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その果ての始まり 3

「様をつけろ! 様を!」

メルヒオールが立ち上がり、すれ違い様に言いながらヒューブレリオンの元へ赴くと、

「魔王様、やっと戻られたのですね! 良かった!」と、ラインハルトが今まで見たこともない顔を向けた。


「この人はただ、引き籠ってただけだぞ?」

憮然とした表情のレオディアスが、こちらもあまり見せないような顔で言う。

やはりレオディアスは知っていたのか。と、そう思ったラインハルト。その背後から覗きこんだ玲音が最後に、

「あ、じいちゃんじゃん。ひさしぶりー」と。


そう呼ばれるには全く相応しくないだろう、美しい男に言う。

その瞬間──、


「ええぇぇーーーー!!」と、背後でリュークが大声を上げて、その声にヒューブレリオンが麗しい顔をしかめた。


そして、そのまま向けられた魔王の視線に、リュークの横にいたヴィレムが咄嗟に臨戦態勢をとるが、魔王の、その視線だけで。

隔てる空間に透明な幕が降りた。ヴィレム達を閉じ込めるように。


「──!? 魔王! 何を・・・っ!!」


その行為にラインハルトが声を上げ、だが──、

「話をするのに邪魔なので閉じ込めただけだ」

ヒューブレリオンは何でも無いことこのように言う。

見れば、空間を叩く姿のヴィレムがいて、エレオノーラも何か声を上げているようだが、その音は届かない。


魔王曰く、こちらの声は届くらしく、

ラインハルトは側に寄り、見えない幕に触れながらヒューブレリオンが言ったことを伝えれば、

ヴィレムはより一層、強く叩く動作を繰り返して、エレオノーラは眉間に深くシワを寄せ何か言いたげにこちらを見つめた。


「ごめん、エレオノーラ。 ・・・全部終わったらちゃんと話すから」


その視線を受け、一度うつ向きながらもラインハルトはそれだけ伝える。


目を逸らすことなくラインハルトを見つめるエレオノーラ。その背後から、アイヴァンが彼女の肩に手を置き二言三言何か告げて。

エレオノーラは諦めたように小さく首を振った後、ヴィレムの腕をそっと押さえた。



ラインハルトはそんな仲間達から視線を外して、改めて部屋の中央に立つヒューブレリオンを見る。


「貴方が言ってた俺を助けようとした3つの力とは──、」

魔王に確かめようと紡いだ言葉。


けれどそれは、その息子、レオディアスに寄って阻まれる。

「話の途中悪いんだけど。僕らはそろそろ帰るよ」

その為に来たんだし。と。


どうやって来たんだ?と問いたいとこだが、この男ならどうとでもなるのだろう。

告げた後、レオディアスは玲音の腰に手を回すと軽々と抱き上げて。

不意打ちに、為すすべもなく抱き上げられた玲音は、

「──は!? 何にすんだ!クソ親父!」と暴れるが、体格の良いレオディアスには、玲音の抵抗など意味を為さない。

そして、助けを求めるようにこちらを見た玲音。


でも、ラインハルトは動かない。その方がいいと分かっているから。


そう、全部が()()()()()()()()()()()


そんなラインハルトにレオディアスは一度視線を向けて、小さく笑みを浮かべる。


だけどそんな配慮さえもぶち壊すかのように美しい声が響く。

「嫌がってるのなら止めてやれ」

声と共に放たれる力はレオディアスの足を止めて、「じいちゃん!!」と、玲音が声を弾ませた。


だが、直ぐに魔王の拘束を外したレオディアスが振り向いて、

「全部貴方が蒔いた種でしょう? 僕らを巻き込まないで下さい」

そう冷たく言い放つ。そして、

「──ああ、貴方が足止めするからっ」と、苛立つ声を発して魔王を見た。

その後ろを───。



ラインハルトは、既にそちらに意識を集中させている。

再び部屋に満ちてくる力の流れ。

玲音をこの場から遠ざけることは出来なかったけれど、レオディアスが側にいる限りは問題ない。それに・・・、

この力の流れは今、ただ一人の男に向いている。


怒りだろうか?

そんな突き刺さるような力の流れの中でも平然と佇む男は、

ラインハルトとレオディアスが見つめる方向へとゆっくりと振り返る。その力の大元へと。



微かに光り透ける体。俯いたままの女神エデルガルド。

長い髪が広がり、その顔は見えないが、

輝くような姿だというのに、何故か翳りがその身を包む。


「・・・エデルガルド」

静かに告げる魔王ヒューブレリオン。その声からは何の感情も伺うことは出来ない。


そんな中、ひとつの方向だけを向いていたはずのエデルガルドの力が、全体へと影響を及ぼし始めた。


咄嗟に、背後の仲間へと視線を送ったが、ヒューブレリオンが施した幕は、それからも彼らを護ってくれてるようで。ラインハルトは胸を撫で下ろして、再び前方を見る。

向かってくる力にラインハルトの覚えのあるものも含まれていて。女神の纏う気の中に、魔王が現れた共に姿が見えなくなった守護精霊と聖なる精霊の力を感じた。

取り込まれたのか、それとも元々は女神のモノだ、元に戻ったのか。


ヒューブレリオンは、メルヒオールが庇おうと出てくるのを視線で制して、口を開く。

「女神よ、もう止せ。

貴女の願いが叶うことなどない。それは私を産み出した貴女が一番よく分かっているだろう」

それは冷たいくらい簡潔な言葉。ヒューブレリオンらしいと言えばそうなのだが、

それでは余計に火に油を注ぐことになるのでは?


ラインハルトがそう思った通り、女神の力は更に増した。

自分を護る光の精霊は今はいない。鋭く尖った、礫のように襲ってくる力にフードで身を庇うが、塞ぎきれずにラインハルトを傷付ける。

「───っ!」

目を庇い、挙げた腕を深く抉られて声が漏れる。


そんなラインハルトに、ため息と共に声が聞こえた。「仕方ないなぁ」と。

その直後に、自分に降り注いでいた攻撃が止んで、

「──ライ! 大丈夫?」と、

解放されたのか、駆け寄って来た玲音が言う。


傷口を押さえながら、大丈夫だ。と伝えて。

女神の力が降り注ぐ中を何でもないかのように、尚且つラインハルトと玲音の身を護る為に力を使いながらも、平然と歩いてくるレオディアスに、呆れを通り越して畏怖すら感じる。


レオディアスは魔王の力を受け継いだと言う。ならば、魔王は同等かそれ以上。

現にヒューブレリオンは女神の力の一番本流にいるだろうに何の影響も受けてはいない。



元より、自分では勝てる筈がなかったのだと、為すすべく受けた腕の傷を見下ろす。

(なのに倒そうだなんて思っていたなんて・・・)


「あの人はそういうモノなんだよ」


ラインハルトの心を読んだかのような声に顔を上げれば、いつの前にか横に立つレオディアスが、ラインハルトを見下ろしている。


視線を一度ラインハルトの腕の傷に落とし、塞がってゆく傷を確認してから、今度は魔王へと目を向ける。

「僕は予定外の副産物でしかないが、魔王(あの人)はその為に生まれたのだから、誰も勝てる筈がないし死ぬこともない」

「・・・・・どういうこと?」

玲音が代わりにその言葉を口にする。


レオディアスは目を細めて優しく玲音を見下ろして、

「玲音にはまだちょっと分からないかもしれないな」と言い、何でだよ!と、むくれる玲音の頭を撫でれば、

「子供扱いすんな!」と更にむくれた。

ひとしきり、楽しげに笑ったレオディアスは視線をまた戻して、


「人間には共通の憎むべき『悪』というもの。それか、誰にでも訪れるだろう『死』という概念。

それを持ってして善なるものや、神にすがる。それがプロセス」

静かに話すレオディアスの瞳には、淡く白く光るエデルガルドと黒く佇むヒューブレリオンの二人が映る。

「女神だけでは成り立たない。だから生まれたのが魔王と呼ばれるモノ・・・、


──女神は執着と言っただろう?」


不意にレオディアスがラインハルトを見て尋ねる。

(・・・どこまで、知っているんだ? この人は・・・?)

レオディアスには話してないはずだ。

頷いたラインハルトに、片頬だけ器用に引き上げて、笑みを刻んだレオディアスは、

「会ったのだろ、()()に。


何の為に生み出し、何の為にその力を与えたのか。

彼女の執着は強過ぎて、その意味さえも忘れさせてしまったんだよ」

そう皮肉げに言う。


「・・・・怖いよね、深い思いというものは」

低く囁くように告げられたレオディアスの言葉。その意味を、正確には理解出来ない。でも──、


ラインハルトは玲音を、その向こうにいる二人の姿を静かに見つめて、


( だが、女神は・・・)

あの時の女神はそんなことを言ってはいなかった。もう少し純粋な・・・。


どこかから、何かが狂ったのだろうか?

深い思いの果てに・・・。

「・・・・怖い、か・・・」

ラインハルトは誰にも聞き取れないくらい小さな声でそう呟いた。


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