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異世界旅行は波乱がいっぱい 2

最後まで不服そうな顔のレオディアスと、にこやかな笑みを浮かべたエデルトルートに見送られて、ラインハルト達は出発した。


本来の姿のピーちゃんなので、ゲートまではそれ程の時間も掛からず、

抜けたその先に見えたのは、朝日に照らされる、どこまでも続く針葉樹林の森。

向こうと季節が同じだったのが幸いに、北方のこの地でも短い夏が始まっているようだ。


「ここってあれだよね? じいちゃんの城の周りの森でしょ?」

「そうですね。 城まではまだ少しありそうですけど」

玲音が落ちないようにと、ピーちゃんに回した手綱を掴んでいるメルヒオールが、腕の間で興味津々に下界を覗き込む玲音に言う。


「俺、城以外のとこって見たことないんだよね。へぇー、何もないんだな」

「人間達の街に出ればもっと賑やかですよ、この森は迷いの森と呼ばれて誰も寄り付かないので」

「ふーん、後で街にもいける?」

「俺では・・・ちょっと無理かもですね」


ラインハルトはそんな二人の会話をただ聞いている。

ゲートを越えてこちらに入って来てから、何だか体に違和感を感じていて、

( ・・・何だろう? )


「──ライ!」

自分を呼ぶ声で、ハッと我に返れば、

「ライってばっ、聞いてた?」

玲音が身を乗り出してこっちを見ていて、


「あ、ごめん。 聞いてなかった」と、謝れば、もう!と怒った顔で、

「後で街に連れてってよ。 何かメルじゃあダメなんだって」

玲音が言う。

まぁ、そうだろうな。と。


街の周辺には大抵、魔物に反応する石碑が設置されている。それは魔族に対してでも。

全ての魔力を封じ込めて人間を装うことは可能だが、それは繊細な作業で、メルヒオールには苦手な分野なのだろう。


そう、レオディアスがラインハルトに施したような・・・、

( ──ん? あれ? そういえば・・・)


何か大事なことを思い出そうとして、

急に右に旋回をしたピアヴォニウスの行動に、その思考は中断する。


「どうした!?」

前方のメルヒオールに確認すれば、

「分からん! ・・・いや・・、あれは・・・?


───!? 捕まれ!!」


メルヒオールの言葉と共に、こちらに迫る巨大な火球を見て、身を伏せピアヴォニウスの背にしがみつく。途端に熱風が両脇を駆け抜けた。

咄嗟にメルヒオールが張った氷の壁に遮られ、火球は蒸発して消えたようだ。


「な、何だよあれ!?」

メルヒオールの腕の中にいた玲音が動揺した声をあげる。


「ラインハルト、場所を代われ! 玲音様を!」

ラインハルトは、渡された手綱を掴みメルヒオールと交代すると動揺して震えている玲音を腕の中に囲い込む。


交代したメルヒオールはピアヴォニウスの背に立つと、下界を見下ろして、

「あの旗は・・・、 


・・・・・国王軍か」

静かに呟き、ラインハルトへと視線を向けた。



国王軍・・・、それは勇者である自分にとっては味方となる軍勢。


ラインハルトは男から視線を外して、腕の中にいる青ざめた顔の玲音を見つめる。

レオディアスの規約の為とかではなく、今の自分は玲音を危険な目に合わしたくはない。


「玲音がいるのだから、戦闘は避けるべきだ。 低空を飛んで一度視界を切って迂回しよう」

そして再びメルヒオールを見て、


「それでも追撃してくるなら、」

──仕方ない。そう告げれば、メルヒオールは無言で頷く。

ピアヴォニウスにもラインハルトの言葉が聞こえていたのか、直ぐ様頭を下に向けると下降体勢を取った。



針葉樹の森ギリギリを飛行する。

細かな攻撃は襲ってくるが、そんなものではピアヴォニウスの体を傷付けることなど出来ない。

強大魔法もこんな低空で放てば、術の施行者含め周りもただでは済まない為、放ってくることはないだろう。


このまま行けば撒けるかと思った時、前方にそびえ立つ岩壁の上に、白い服を纏った幾人かの人影が見えた。

( ──あれはっ!?)


その人影が大きく腕を上げた。

腕の先に掲げているのは装飾された杖。

そこから放たれた白い光が、大きな魔方陣を形取る。


「マズい!! メルヒオール! ピアヴォニウス! 直ぐに旋回を──、」

だがその言葉は間に合わず、ピアヴォニウスごと魔方陣へと飲み込まれた。


途端──、今まで自分の足元にいたはずのピアヴォニウスの巨体と、ラインハルトの背後にいたメルヒオールの姿がかき消えて、


( しまった! やはり今のは聖なる魔法の!)


魔を強制的に退ける聖の魔法。メルヒオールとピアヴォニウスは、何処か遠くに飛ばされてしまった。


しかし、あの魔法は自分達が危機に瀕した時に放つ魔法で、現在逃げている状態のこちらに行う意味はあるのだろうか。

しかも何故、拘束するのでなく退ける選択なのだろうか? と、ラインハルトは思ったが、

そんなことよりも、足場を失った体は落下するのみで。


「うわぁぁあぁーーー!」と、玲音が叫び声をあげる。

ラインハルトは玲音を腕の中に抱きしめると、落下を和らげる為の風の魔法を詠唱した。


───が、何も起こらない。


「──!?」

もう一度試みてみるが、やはり何も起こらない。

こちらに帰って来たはずなのに魔法が使えない? 何故!?


──と、そこで、

先ほど心の中で引っ掛かってたことと、ゲートを抜けた時からの違和感の正体に思い付く。

( そうか! レオディアスが施した術は! )


やっと今、自分が魔力を封じられてることに気付いた。

だがしかし、この状況で!?

ラインハルトは舌打ちをする。目前には既に針葉樹の木々が迫っていて。


玲音は先ほどから声を上げることも無くなったので気絶しているのかも知れない。それだけが唯一幸いか。

ラインハルトは改めて腕の中に玲音を強く抱きしめると、針葉樹の木々に飛び込んだ。


小枝を避けることは出来ないが、太い枝を避け、

途中衝撃を和らげる為にと掴めそうな枝に手を掛けるが、二人分の体重を受けその枝は折れる。

それを何度か繰り返し、途中ガクッと肩が外れるのを感じたが、

それでも腕を伸ばし続け、重なりあった葉の間を抜けるとやっと視界が開けた。


そして、瞬時に反転すると腕に玲音を抱いたまま、背中から地面に叩きつけられた。

「───ぐっ!! かはっ・・!」


大分速度を落とせたとはいえ、その衝撃はかなりなもので、

肋が数本折れただろう痛みを感じたが、女神の加護を受けたこの体は、普通の人よりかは随分と丈夫な為、これくらいで済んだとも言える。


ラインハルトは腕の中の玲音を確認する為、痛みをこらえ身を起こす。

思った通りに意識を失っているようだ。その体には小傷はあれども幸いなことに大きな傷は見当たらない。


ホッと息をつき、辺りに注意を払えば、

遠くにこちらへと向かってくる複数の足音を聞き付ける。

だが、魔力のない今の自分では治療を施し、逃げることなど出来るはずもなく。


国王軍であれば勇者という肩書きを持つ自分なら何とか出来るかも知れない。

そして、玲音に対してはこちらに来る前にちゃんと対策を取ってきたので、


「えー、金髪に染めればいいじゃん? 夏休みだし」

そう訴える玲音に対して、せっかくの綺麗な黒髪を痛めるようなことは絶対に駄目だと、レオディアスとラインハルトが却下を出し、今は濃いグレーの長めのエクステでカモフラージュしている。そして、瞳は紫のカラコンだ。


要するに今は、こちらで言うとこの普通の人間にしか見えない訳で、普通というか完全に美少女な訳で。

腕の中、間近で見る玲音に、こんな時であるにも関わらずドキドキしてしまう自分がちょっと情けない。


足音はもう間近まで迫っていて、近場の木に背を預けるとラインハルトはそちらの方向へと視線を向けた。


しかし、見えた人影は国王軍ではなく、白い服を纏った、

先ほどピアヴォニウスとメルヒオールを排除した、

「教会の、手の者か・・・」

ラインハルトは小さく呟いた。



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