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その果ての始まり 5

皆の元へと送り届ける役をかって出たのは小さき女神。

私は女神の()()()恩恵。だと。

(わたし)のほぼ全ては眠りについたわ。もう大した力はない。

私はただの象徴に過ぎず、行く末を見守ることしか出来ない」

小さな、少女の女神が言う。


「眠っただけなら何れまた目覚めるのだろう?」

そう言ってたじゃないか。と、ラインハルトが問えば、女神は小さく頷いて。

「目覚めるわ。 でもそれは、全てが終わる時。

魔王があの剣に封印を掛けた、それは女神が望んだこと。彼が亡くなる時にそれは解けて、同時に女神にも終わりが来るの」

「───!?」

「対なる者はその終焉も同じ。その時には私も完全な象徴となる」

淡々と告げる少女。


「──それはっ・・・」と。


続けようとした言葉を飲み込んで、ラインハルトはまだ剣の前に跪く魔王を見る。

ここからでは彼の顔は見えない。

見えるのは圧倒的な力を持ってるはずの、たけど何故か小さく見える魔王の背中。


( ヒューブレリオンは・・・全てを承知で・・・)


「・・・・・」

ラインハルトは軽く頭を振って、

「もう、行こう」と、小さな女神の手を取った。





元の祈りの間へと戻ったラインハルトだが、その場に玲音の姿はない。序にいうとレオディアスも。


嫌な予感を覚えて残っている人達の顔を見れば、エレオノーラの姿は見えないが、アイヴァンは同情的な眼差しで、

ヴィレムはバツの悪そうな、これは違う意味だろうが、そんな感じで目を逸らして。

「玲音ちゃんは、あの男前な父親に強制連行されちゃったよ?」

若干楽しげな口調でリュークが告げた。


「───!? ・・・あンの・・・っ!!」

口から飛び出しそうになった暴言を、ラインハルトは拳を握りしめ耐える。


・・・まぁ、いい。

ヒューブレリオンが戻れば、玲音に会えるよう頼めばいい。

多分、断られはしないだろう・・・、多分。

( ・・・でも、もし断られたらどーしよう・・・?)


急に不安になって、黙り込んだラインハルトに、自分の名を呼ぶ声がする。

「──ラインハルト」と少し躊躇ったように。



ヴィレムが、おずおずとこちらに近づいてきて目の前で止まる。

「あのさー・・・」と、

言葉を発した後、しばらく何も言わず。

次に口を開いて出てきた言葉は、

「・・・・玲音を、迎えにいくのか?」

明らかに言いたかった事とは別の事だろう。

そんなヴィレムに改めて聞き返す事もなく、

「ああ、もちろん」と答えれば、

そうか。と呟き再び黙ってしまった。


ラインハルトは苦笑する。

「エレオノーラは? 城か?」

そのまま気にせず尋ねれば、

「──え? あっ、ああ・・・、王様に報告に行った」

一瞬詰まりながら答えたヴィレム。

「そうか・・・。 ──じゃあ、行こうか」と肩を叩き、ラインハルトは先に歩き出す。


・・・は?と、状況が読めないのか、立ち止まったままのヴィレムを振り返り、

「全部終わったら、ちゃんと話すって言ったろ?」

お前も行くぞ!とリュークも呼ぶ。

へいへーい。と、いい加減な返事を返すリュークに視線を向けたラインハルトに声が聞こえる。


「───俺は・・・」と、

呟いたヴィレムは、やはり中途半端に暫く黙って俯いたまま。


でも、頭を振り小さく一呼吸した後に、

「──ああ。行くか」と顔を上げた。




「・・・何なのアレ?」

戻って来た自分の執務室で、膝を突き合わし楽しそうに会話を広げてるラインハルトとヴィレムを見て、エレオノーラが呟く。

「んーーー? 男の友情は不変なんじゃない?」

知らないけど。と適当に、入り口の近くのソファーで体育座りで書物を読むリュークが言う。


はぁ。と、ため息をついて、

( 私の出る幕なんて結局全然ないのよね)

エレオノーラはわざとらしく足音を立てながら自分の席へと座った。





「・・・え? ちょっと待って・・、


エルヴィラ様と魔王の孫が玲音で、母親は闇の精霊のエデルトルートって・・・・、え・・・?」


絶句して固まったエレオノーラを見て、

( うん、まぁ、そうなるよね・・・)

ラインハルトにも、その気持ちが解りすぎるくらい分かる。


うん、うん。と頷くラインハルトに、テンション高めでリュークが言う。

「え!?マジ!! 精霊から生まれたってっ!?

うわー、どうなってんだろ・・・? 玲音の体調べてみたい!!」

「それは絶対ダメだ!!」

反射的に声が出る。

「えー、何でさー。 ライライ別に親でも恋人でもないんだから、全然関係ないじゃん? 」

それを言われて、ぐっと詰まる。伝える前に連行されてしまったんだから仕方ないじゃないか。

「お前、忘れてるかも知れないが、レオディアス()が一番厄介なんだぞ?」

「うん、知ってる。 ・・・・大変だね、ライライ」

「・・・・・」

確信犯だな、こいつは。




暫くして、ようやく立ち直ったエレオノーラは、既に冷たくなっているだろう紅茶を一口含んでから、

「結局魔王と・・・、女神はどうなったの?」

「・・・女神は、魔王の側で眠りについたよ」

でも。と、ラインハルトは手のひらを広げる。そこに小さく宿る暖かい光。

「僅かだけども、今は俺と共に在る」

精霊達のこともあるからね。とラインハルトは言う。


「ヒューブレリオンが、魔王が滅びる時にやっと・・・、

女神の望みが叶うんだと思う」

その身に触れ、共にゆくことを。


「・・・・・そう」と、

言わなかった言葉に、エレオノーラどこまで理解しているのかは知れないが静かに呟く。その声は少し羨ましそうに聞こえて、

「君はまだ、触れあえる位置にいるんだよ?」

そう、ラインハルトが言えば、

「位置と立場は違うわ。私は王女よ?」

それは揺るがない。と少し笑いながら言う。


それは他の者が口を挟めるものではないけれど、

頭が追い付けず考えることを放棄したのか、無言を貫くヴィレムの脛を、ラインハルトは蹴り飛ばす。

「──いてぇ!! 何すんだ!?」

脛を押さえてこちらを睨むヴィレムを無視して、エレオノーラに視線を戻し、

「女神はその立場の為に壊れたんだエレオノーラ」

ラインハルトはその身に剣を受け入れて地へと眠りについたエデルガルドを思う。


「・・・そうね・・。 ありがとうラインハルト、心配してくれて」

カップを抱えたままのエレオノーラは少し視線を落として小さく微笑んだ。


「・・・何なんだよ。ったく・・・」

全く理解出来ていないヴィレムは、まだぶつぶつ言っている。それを呆れて眺めながら、

──さて。と立ち上がり、

「俺はそろそろ行くよ」

そう告げて扉へと向かうラインハルトに、

「あっ──、そう言えば勇者の件はどうするの?」

急に思い出してエレオノーラが言う。


ラインハルトは振り返り仲間を見つめて、

「・・・多分、俺が最後の勇者になるんだと思う。女神に、もうその力はないから・・・」

だから、せめて。

「続けるよ、最期まで」



止めると言って、皆を傷つけたクセに

真顔でそんなことを言ってしまったことが、何となく急に恥ずかしくなって、

「ヒューブレリオンともちゃんと話さなきゃいけないだろ? 伝えておくよ」

ラインハルトは早口でそう言って扉に手をかければ、背後から「──待って」と声が掛かる。


振り替えれば、皆立ち上がって、

「私達も行くわ、仲間でしょ」と、そう言った。




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