け駆け、先陣を務めていた畠山重忠の郎党が気づき、直ちに注進したが、これを聞いた重忠は、


ー 先駆けんと張り切っているものをとどめるは武略の本意にあらず

と、悠然と見送ったという、


戦後、七人はその功名を賞せられたが、葛西清重は特に勲功抜群として大きな報奨を受けることになる。



 成功の報を受け、畠山重忠が指揮する八十人の人夫は、堀を埋め戻した。


夜が明けて、奥州勢は仰天した。

堀の水が干上がっていた。

さらには、多数の兵により手厚く守られながら、防塁を崩さんとしていた。


三重の長大な防塁。が、堀と同様、短時日での急拵え。堅固なものでは無かった。

熟練の人夫たちは、その防塁の固めの要所を見出し、

さほどの時もおかず、馬が乗り越えるに支障がないほどに突き崩した。


突破口が開かれた。

大手軍の先陣、畠山重忠の軍勢が雪崩を打って奥州勢に襲いかかった。


金剛別当秀綱率いる数千の軍勢が、それを防ぐ。


戦端は開かれた。


畠山重忠の軍勢に続いて防塁を乗り越えた伊佐為宗の軍勢はそこから方向を変え、防備の脇陣、大鳥城に籠もる佐藤基治の軍に、支流の川堀を経ることなく襲いかかった。



堀、防塁破れたり。

との報が、阿津賀志山麓に大木戸(簡易な関所)を置いた本陣、国衡の元に届いた。


ー そんな馬鹿な。

国衡は、仰天した。


堀、防塁にて鎌倉軍をとどめ、時に遊撃の軍をもって襲わせ、いくさを長期戦に持ち込む、との国衡の目論見は早くも破綻した。

もう遊撃の軍の意味はない。


ー 主将が動揺してはいかん。


 国衡は心を鎮め、思いを巡らした。


ー 多賀城とこの防塁の間のそこここに配備した遊撃の軍を糾合し、軍勢を整えて鎌倉と当たらん。多賀城にも伝令を出し、泰衡に多賀城の全軍をもって至急駆けつけよと。

それだけの兵があれば、まだまだ。


国衡は愛馬、高盾黒に飛び乗った。

国衡は相当に肥満した男だったが、高盾黒は、その国衡を乗せ、どれだけ駆けても全く汗をかかない、奥州一と言われた駿馬だった。


秀綱は犠牲にして、ここはいったん兵を引き、遊撃の兵の糾合を待つべきか、と思ったが、程もなく、

金剛別当秀綱の陣は敗れ、秀綱は国衡の本陣、大木戸に駆け込んできた。


佐藤基治の軍も敗れたり、との報も入った。


十日、鎌倉が大木戸に襲いかかった。


遊撃の兵はまだ到着しない。

国衡は、自らの軍勢のみで、襲いかかる鎌倉軍と戦わざるを得なくなった。


鎌倉よりもはるかに少ない軍勢で国衡は奮戦した。激戦は三日に及んだが、国衡は敗れた。


残兵をもって国衡は、出羽方面に逃れた。

が、追撃してきた和田義盛の軍により国衡は討たれた。


味方敗れたり、の報を受けた泰衡は、多賀城を引き払い、平泉に退却した。


国衡があてにしていた遊撃の軍のその多くは、泰衡と行動をともにした。










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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いですね。 それにしても、すごい勢いですね。 私は小食なので、少しづつ読んで行きます。 この先が楽しみです。
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