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儚いモノものよ 7

扉をくぐった途端に、ラインハルトはひどい頭痛に襲われた。ギリギリと締め付けるような痛み。

ラインハルトの顔色にアイヴァンが心配気な顔でこちらを見るが、頭を振って大丈夫だと。


進むに連れてその痛みは酷くなるが、まだ大丈夫だ、耐えられる。だけどそれよりも、

「・・・何故、誰もいないんだ?」

ラインハルトも思っていたことをアイヴァンが口にする。


「やはり、おかしいのですか?」

「もともとそんなに人は多くはないが、人の気配が・・・」

「感じられないですね」

重いの静寂の中から人の気配をたどって、ラインハルトが代わりに答える。

───罠・・・だろうか?


だが、罠だとしてもそれは同じこと。玲音がここにいるならばそんな事はどうでもいいことで。


先を歩くアイヴァンが廊下の一番奥の扉の前で止まった。振り返りラインハルトを見る。

「ここが祈りの間だ」と。


ラインハルトにも、ここは微かに記憶がある。

10年前、信託を受け初めて女神エデルガルトと対面した場。

あの、初めての言葉を受けたのがここだ。

アイヴァンが開けた扉の中は薄暗い。その中へと、

ラインハルトは歩を進めた。



踏み込んだその部屋は思ってたよりも暗い。

灯りの場所をアイヴァンに聞こうと後ろを振り替えるが、その姿は見えなくなっていて。その上、今入って来たはずの扉すらない。


「ローマン公!?」

ラインハルトの呼び掛けに、返ってくる返事はない。

(・・・またか)

懐かしい既視感がラインハルトを襲う。

(こんなことをしてる場合ではないのに!)


そんなラインハルトの苛立ちを感じ取ったのか、背後から一筋の光が暗い空間を分断するように差し込んだ。


「───?」

振り返って見たのは、巨大な二枚扉。先ほどは何も無かったはずなのに急に現れた重々しい扉。

そこに施された装飾は絡み合う二匹の竜。古代文字で刻まれた言葉『驚異なる叡知』

光は、その隙間からラインハルトを照らす。

再び起こる既視感。


「・・・・・これは・・・」


呟いたラインハルトは、人の手では開くことも叶わなさそうな扉に、手を掛け力を込めると、ゆっくりと静かに、その扉は開いた。



あの時のように、玲音の部屋に繋がることもなく。そこは、ただ何もない白い空間。

扉は消え失せ、ラインハルトの足元には暗闇が広がる。それは深淵、とても静かな。


それを静かだと形容するのはおかしい気もするが、今自分のいる場所が、ざわめきに包まれているから余計そう感じるのだとラインハルトは思う。


頭痛はいつの間にか消えている。だが、そのざわめきがやたら耳に付き頭の中に響く。

それは人々の祈りの声、願う声、欲望の声。ありとあらゆる、女神へ向けての声。

ただ、目に映る深淵だけが静かだ。


その立ち尽くすラインハルトの手に、そっと触れるものがある。


「───!?」

ハッと、自分の手を見下ろせば、触れるのは小さな手。

その手の先、淡い長い髪の少女が、横に並び同じくその暗闇を見つめている。

それは、いつか夢の中で泣いていた少女。


「・・・・・彼はここにいるわ」

少女がポツリと呟く。

「──彼?」


問い掛けるラインハルトに答える訳でもなく、こちらを見ることもなく再び呟く。

「彼は唯一、・・・私を求めなかった。


私は───・・・」



私は世界を創世させた。様々なものを創り上げて行く中で、彼は一番最後に生まれたモノ。

綺麗なもの、素晴らしいもの、美しいもの、溢れる輝くモノモノに飽きた私がふと、気紛れで創り出してしまった異端の者。暗く静な漆黒の深淵。


彼は他のモノ共と交わらずに、ただ一人。

交われなかったのは私が犯した気紛れ故の、彼が身につけた絶大な力。異端の力。


私は彼に愛情を注いだ。自らの罪の償いもあるが、それでも最後に生まれた、強く美しい彼をいとおしんだ。

私自身が神話となっても、彼に終わりは訪れることもなく、彼は深淵に一人佇んで。


私が生み出した他のモノ達は、勝手に様々に変化していった。

その変化の中で私が望んでもないモノもいつしか生まれて、

自分達の中から生まれたモノなのに、どうすることも出来ずに力が欲しいと嘆き訴えてきた彼ら。

だから仕方がないので7つの力を生み出し与えた。

その力に追いやられたモノが深淵に佇む彼の回りに集まるのは必然だったのかもしれない。

しかし、彼は変わることはなく、その姿により一層執着を覚えた。


7つの力を生み出した為に、暫く眠りについた私が次に目覚めた時、深淵にいたはずの彼は一歩踏み出していて。

彼の回りには彼を慕うモノが増え、それに対しての感情というものが彼の中で芽生えようとしていた。


焦った私は早く彼をこちらに、この世界でなく私の元に戻さなければと。

そう促したが彼は首を立てには振らなかった。

ならばと。彼を終わらせることが出来る『力を持つモノ』を新たに生み出した。

だけど彼の力は私が思ったより強く、彼が私の元に戻ることはなかった。


何故そこまでこの世界に執着するのか?

それならば貴方の望む世界を創り直せばいいとまで言ったのに、

彼が更に一歩を踏み出して手を伸ばしたのは、私が創り出したモノ達の一人。

貴方が寂しくならないようにと、せめて私を感じられるようにと、

いつか創った、私に似せたのモノの傍系。



「・・・・皮肉なものね」


いつしか、少女ではなく本来の姿へと戻った女神エデルガルトは、変わらず暗闇に目を落としたまま寂しげに呟く。


「───エデルガルト・・・。 女神、玲音を返してくれ」

今言うべきとこでは無いだろうとは思ったが、ラインハルトは敢えてその言葉を口にする。


やっとこちらを向いたエデルガルトは、少し悲しい顔のまま小さく首を振った。

「玲音を連れていったのは私であって、私でないわ。

私は女神(私自身)の執着に負けてしまったの。


・・・・・いえ、違うわね。私が執着(あれ)を切り捨てられなかったから・・・」と、

再び深淵に目を落とす、その深みへと。


ただ直ぐに顔を上げラインハルトを見て、

「私では執着()を止めることは出来ない、執着(あれ)を止められるのは彼だけ。だから、彼を連れ出すわ。

・・・・・それまで持ちこたえてね、ラインハルト」

「・・・?」


どういう意味だと口を開こうとする前に、エデルガルトの手がこちらに伸びて、ラインハルトの額を軽く押す。


力など大して込められていないだろうに、それなのにラインハルトの体は後ろに傾いて、体が宙に浮く。その浮遊感から突如、急降下する体に、ラインハルトは身を硬くしてエデルガルトを見た。

「───!?」


だが、こちらを見ているエデルガルトの顔はどこまでも優しい。

女神を見上げたまま、ラインハルトの体はただ、為すすべもなく落ちていった。





リュークは相変わらず城の資料室に籠っている。

玲音がいたという世界が気になり調べてみたが、どうもここでは何も分からないようだ。


( うーん・・・、魔王が関連してるみたいだから、魔王の城ならあるのかな?)

調べに行けないかなぁー。などと、不謹慎な事を思いながら持っていた本を棚に戻して。そこでやっと、何やら外が慌ただしいのに気付く。

扉を開けて廊下に顔を出せば、兵士達が外の窓を凝視している。


「・・・・・?」

リュークは廊下へと出て、兵士達の背後から同じく窓の外を覗けば、見えたのは黒灰色の竜の姿。

「わーお! エンシェントドラゴン(古代竜)だ! しかも立派な!」


声を上げたリュークは、兵士達を押し退けて窓に寄ると、バンッと窓を開け放ち、引き留める兵士達を振りほどいて窓から身を乗り出す。もっと近くで眺めようと。


その古代竜には男が乗っていた。その酷く男前な男は、開け放たれた窓の音にこちらを見て。

ひいぃー!と、声を上げて兵士達が後ずさる。


「──ん? あれって氷雪のメルヒオールじゃない?

・・・・・何これ? ヤバい状況?」


黒い瞳と目を合わせたまま、こんな状況でもいつもと同じ調子のリュークに、

「こン・・の、クソ馬鹿リューク!! さっさと下がれ!!」


視線の下、階下で古代竜を見上げる形でヴィレムが叫ぶ。

その後ろにはエレオノーラと兵士達の姿も。同じく臨戦態勢で上を見上げている。


「・・・リューク・・?」

そう尋ねるように呟いたのは。


リュークは一度外した視線をまた前方に向ける。再び合う黒い瞳。

「お前がリュークか?」と、

氷のように冷たい整った容姿の、男の口から発せられる言葉。


なるほど、男前は声も男前なのだなぁ。と、感心するようにリュークは頷いた。


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