三話 戦力増強、宵闇と酒(改稿前)
特に語ることはありませんが、今回はけっこう重要な回になりそうですね。
獣人の国を統治する”陛下”という人の元へ案内されたが、それらしい人影は無かった。
リンたちの目の前にいるのは、幼い少女と数人の兵士、そして先程案内してくれた使用人のみである。十二単のような豪華な着物に身を包み、金色の長い獣耳と尻尾を生やしている。身なりがとても良く、陛下の娘さんなのだろうか。
「……? どうしたんじゃ勇者様方? なぜそのような顔をされるのじゃ?」
当の少女本人も、困惑したような顔をする。気まずい雰囲気になってしまった。
それを感じ取ってか、それとも勇者たちの察しが悪いことを見かねてか、使用人である犬の獣人が少女へ耳打ちをした。
それを聴いて納得したように頷いた少女は、コホンと咳払いをしてから話を切り出した。
「えー、妾の名はコヨリという。この国を治める狐じゃ。困惑させてしまったようならすまないの、勇者様方」
コヨリという少女は謝罪しつつ自己紹介してきた。陛下の娘さんという訳ではなく、彼女自信がその陛下らしい。
「あぁ、いえ、こちらこそすいません。まさか、その……ちっちゃい女の子がこの国を治めてるとは思っていなくて」
ハルキがおろおろしながら返した。この異世界に来てからというもの、彼が動揺することが多くて少し心配だが、同時にどこかホッとする。
「ちっちゃいとはなんじゃ。妾はもう七歳じゃぞ」
心外だと言いたげな顔をするコヨリ。
「えっ? 六歳……?」
「まだ子供じゃないですか……?」
ナノカとイズミは衝撃を隠せないようで、顔を見合わせている。実はリン自身も、表情には出していないが、同じくらい驚いている。
「知らないのも無理はないじゃろう。我らの寿命は人間より遥かに短い分、成長が早いんじゃよ。要するに、妾はもう大人ということじゃな」
納得はしたが、一言いいたい気分をぐっと堪える。成長が早いということは、七歳ぐらいになると十分成人と言えるのかもしれない。
「さて、ようやく本題に入るかの。例の、魔王を打ち倒す武器について、じゃ」
コヨリの目付きが変わる。優しいものから、厳しいものへ。それはまさに、国の長としての目だった。
「話は聴いているじゃろうし、先に実物を見てもらおうかの」
それを聞いた使用人が、スっと立ち上がり、すり足で部屋を出る。少し経ってから、彼女は布に包まれた荷物を両手に抱えて戻ってきた。同僚と思われる三人が後ろに着いており、それぞれも包まれた武器と思わしき荷物を抱えている。
「ハルキ様。こちらへお越しください」
使用人がハルキに布の中身を見せる。
それは一振の剣だった。刀身には魔法陣を連想させる紋様が刻まれており、まさに魔法の武器。
それをハルキが手に取る。程よい重さで、微細な魔力が空気中に漂う。
「これは……とても凄い剣だな。少し魔力を送ってみてもいいですか?」
「城を壊さんようにな、ハルキ殿」
試しに魔力を送ると、刀身が淡く光を発する。とても綺麗で、芸術品としか思えなかった。
すると突然、剣に異変が起こる。
「なっ!?」
「えぇ!?」
「嘘!?」
「ッ!」
なんと、刀身の中心部から二つに割れ、クワガタの鋏のような形状に変形したのだ。
「……なんだこれ」
「少しびっくりしたけど、なんと言うか……」
「本当に剣なんですか、これ」
「この機能って必要?」
リンも含め、勇者の反応は微妙なようだ。こんな余計な装飾は、戦いの道具には必要ないのだ。だがこれは、ただの飾りではない。なぜならーー
展開された刀身の空洞から、魔力の光刃がビュンと生成されたのだ。物理で叩き斬る剣から、魔力で切断する魔導剣へ変形した。妙に手の込んだ不思議な一品ではあるが、強く興味を引かれるのは確かだった。鍬形の魔剣とでも呼ぼうか。
他の使用人も、やはりハルキ以外のメンバーの武器を持っていた。
鍬形の魔剣ほどの独特な機能を持つものこそ無かったが、どれも強い魔力が込められていて、戦力を大幅に増強させられるだろう。とても期待できる。
「さて……勇者様方、よく聴いておくれ」
勇者が満足のいくまで武器に触れた後、コヨリはより厳かに口を開く。
「これからの戦いは、より激しいものとなるじゃろう。お主らは、お主らの目的を果たし、後悔しない選択をしてほしい」
一時期まで忘れていた緊張感が背筋を伝う。運命を決める時は、もうすぐそこまで迫っている。
「何かあったら、我らを頼るのじゃ。きっと、何か手を貸してやれるじゃろうしな」
その言葉を締めに、リンたちは部屋を後にし、聖王国に帰還する準備を始めた。
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勇者らは夕方あたりに国を発ったそうで、今はとっくに宵闇の広がった夜である。
ほんの先程まで勇者がいたが、今はすっかり静かになった御前の間。その二階、特に何も無い天守のような部屋で、コヨリは一人酒を嗜んでいた。ツマミも無く、盆の上にあるのは徳利と、小さなお猪口だけである。
窓の外から風が入り込む。少々強めだが、優しく頬を撫でる感覚がする。
一人酒は好きだが、客人が来るとそれはそれで嬉しく感じるものだ。
「んっ……ふう。今宵も酒は美味じゃのう。……そうは思わんか、エストル殿?」
黒い髪に緑の目、特徴的な角を生やした男が、開いた戸の奥に立っていた。
知らない方がいるかもしれませんが、私はTwitterのアカウントから一時的にログアウトしております。理由は大好きなゲームのネタバレを防ぐためであります。
なので、しばらくの間はTwitter上にて頂いた感想に反応を示すことができませんが、必ず目は通します。謹んで読みます。
いつもありがとうございます。
おや? 今回は真面目ですね。