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異世界旅行は波乱がいっぱい 5

「こちらに掛けて」

エレオノーラが示した席へ、ラインハルトは玲音と共に腰を下ろす。

そして、彼女は侍女を呼び寄せると、

「ラインハルトは珈琲だったわよね。玲音は紅茶で良いかしら?」

お茶を出す為に尋ねてきて、


「──あっ!! あーー・・・、しまった・・・」

「え、何? 紅茶じゃない方がよいの?」

ラインハルトが急に上げた声に、エレオノーラが再び尋ね返す。


「いや、せっかく貰った珈琲豆を持ってきたのにって・・・」

「落としたの? なら、まだ迷いの森にあるんじゃない? 何なの、それは稀少な豆か何かなのかしら?」

「いや──、・・・うん、まぁいいよ。

──あ、玲音は紅茶にミルクで」

落としたのではなく古代竜ピーちゃんの体に荷物は巻き付けたままで、ラインハルトは何となく言葉を濁す。だが、正直あちらの珈琲に慣れてしまった舌では、こちらの珈琲なぞ飲めたものではなくて、


「やっぱり俺も紅茶で」と、訂正すれば、

「珈琲派の貴方が珍しいわね。誰かの影響かしら」と、

エレオノーラは含み笑いを浮かべて一瞬玲音に目を向けた。

これもまた誤解されてるようで、ラインハルトも苦笑いで誤魔化した。



二度説明をするのもあれだと、ヴィレムも呼び寄せて。

粗方の説明も終わり、冷めてしまった紅茶を入れ直して、

優雅にティーカップを持ち上げたエレオノーラは、驚くこともなく「そう」と呟きカップに口をつけた。


正面に座るヴィレムに至っては開いた口が閉まらないようだ。

「そ、そんな世界があるのか・・・」

その気持ちが分かるラインハルトは深く頷く。


魔王の城から別の世界に飛ばされたこと、玲音が()()()精霊に襲われて、教会が関係してそうなこと等を話し、魔族に関しては伏せておいた。


「教会は貴方が魔王を倒した後、深手を負った為に、自分達の施設で治療を受けているのだと言っていたわ」

「・・・教会が?」

「──ええ。面会を申し込んでも会えないとの一点張りで、調べさせても貴方の姿はどの施設にもなさそうだし・・・。

疑わしかったので貴方が消息を絶った魔王城に向かおうとしていたのよ」

「ああ、なるほど!」

それで国王軍がいたのか。と、ラインハルトは納得する。


「そしたら傷だらけのお前と教会の者がいたわけだ。

しかも自分達が保護してるといっておきながら、偶然見つけたとか矛盾したこと言ってたみたいだしな」と、

ヴィレムが言葉を引き継ぐ。


「そうか・・・」

呟いたラインハルトは、不意に思い出して、

「───そう言えば・・・リュークは?

あいつなら教会とも縁が深いだろう? 何か言ってなかったのか?」


「とはいっても、大分前に教会から破門されたヤツだからなぁ」

うーん。とヴィレムは頬を掻き、

「貴方が居なくなって以降は城の資料室に籠りっきりだわ」

エレオノーラは困ったように眉を寄せた。


リュークという名は、パーティーの最後の一人で、

教会の事実上のトップ、ローマン公の又甥。

誰よりも強い聖なる魔法の使い手だが、教えを守り唱えるより研究や知識を追究する方が好きで、やはり賢者であったエルヴィラと同じ家系だと言える。

結果、その研究を追究するあまり自ら破門を申し出た変わり者だが。


ラインハルトのパーティーに参加したのは『勇者』という研究対象を観察する為。だので、良く背後をつけられたりして、

そうか、今顔を出して来ないのは籠ってるからか。

「・・・後で顔出してみるよ」

全く乗り気じゃなく言う。


そのラインハルトの腕を、横からつんつんと引っ張り、不満顔の玲音が声を掛けてきてた。


「なぁ、ライ、まだ話し続く? 俺腹へったー」

いい加減、分からない会話に飽きてきたのもあるかも知れないが、言うようにラインハルトも少し空腹を感じて。


「そうだな・・・。 玲音、街にでも行こうか?」

「えっ、マジ!? 行く行く!」と、

嬉そうな顔の玲音。それを見て、向かいのヴィレムから声が掛かる。

「ん? 何だ? なんか急に元気になったな、譲ちゃん」


相変わらず勘違いしたままだが、まぁ、しょうがない。

「──あぁ、ちょうど昼だし、街に行こうと思うんだ」

「何だー、腹へってたのか! うん。そうだな・・・・・良し! 俺も行こう!」


声と共に立ち上がったヴィレムを見上げ、

「・・・貴方達、話は終わってないのだけれど?」

エレオノーラが呆れた声で言う。


「腹が減ってはなんたらって言うだろ?」

直ぐに返された返事に、エレオノーラは一度ため息をつくと、

今度はラインハルトへ問い掛ける。

「祝賀会の方は? 中止した方が良いかしら?」


「いや・・・、」

ラインハルトは少し考えて、

「そのまま続行しよう。その方が向こうにプレッシャーを与えられる」と、


出された提案にエレオノーラも頷き、

「・・・そうね。全てがバレているという状況でも開くのだから、向こうにとっては不審感しかないでしょうね。

それに──、身内だからローマン公も来るわね・・・」

少し皮肉げに言う。


無言になったラインハルト。その両脇、元々座っていた玲音と、立ち上がり横へと来たヴィレムから、急かすような視線を受けて、

「・・・・・、あーーー! もう、分かった!!」

そう言って立ち上がると、

「エレオノーラ、夕刻までには戻るから」と伝え部屋を出た。



街に出る前、玲音と似た背格好の侍従の少年を捕まえて服を借り、シャツとズボンの姿になった玲音は物珍しそうに街を眺めている。


「玲音、あまり先々行くなよ。迷子になるから」

先を行く玲音に声を掛けたラインハルトに、並んで歩くヴィレムが残念そうに呟く。

「せっかく可愛い格好だったのに・・・」


「玲音の国では女性でもズボンを履くのが普通なんだよ」

ラインハルトの説明に、ふーん?と怪訝そうな顔をするヴィレム。

でも間違ったことは言っていない。偽っているのは性別に関してだけで。向こうでは、女性のズボン姿は確かに多かったのだから。

まぁ、玲音の先ほどの姿はとても良く似合っていたので、ラインハルトとしても残念なのは確かだけども。



本通りを逸れ、一歩路地を入ったヴィレムのお薦めの定食屋で、

「さっ、今日は俺の奢りだ! 何でも食え!

そんな細っこいんじゃ駄目だぞ、女性はもっとふくよかじゃなきゃ!」

玲音を見てヴィレムが言う。


「何言ってんのかはわからないけど、きっとセクハラ発言だよね?」

その言葉に、冷たく呟く玲音。ラインハルトは苦笑いを浮かべながらも、

「玲音の好みで適当に頼んどくよ」と、店員を呼んだ。


少し待ち、次々と並べられた食べ物の皿を、勢い良く空にしていく玲音を満足そうに眺め、ヴィレムが思い出したように言う。

「そう言えば、お前今、魔法使えないんだろ? 街の教会にでも行ってみるか?」


ラインハルトは食事に集中していた手を止めて、ヴィレムを見た。

封じられてる魔力は教会で女神に祈れば直ぐに解決する案件だ。

しかし、それは必然的にこちらの行動全てが女神に筒抜けになる訳で。それを防ぐ為にレオディアスが施した封印。


街の教会と言えども、大元は同じな上に、その動きに女神エデルガルトが関わっているのかどうか? それがまだ判断できない状況では、今のままの方が動き易いだろうと。


(まぁ、来てそうそう既に見つかってたけどね・・・)

「──いや、後でちょっと魔石屋(マテリアルショップ)に寄るよ」

ラインハルトは言う。


「ふむ。それならマリーンの店がいいかな? 上質な石も多いし。

どっちにしろ、飯を食ってからだな!」

ヴィレムはそう言うと、会話を一旦中止し、玲音に負けじと食事を再開した。





ブルーメシュタットの郊外、なだらかな丘陵に立つ教会の総本部の建物の廊下を、一人の男がゆっくりと歩いている。


男は前方で頭を垂れ廊下の端に控える男達を目に留め、歩みを止めると、

「失敗したようだね? 城からの招待状が届いたよ」

淡いクリーム色の封書を片手に穏やかに言う。


「申し訳ありません・・・、ローマン公」

「いや、別に構わない。 結果は同じなのだから」

「・・・しかし・・!」

「まぁ、そうだね・・・。もう虚実ははっきりしてることだろうから、何ら追究があるかも知れないね」


穏やかな口調を崩さす微笑む男に、ラインハルトの捕縛に失敗した白い服の男は、それ以上は何も言わずただ頭を下げた。


ローマン公と呼ばれた男は視線を外し再び歩き出すと、建物の一番最奥部の扉へと向かう。


その部屋には、こちらを慈しむように見下ろす女神エデルガルトの像が正面に佇み、その視線の下に男は立つと、


「・・・エルヴィラ」

静かに像を見上げて呟いた。


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