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体育祭は恋のバトル 4

時間を戻して、

ラインハルトとメルヒオールが席を立った後、


「ヒューブレリオンの行方が分からないらしいね?」

ラウルがカミラを気にかけながら尋ねてくる。

気にかけられたカミラは、

「あたしは大丈夫よ。どっかの誰かみたいに、そこまで魔王様バカではないから」

お昼を食べたばかりなのに、部屋にある軽食に手をつけながら言う。


「そうなんだよ、そのどっかの魔王バカも色々動いたみたいなんだけど見つからないみたいだね」

レオディアスもそれに乗っかるように言い、


二人にバカ呼ばわりされるメルヒオールを少し不憫に思うエデルトルート。

「それにしても、本当に心配しないのだな」

のんびりとした様子の男に、呆れたように言えば、

「んー、だってあの人だよ? ほっといても大丈夫でしょ」

僕には君達が居ればいいし。と、レオディアスはこめかみにキスを落としてきた。


「相変わらずだね」

二人の姿を見て言うラウルに、軽く肩をすくめると、

「それで、ラインハルトの件なのだが、あれは女神からの干渉を受けてはいないか?」

エデルトルートは聞きたかった本題を口にする。


「──干渉? それは無理だろう?」

確かに、ここには女神の力は及ばない。だけど、

「あの子からは女神の気配が強いんだ」

初めて会った時から微かに感じてはいたが、ここ最近その気配は強くなった気がする。

彼自信には何の変化も見られないのだけれど。

後、玲音が襲われたということも気になる。

ただ玲音に関しては。


エデルトルートは自分の横に寄り添う男に顔を向ける。

ん?と、いうようにこちらを見て微笑むレオディアス。

何も言わないが、本当は全てを見透かしているのかもしれない。

この男はそれだけの力を持っているのだから。


だから、玲音に関しては心配はいらないのだと思う。

でも、気にくわない。このやり方は、

「エルヴィラの時と同じではないか・・・?」

エデルトルートは拳にぎゅっと力を入れて静かに告げる。


血の海に倒れたエルヴィラの姿。

自分の持つ闇色の髪と違い、輝く美しい白い髪が好きだった。

護らなければいけない存在だったのに。


「・・・エルヴィラ・・」

ポツリと聞こえた声に、エデルトルートは、ハッと、意識を戻す。

そして、その名を呟いたラウルの姿を見て、

「ラウル! すまない! エルヴィラの名を出すつもりは・・・っ」

なかったんだ。と口にしようとしたが、


ラウルは首を振ると、

「いや、別に大丈夫だよ。彼女の名は僕も口にするし。

ただ、君の口からその名を聞くとやはり少し堪えるね」

自嘲気味に笑い、そして、

「・・・こちらこそ、本当にすまないエデルトルート」と、

笑みを消し、頭を下げるラウル。


エルヴィラを喪ったあの時も、同じ言葉を繰り返したラウル。それを、許さない──!と叫んだのは自分。でも、今は、

「ラウル、もうよそう。それは過ぎ去った過去だ。今の私達には現在(いま)がある」

エデルトルートはうつむくラウルの肩に手を掛ける。


「そうだね、エデルの言う通り」

横で口を挟まず話を聞いていたレオディアスはそう言うと、再びエデルトルートのこめかみにキスを落として立ち上がる。

「ということで、僕はちょっと席を外すね」


その言葉に、なんだ?と視線を上げ男を見れば、

「んー、僕の大事な幸せ(いま)を邪魔するやつがいるみたいだからちょっと行って来るよ」

心配しないで。と、ひらひらと手を振り部屋を出ていった。


何の事をいっているのかはわからないけど、

いつもと変わらない、でも自分には分かる少し怒ったような男の姿に、

心配なのは周りの方なのだが?と、エデルトルートはため息をついた。





そしてラインハルトは、


肩でゼイゼイと息を切らすと、

「きっつー・・・っ、最近剣に頼りすぎてたからな、もうちょっと体術も鍛えないと」

地面に伸びた四人の男に目を向けて言う。


そんなことより、速く玲音の元に向かわなければと、二人が逃げ去った方を向けば、

そこに、金髪の少女の姿を見つけた。


「───ん?」

ラインハルトと目が会った少女は、瞬間にくるっと向きを変えると脱兎の如く走り出した。

「えっ? あっ!ちょっと!」

玲音の元へと向かいたいが、何故か少女のことが気になってラインハルトはその後を追う。


逃げる少女、その後ろ姿を見て、

この前のイベントで、玲音が顔見知りだと言っていた少女だと思い出す。

「ちょっと、待ってっ!」

ラインハルトは呼び掛けるが、少女は止まらない。だけど、体力はそれほどないのか、直ぐに息を切らして足を止めた。


肩で息をして、

「ったく、忌々しい! こんな体力もないのかこの体は!」

少女はそう言うと、追いかけて来たラインハルトを睨む。

強く睨むその青い瞳、

「あれ・・・? 君は・・・」

少し前に、道端で自分を睨んでいた少女では?


「え? なんで?」と、問いかければ、

「何故、だと・・・? 何故ではないわ!ラインハルト!」

少女には不釣り合いな喋り方で声を上げる。


「お前は一体何をしている!

勇者でありながら魔族どもと関わり、しかも仲良く暮らしているだと!?」

名前も、勇者であることも承知の少女に、

「──えっ!? あっ君・・・、貴方は?」


「私は、エデルウォルドだ!!」

( ───!?)

少女が答えた名に衝撃を受ける。


エデルウォルドは聖なる精霊の名、向こうでは、ほぼ全ての人が使うであろう聖なる魔法の執行者。

女神エデルガルトに一番近しい者。


だけどラインハルトが知っている姿とは全く違う。

「その姿は・・・?」

「この姿はただの借り物だ。こちらにも聖なるモノに関わる者は多いからな」

だが失敗した。と、

「この体は力も体力もない。一番馴染んだのだけどな」

残念な体だと吐き捨てるように言う。


ラインハルト自身は聖なる魔法、治癒魔法をそんなに使う必要がなかった。

なので、エデルウォルドと関わりになることはあまりない。

だが、こんなに非情な精霊だっただろうか?


「──で、何故お前は向こうに戻らない?

女神が・・・悲しんでいるというのに」


それに関しては、ラインハルトにも言い分はある。

「扉がなくなり、そちらに戻ることが出来ないんだ!」


そう弁明するラインハルトに、エデルウォルドである少女は冷たい目を向ける。

「・・・ふんっ。まぁ、いい。 ならばそれは何とかしてやろう」

そう言った後、ただし──、と続け、

「条件がある。


・・・あの玲音とか言う子供を殺せ」


静かに告げられた言葉に、ラインハルトは、


「何・・を、言ってる・・・? 玲音は全然関係ないじゃないか!」

「関係ないだと? 魔王の孫だと言うのに?」

「でも玲音は人間だ!」

怒りを覚えて声を荒げる。


そんなラインハルトに、エデルウォルドは、はぁ。とため息を吐くと、

「女神の言う通りだな、勇者とあろう者が魔王の孫に惚れるとは」

呆れたように言う。


その言葉に、「──なっ!? 別に俺はっ!」と慌てれば、

「なら、殺せるか?」 

即座に返してくるエデルウォルド。


「そ、そんな殺すとかの話しでなくとも・・・」

言い澱むラインハルトに、

「滑稽だな。向こうでは魔族であれば女子供だろうと倒していたではないかお前は?」

今更だろう。と少女の姿の精霊は言う。


憐れむように言う少女の声にラインハルトはグッと拳を握る。


そんな自分を眺め、

「まぁ、殺せと言うのは冗談だ。 ただあの子供は魔王を捕らえる為の手段にはなる」


そう言ったエデルウォルドの言葉に、

「魔王は倒されたのではないのか!?」

ラインハルトが驚き尋ねれば、

勇者(お前)がここに居るのに、倒すも何もないだろう。 あれは人々を安心させる為に教会が流したデマだ。

ただし、魔王の姿が消えたのも事実だがな」

自分より小さいはずの少女が見下ろすように告げる。


その時──、


「ライ!!」と、こちらを呼ぶ声がする。


振り替えればこちらにやって来る玲音ともうひとつの影。


その姿を見て、

「ちょうど良いではないか、向こうからやって──」

「何がちょうど良いのだろうか?」

エデルウォルドの言葉を遮るレオディアスの声が、ラインハルトのすぐ真横から聞こえて。


「───え?」

慌てて横を見れば、やはりにこやかな笑みをたたえたレオディアスがいる。


( いや、今さっき玲音の後ろにいたはず!?)

ラインハルトが驚けば、エデルウォルドも急に横に現れた男にぎょっとしたように身を引くが、レオディアスが少女の腕を捕らえる。


「離せ!」と腕を振りほどこうとする少女に、

「僕は紳士なので女の子は傷つける訳にはいかないな」と、

軽く額にトンと指を当てれば、エデルウォルドを宿した少女の膝が崩れ落ちた。

レオディアスはその身を受け止めると、はい。とラインハルトに託す。


手を離すと崩れ落ちる少女の体を抱き上げれは、近づいてきた玲音が、

「あれ、こいつ同じクラスのやつじゃん?」と、

ラインハルトの腕の中の少女を覗く。そして、

「──で、何でライが抱き上げてんの?」


「えっ? いやっ、これはっ!」

ラインハルトは説明をと、レオディアスに目を向けたが、

男はにこにことするだけで何も言わず、

玲音は、ふーん。と目を細めてラインハルトを眺める。


( いや、マジ、ちょっと待って・・・)

戦闘と先ほどの会話で疲れているのに、またこのパターンと。

腕の中の少女を落とすことはなかったけど、ラインハルトは可能な限り脱力した。


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