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陰謀はパーティー会場から 1

身内だけとは言ったが、続々と入城してくる人々を城壁の上から眺めながら、

ラインハルトは再びメルヒオールと会話をしている。

「では、今もヒューブレリオンの足跡も分からないままなのだな」

()()()だ!」と、そこだけは相変わらずのメルヒオール。


「お前と共に消えて以来な・・・。誰も姿を見ていない。

ただ、城の塔に灯る炎が消えていない以上、魔王様は健在だ」

それはこちらに帰って来た時にメルヒオールが言っていたこと。

魔王城の一番高い塔に灯る炎は魔王の命の灯火。ヒューブレリオンが宿す炎は黒銀に輝き、もし魔王が倒されたり、代替わりをすれば新たな魔王の炎が宿る。


「うーん・・・。城内にはまだ魔族の者が残っているのだよな?」

「そうだな。取り囲まれているだけで、双方それ以上何の動きもないみたいだ。ただ結界が妨害して中と連絡も取れやしない」

「じゃあ、例え魔王城に向かったとしてもメルヒオールがいなければ戦闘は避けられないと言うことか・・・」

メルヒオールは近づけず、自分が玲音を連れての戦闘なぞ絶対あり得ない。


「現状では、打つ手無しか・・・」

ラインハルトは呟く。


上半身だけ映し出されている男は、

「まぁ、魔王様の件はこちらで考える。お前は、取りあえずは教会と女神の方だな、玲音様の件もあることだし」

そう言って、腕を組んだままラインハルトを眺めると、


「まぁ、しかし、ちゃんと正装してると勇者だったことを思いだしたぞ」と、

皮肉な笑みを残して通話を終えた。


そう、今ラインハルトは久しぶりに勇者の正装をしている。基本的には騎士の正装と変わりはしないが、いつもはほったらかしの髪も整えられ、服には何だか分からない装飾品が沢山つけられていて、

玲音とは違い綺麗な格好というのがそれほど好きでない自分には、この正装は罰ゲームとしか思えない。


それに、自慢ではないがこの格好の時はやたらと女性に捕まって・・・。

現に、メルヒオールとの会話を終え玲音の元に戻ろうとしたラインハルトは、部屋の前の廊下できらびやかなドレスを纏った集団に捕まった。


「ラインハルト様! おめでとうございます!」

「今宵の主役である貴方様にエスコートされる栄誉を授かった方は何方なのかしら?」

「まだいらっしゃらないのなら、是非私に!」

「あら、ズルいわ! 私も!」

「こういうのは先に言ったもの勝ちよ!」

ああだこうだと、口を挟む隙もない彼女達の会話に、ラインハルトはただ苦笑いしかない。


ここ最近、本当に綺麗な者達ばかりに囲まれていたラインハルトには、目の前の女性達が例え綺麗に着飾っていようが何の感慨も浮かばない。

むしろ、早く玲音の元に戻りたいのに、それを邪魔する者としての認識で。

いい加減終わらない会話に、冷たい言葉が口を滑りそうになる。


だけどその前に、

目的の扉が開いて、中から玲音が顔を出した。


「───ライ? 戻ったの?」

玲音は、廊下のきらびやかな集団にちょっと驚いた後、こちらに気付くと、そのまま廊下へと出てきて、


「どう! 凄くね? やっぱりメルの手作りと違ってめっちゃ凝ってる。高級そう!」と、

やはり水色と紫色でまとめられ、差し色に茶色を使ったふんわりとしたドレス姿で、ラインハルトの目の前でクルリと回った。


その衝撃───。


膝が崩れ落ちそうなるのを何とか堪えたが、

だけど、声を堪えることは出来なくて、

「・・・・可愛いっ!!」


ラインハルトの口から漏れ出た言葉に、玲音は「へへっ」と、はにかんで笑った。



「・・・・何ですの? この子」

「行きなり出てきて・・・」

「ラインハルト様に近すぎですわね」


我に変えると、まだその場に居た女性達のそんな声が聞こえた。


意味は分からないだろうが、微妙に嫌な感じは分かったみたいで、玲音が女性達の方に顔を向ければ、


「────!!」

途端に何も言えなくなる女性達。


そりゃそうだろう。玲音の方が圧倒的に綺麗なのだから、文句など付けれるはずもなく。

押し黙ってしまった彼女達に、ラインハルトは残念そうな表情を作ると、

「エスコートは彼女で決まっているので」と、一応形だけでも謝罪の言葉を口にして、

玲音を伴いさっさとその場から離れた。


「何だかわからないけど、いいの?」

後ろを気にする玲音に、「いいの、いいの」と笑顔で言う。そして、

「あっ、そうそう。 玲音、入場する時は俺に手を重ねてね」

「え? ん・・・、こう?」

「そう!」

先ほどのことなど忘れ去り、満面の笑みで手を取るラインハルトに、玲音が不思議そうに言う。 


「何かライ、凄く楽しそうじゃね?」

「そりゃそうさ。だって絶対一番綺麗なパートナー連れてるんだもん」

「───は!? ・・・・・それって、

・・・俺のこと?」

「ああ、玲音が一番だよ」

玲音を見つめ心からそう言えば、


「ライ、何か変!!」

瞬時に耳まで赤くなった玲音が大きめの声で言った。




城壁の上から見ていたので、ある程度は分かってはいたが、会場はそこそこの混み具合で。

「身内って規模じゃないじゃん・・・」

ポツリと玲音が呟いた。


そんな玲音を引き連れて、この国の代表、国王エーリク三世の元へ向かう。

側にはエレオノーラも居て、視線を合わせ一度頷く。


ラインハルトは、エーリクの前で胸に手を当て体を折る。玲音は先ほど教えた通りに、ドレスを持つ淑女の礼というものをしたようだが、ものすごくぎこちなかった。

まぁ、無理もない。付け焼き刃の上に、そんな世界では無かったのだから。

それはエーリクも、娘から聞いていたのだろう、

「堅苦しい挨拶はよいぞ」と、可笑しそうに笑った。


玲音はエレオノーラに任せて、ラインハルトは王の元に寄ると、エーリクは周りから人を遠ざける。

「エレオノーラから話は聞いている。魔王は消息不明だとな?」

「そうです・・・、申し訳ありません」

「いや、謝ることはないぞ。 取りあえずは無事で何よりだ」

小さくなるラインハルトに、エーリクは笑顔で言う。


「基本的に外敵に関してはエレオノーラに一任しているので、後の流れは娘と決めて貰えれば良い」

が、しかし。と、

「私としては君と娘が一緒になればと思っていたのだが・・・、うん、残念だ」

エレオノーラと一緒にいる玲音に目を向けて、まぁ、仕方ない。と呟くエーリク。


「それ・・・、エレオノーラの前でおっしゃいました・・・?」

ラインハルトが恐る恐る聞けば、

「ああ、酷く嫌な顔をされた」

エーリクは笑いながら言った。


エレオノーラは教えてくれないが、どうやら好きな人がいるらしくて、

パーティーを組んでる以上、自分とエレオノーラのそういう噂はどこでも上がり、その度に彼女は訂正を繰り返して、その会話にはいい加減嫌気が差しているのだ。


ラインハルトはエーリクに再び挨拶して、玲音とエレオノーラの元へと向かう。


そこにはもう一人見知った顔が増えていて、正直見たくない顔だったのだが、男は振り返りこちらに気付くと、

「あっ、ライライ! 久しぶり~!」と、

恥ずかしいくらい大きく手を振った。


近づくのを躊躇うも、側には玲音がいるので仕方なく、

「リューク、うるさい静かにしろよ」

ラインハルトはそう言いながら、男の隣に立つ玲音を引き寄せる。

「あいつは変人だから側に寄っちゃ駄目だ」

「そうなの? でも何か面白そうだよ。それに──、」


「あっ! 今、変なヤツって言ったでしょ?」

こちら側の人には通じないはずの二人の会話に、急にリュークが絡んで来て、


「は!? な、何んだよ、急に!」

「今の二人の会話。変な人?かな、そんな言葉言っただろ!」

どうだ。とばかりの顔をする。


「さっきからさ、俺の言葉に少し反応するんだよね」と、

面白そうな顔で玲音が言う。


( これだから、研究好きな天才肌は・・・)

ラインハルトは顔をしかめると、

「玲音、分かってると思うけど・・・、」

「うん、大丈夫。 余計なことは口にしないよ」

そう頷く玲音。


そんな二人の会話から、少しでも読み解こうと近づいて来るリュークを制止ながら、エレオノーラに尋ねる。

「ローマン公は来ているのか?」

「ええ、先ほど見かけたわ」


ローマン公の名が出た途端に、ショボくれるリューク。

彼が自身の大叔父である男を苦手としているのを知っているので口にしたのだが、

来ているのならば、ローマン公とは一度話しをしなければと、

ラインハルトは混み合う会場を見渡した。




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