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異世界旅行は波乱がいっぱい 4

何度となく訪れている場所なので今さら迷うこともなく、ラインハルトは玲音が連れて行かれたであろう場所へと急ぐ。


ヴィレムが「姫さん」と呼んだ人物は、その名の通りこのヴァイスフリューゲル城の主、エーリク三世の一人娘で。

ヴィレムと同じくラインハルトのパーティーの一人、数多くの精霊に愛されし魔法使い、王女エレオノーラ。


なので玲音が連れていかれたのは城の最奥部、一般の者が立ち入れる場所ではない。

だが、衛兵に止められはすれども、皆ラインハルトを確認すると直ぐに脇へと退いた。

流石に目的の部屋の前に立つ衛兵には止められ、押し問答となったが、


「構わないわ、通しなさい」

部屋の中から聞こえた声によってラインハルトは室内に招き入れられた。



「──全く、不躾ね、ラインハルト」

部屋の主であるエレオノーラが、訪問の挨拶もなく部屋に入ってきたラインハルトに告げる。

手入れの行き届いた金色の艶やかな髪を払いのけ、胸の前で腕を組み厳しい目を向けて。


「玲音は何処に!」

その眼差しに負けずに、ラインハルトが目的である言葉を告げれば、


「何処に・・・?

───貴方こそ今まで何処にいたの?」

凍るような冷たい声が返ってきた。



( こわっ!!)

パーティーの中でも怒らすと一番怖い彼女だ。ラインハルトは背筋が伸びる。

「いや、その・・・、」

「魔王の城から急に姿を消して、連絡もなく、三ヶ月以上も。

・・・一体、何をしていたの?」

「あっ、いや・・・だからっ・・・、

・・・・・」

ヴィレムの時と同じで、簡単に説明出来ることでもなくて、


言葉に詰まったラインハルトに、

エレオノーラは、ふぅ。と一息つくと、

「・・・心配してたのよ、みんな」

少しだけ視線を緩めて言った。


ラインハルトも素直に、すまない。と謝る。

「詳細はまた後で聞くわ。

で、玲音と言うのね、あの娘は。

せっかく綺麗な顔立ちなのに薄汚れて変な格好だったから、今入浴と着替えをさせてるわ」と、

エレオノーラは言う。続けて、


「言葉が通じないみたいだけど、何処の国の娘なの?

しかも、あんなに女性に興味を示さなかった貴方がそんなに慌てるなんて」

そのまま含みのある笑みを浮かべてラインハルトを見た。


これは色々と勘違いされてるな。とは思ったけれども、

勘の鋭いエレオノーラだからと、最悪の事態を想定していただけに、玲音が魔王の関係者であることはバレていなくてホッとする。

言葉が通じなかったことも幸いしたのだと思う。


それならば余計な詮索されるよりは、勘違いされたままの方が都合が良いと、

「出身についてはまた後で話すけど、あの子は俺の片想いの相手だよ」


こちらの言葉ならどうせ玲音には伝わらないだろうからと、気にせずそう告げれば、

エレオノーラは、「まぁ!」と驚いた顔をすると、

「うふふふふ。これはこれは・・・」と謎の笑いを漏らした。


しまった・・・。喋ってはいけない相手にいらないことを言ってしまったかもとラインハルトは思ったが、それは後の祭り。

まぁ、片想いなのは事実だし。と開き直れば、

「今日細やかながら祝賀会を開くので、あの娘と出席なさいな」

エレオノーラがそんなことを言う。


「祝賀会? 何の?」

「貴方の凱旋式よ、急だったので身内ばかりだけどね」

「俺? いや、凱旋式って・・・?」

「魔王を倒したのでしょ?」

「────はっ!?


・・・・いやいやいや、ちょっと待って!

俺は倒してないし、今、魔王は行方不明なはずだぞ!?」


ラインハルトが焦って言えば、

「───?

どう言うことなの? 教会からは貴方が倒したと・・・?」

形の良い眉を寄せてエレオノーラが尋ね返してきた。


「・・・教会──また、か・・・」


彼女が口にした言葉に、今度はラインハルトが眉をしかめる。

どの事柄にも教会の名があがる。やはり今回のこと全てに、教会が何ら関わっていることは確かなようだ。

だが、何故───?


「ラインハルト?」

考え込んだ自分にエレオノーラが視線を向けてくる。

ラインハルトは小さく頭を振ると、改めて彼女に視線を合わせて、

「その事でちょっと話があるんだ──」と、話し始めようとして、

部屋の奥の扉、その向こうが騒がしくなった。



「──ちょ! ちょっと、待って!

何だよコレ!! はっ!? えっ!?」

そんな玲音の声が聞こえてきて、


「風呂もだけど・・・着替えなんて自分で出来るって! 俺の服何処だよ!!」


何となく全てを察して、助け船を出そうと扉へと向かい、手を掛けたラインハルトに、

背後から再び冷たい声が降る。

「──何をしようとしているの? ラインハルト」


振り替えれば先ほどより一層厳しい目付きのエレオノーラ。厳しいと言うより、どちらかと言うと蔑みか?

「え・・・? 玲音が困ってるみたいだし・・・」

ラインハルトがそう言えば、


「女性の着替え中にその扉の向こうへ行くとでも?」

「は? あっ! あーー・・・」

そうだった・・・。みんな勘違いしたままなんだった。


有るべきものがないのならそう思うよな、自分もそうだったし。と、ラインハルトがしみじみと頷けば、


「・・・貴方───まさか!? 

あんなまだ小さい子に・・・!?」

「──へっ・・・はっ!? はあぁぁぁー!!?


な、何考えてんだ!! 俺は! 誰とも付き合ったこともないし!

大体、キスだってしたことないし、そんな・・・、あの・・あれだ、うん! まだ童貞だし!」


動揺したせいで、いらないことまで話してしまい、

「・・・別に、そんなことまで話さなくていいのよ?」

今度は哀れむような目を向けられた。


何だか凄く腑に落ちない・・・。



そうこうしてるうちに、扉の向こうは静かになっていて、疲れた顔の侍女が顔を出した。


「エレオノーラ様、終わりました」

「そう。では、連れてきて」

「でも、あの、その、大変貧そ・・・スレンダーな娘でして、姫様が用意なされたドレスは合わず、少し手を加えさせて戴きました」

「構わないわ」

エレオノーラがそう促せば、侍女は一旦部屋へと戻り、


「何なの? 外に出ろってこと?」

再び玲音の声が聞こえ、薄いブルーとホワイトの細いストライプのサマーワンピースに、その貧相と言われた胸元を隠す為にか、藤色のシフォンショールを巻かれた美少女が扉から姿を現した。


分かってた・・・。あのイベントの時もそうだったのだから。

だけど、分かってたとは言え、

( ヤバい・・・、やっぱり可愛すぎる!)

玲音の姿を見てラインハルトは手で口を塞ぐ。


そんな美少女は、部屋にいるラインハルトに気づくと、

「あっ!! ライ!」

勢いよく飛びついてきて、


「良かったー! 気が付いたら知らないとこだし、言葉も通じないし・・・、マジどうしようかと思った!」

流石に心細かったのか、ラインハルトにガシッとしがみついた玲音。


( ・・・何だろう、この優越感・・・)

自分を頼ってくれる玲音を見て、にやけそうになる口元を手で隠したままのラインハルトは、空いた反対の手で玲音のサラサラの髪に包まれた頭を心ゆくまで撫でる。

こんな事、向こうでしようものなら、レオディアスに酷い目に合わされるとこだが、

幸いここまで男の目は届かない・・・・・はず、なんだけど。


ラインハルトが何となく気になったところに、コホンと横やり入る。

ラインハルト。と、咳払いをしたエレオノーラが声を掛けてきて、

「そろそろ紹介してもらえるかしら?」と、笑顔で言う。


何となく「ああ、すまない」と謝りながら、しがみついたままの玲音の肩に手を掛けて、もう大丈夫だからと。そして、

「玲音、こっちがこの国の王女のエレオノーラ。俺の仲間だよ」

先ほどの貼り付いた笑みとは違う笑顔のエレオノーラを紹介すれば、

 

玲音は、彼女とこちらを交互に眺めた後、

「・・・ふーん。 綺麗な人だね。

───ライの彼女なの?」と、尋ねて。


唐突なその質問に、

「「それは違う!」違うわ!」

ラインハルトと、言葉が通じてないはずのエレオノーラまでもが、今のはなんとなく分かったわ。と瞬時に否定した。


そんな二人に気圧されるように、「そ、そう」と返事を返した玲音。

ラインハルトは自分の片想いを改めて自覚して少し凹む。そんな自分にエレオノーラが再び哀れむような目を向けてきて。


ラインハルトはやはり腑に落ちないものを感じるのだった。

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