第一話 結界守護者討伐戦
大幅な書き直しを致しました。
具体的に言うと、改稿前は今回で戦う魔物を既に討伐済の状態だったのですが、物語の都合や「戦闘シーンを書きたい!」という欲望により時間を巻き戻しました。要するに某芸人と同じ真似をしたということです。時を戻そうって。
キャラクターの掘り下げは前より上手くできていると思っていますが、いかんせん表現力が無いもので……引き出しの数が少ないというより、開けるための鍵がなかなか見つからない感じです。
期待の有無はお任せしますので、ぜひご覧ください。
澄み渡る空、その中心に浮かぶ”雲”。
この世界の、この景色の美しさを表すにはそれで十分。余計な喧騒も何も無い。
そんな光景を、叢雲晴輝は物語やアニメでしか見たことがなかった。友人たちと呑気に観光でもしてみたいが、少なくとも今だけは、そういう雰囲気ではない。
ふわふわと浮かぶ”雲”から、ハルキを狙って一直線に雷が飛んでくる。それは彼の足元を正確に撃ち抜き芝を樹状に抉った。間一髪で跳躍したことで直撃は免れた。幸いにも連射はできないようで、追い込みをかける様子は無い。
「はあっ!」
”雲”がハルキに目をつけている隙を突いて浅野凛が魔法を放つ。指先に集めた魔力を一気に解き放ち、高熱の炎を生成して弾丸のように射出した。
炎の弾丸がど真ん中に命中した”雲”だが、大した有効打にはならず若干縮小したのみだった。
ハルキたちを敵と判断したのか、”雲”は晴輝たちの目前まで降りてくる。しかも大きさや形が変化している。とうとう”雲”は白く巨大な鯨の姿へ変化した。
「よし、ここから本番だな!」
「それじゃ、作戦通りに」
地上から目測十数メートル程度の高度まで降下してきた鯨の雲──通称”空鯨”。魔王が生み出した凶暴な魔物の討伐が、若い男と女のたった四名のチームによって行われる。
作戦というのは、魔法使いのリンと天羽和泉が魔法攻撃を撃ち込む。その間彼女らを空鯨から守り囮になる役割を、ハルキともう一人、九条菜乃花が受け持つ。ちなみにこの作戦はリンが考案したもので、彼女の作戦は過去に何度も採用された。
空鯨が咆哮し、雲の体から霙みぞれを降らせる。それはみるみる積もり、最終的には鎧を纏った骸骨剣士の形になった。ザリザリと氷の骨をぶつけ合いながら、リンとイズミの魔法攻撃を阻止しようと接近する。その数は十体以上。
「行くぞ、菜乃花!」
「オーケー!」
ハルキとナノカが同時に駆け出す。
ハルキは両手剣で骸骨の頭を叩き割る。そのまま刀身に魔法の炎を纏わせ、骸骨剣士たちを薙ぎ払う。
「一気に行くよ!【瞬雷】!」
ナノカは剣にではなく自身の脚に電気を流し、稲妻を走らせ光のような速さで駆け回る。すれ違いざまに骸骨剣士を斬りつけ、瞬く間に残りを全滅させた。
「凛、和泉! 行けるか?」
ハルキは剣を握ったまま尋ねる。
「勿論」
「任せてください!」
二人は掌を合わせ、もう片方の手を雲鯨へ向ける。膨大な魔力が渦巻き、二人の両手が淡く発光する。
「「【 明鏡紫水】!」」
二人の手から螺旋を描くように大量の水が放出される。そのまま勢いを増す水は、さながら光線のように雲鯨へ直撃する。
だが、雲は水の集合体。そんなものに大量の水をぶつけてもただ肥大化させるだけに過ぎない──と思われたが、空鯨はその体から土砂降りの雨を降らした。
大量の水を含んだことで自重に耐えきれなくなり、雲は雨へと変化しその体積を縮めていく。
やがて雲が晴れていき、この"攻略"はクライマックスに突入する。
雲の奥には、空鯨の核があった。両手を組んだような形の心臓がそこに浮かんでいた。艶のないガラスのような光沢を持つそれは、雲鯨のような「特別な魔物」特有のものである。
「計画通りに行くと気分が良いわね、晴輝!」
「あぁ、頼むぞ!」
リンが再び魔法を発動する。土魔法を使い、地面を隆起させて上へと押し上げ、階段のような足場を作り出した。
ハルキはそれに飛び乗りながら、自身の剣に魔法を纏わせていく。しかし骸骨剣士を屠ったときとは異なり、炎以外の属性も使用する。
水、雷、氷、風、土。そして炎を合わせた、ヒトが扱える六つの魔法を全て剣に収束させる。炎の赤、冷気の白、雷の蒼……様々な色が混ざり合い、最終的に白い光へと変化する。
土の階段の最上段に到達し、脚に力を込めて一気に跳躍する。
雲鯨を飛び越えるほどの高度まで上昇し、魔法を纏わせた剣を振りかざす。
「奥義──【極光剣】!」
強大な魔法エネルギーを収束させた光の刃は、ガラスの心臓を一瞬で粉砕した。
原形を失いかけていた空鯨は、身を大きく仰け反らせ雲を放出させる。やがて空は快晴となり、ようやく雲ひとつ無い晴天を望めるようになった。
「ナイス、晴輝」
「そっちこそな、凛」
リンがそう言って親指を立てる。ハルキも同じハンドサインを返す。
「凛! 今回も凄い作戦だったね、流石〜!」
イズミがあらゆる褒め言葉を携えてリンへ抱きつく。
「もう、和泉。そんなことしたら風邪ひくわよ」
「平気だって〜、魔法の火で暖まれるし」
「それにしても、よくあんな作戦思いついたよね」
ナノカがリンに尋ねる。
「あぁ、実はアレもゲームの知識よ」
「前もそうだったよな。一体何のゲームをしてたんだ?」
「さぁ、ね。元の世界に帰ったら、好きなだけ遊ばせてあげるわよ」
「菜乃花先輩も一緒に、でしょ?」
「えぇ!? 私は、別に……クシュン!」
突然くしゃみが出てしまい、ナノカの顔はほのかに赤くなる。
「雨で体が冷えてきたのね。折角だから、ここにお風呂を作りましょうか。もちろん魔法の力でね」
リンがそう言って魔法の力を使う。土魔法で土台を作り、水魔法と炎魔法で湯を貼る。
そんなこんなであっという間に簡素な露天風呂が完成した。
「はぁ、魔法の力は凄いなぁ。俺ももっと使えるようになりたいんだけどな」
「晴輝くんは十分凄いと思うよ? さっきの技も、私たちには真似できないよ」
「そう、か。そう言ってくれると嬉しいよ」
「ふふ、どういたしまして」
「それじゃあ晴輝、私たちがお風呂に入っている間、服を乾かしておいてね」
そう言いながら既に湯船へ浸かっているリン。土の台の上には彼女が着ていた服が綺麗に畳まれていた。
「えぇ!? 俺も入りたかったのに!」
「レディーファーストよ」
「……はぁ、しょうがない。とりあえず弱めた炎を使って……」
「ストップ! 自分たちで乾かすから! 晴輝くんはここで待ってて! ここから動かないで! そして凛ちゃんも! 男の子相手にそんなことしたら……」
慌てた様子のナノカが必死に制止する。そのまま逃げるようにリンの方へ向かって行き、風呂の土壁へ姿を消した。
「菜乃花先輩、可愛いですね〜」
「かわっ!? もう和泉ちゃん! からかわないでよ!」
ハルキはその会話を全て聞いていたが、特に思うところは無く「仲が良いな〜」程度にしか思っていなかった。
如何でしょうか。
キャラクターたちの個性がよく表せたと思うのですが。いやはや昔よりセリフを多くするよう心がけてから、自然と自分の中でキャラクターが完成していった、という感じですね。
ナノカの初心な感じ、リンのクールな感じ、イズミの……彼女は何と表現すれば?
まぁとにかく、キャラクターに着目して読んでいただければ。それが私の欲張りな願いでもあります。
なんか語っちゃったね。前はこんなに書くこと無かったのに。