体育祭は恋のバトル 3
玲音の為に作ったメルヒオールの豪勢な五段弁当だったが、
残念ながら生徒達は給食だったみたいで、メルヒオールを慰め皆で美味しく戴いた。
その昼食を終えて、日焼けするからあたしはここにいる。と、
日焼けなどする訳ないのに言うカミラと、
レオディアスも今は動く気がないのか、
「玲音の出番がきたら呼んでくれ」
ラウルと会話をしているエデルトルートの隣から言う。
ラインハルトは玲音と顔を会わせるかも知れないことに、何となく気まずく思ったけれど、仕方ないと、
メルヒオールと共に午前中に場所取りをしていた所へと戻った。
──それにしても、
「随分と外国人の生徒が多いのだな?」
黒髪に混ざる金髪や赤毛、オレンジやグリーン?
奇抜な髪型をした生徒を眺めラインハルトが尋ねる。
「元々ミッション系なのと基地が近いからな、外国人も多いのだろ」
カメラの設定を弄りながらメルヒオールが言う。
よく分からないが、そうなのか。と答えると、グランドで繰り広げられてる演目に目を向けた。
しかし、体育祭という行事も分からないし、目の前で演じられてるダンスの意味も分からない。
玲音もまだ出番ではないみたいなので、メルヒオールに断りを入れ、ラインハルトはその場を離れた。
流石に小中高全てが入っているということで敷地は広く複雑だ。
ヴァイスフリューゲル城までとはいかないが、中庭も沢山あり、その一つ、
大きな木が木漏れ日を作る、雰囲気の良さそうな中庭を見つけて、ラインハルトは足を踏み入れる。
そして、木陰に設置されているベンチへと向かえば、
「──玲音?」
ベンチに座る先客を見つけて、声を掛けた。
──が、
( あ、しまった・・・)
案の定、振り返った玲音は、ラインハルトの姿を見て眉間にシワを寄せる。
( ど・・・、どうしよう?)
「・・・・・」
無言のままこちら見つめる玲音に、どうしていいか分からずに困った顔で立ち尽くせば、
玲音は、はぁ。と、ため息をつき、「もういいや・・・」と呟いた後、
「──で、何? 何か用なの?」
席をずれ、ラインハルトの為の場所を開けて言う。
視線を緩め、いつもの調子に戻ったような玲音に、
ラインハルトは何が何だかわからないまま開けられた空間に腰を降ろす。そして、
「──玲音?」と、
もう怒っていないか、確認しようと横を向けば、
「ん? 何?」
直ぐ間近でこちらを見る玲音の顔があって。
エデルトルートとの会話を思い出し、何となく気恥ずかしくなって視線を反らしてしまう。
何も言わずにそっぽを向いたことで、
「何なんだよ?」と、こちらに身を乗り出してきた玲音。
「いや、何でもないよ!」と、
赤くなった顔を隠す為に、ラインハルトは今度は顔を背ける。
それでも、じーっと眺めてくる玲音に、こちらも負けじと限界まで顔を背けるが、
「おーい、玲音」と呼ぶ声で、その勝負は中断した。
名を呼びこちらに近づいてきた人物は、
「そろそろ出番みたいだけど・・・・・、
──あっ!? お前!!」
玲音の横にいたラインハルトを見て声を上げ、
「何でお前がここにいんだよ!」
そう言いながら、金髪の髪をツンツンと立てた少年が、ずかずかとこちらにやって来るとベンチに座る二人の前に立った。
自分を見下ろした、玲音より少し年上に見える少年に、ラインハルトは、えーっと? と、首を傾げたが、
「あーーー! 黒猫ユキちゃんと一緒にいた?」
あの時突っかかってきた少年か!とその姿を思い出す。
ただラインハルトが口にした名に、
「・・・ユキちゃん?」と、静かに玲音が反応し、
少年に至っては完全スルーで、
「お前、玲音の隣に呑気に座ってんなよ!」と、
今度もこちらに突っかかってきた。
勝ち気なツンツン頭の少年、マサトは、
やっぱり何だかちょっと機嫌の悪い玲音から説明を受けて、
それでも胡散臭げな顔でラインハルトを見る。
「メルってあの超絶男前だろ? 全然似てないじゃん」
メルヒオールとの従兄弟な設定は、流石に無理だろうとラインハルトも思ったのだが、
「そりゃそうさ、だってメルの父親の妹の旦那の友人の子供だもん、似てなくて普通だって」との、玲音の説明に、
( いや、それ他人だから!)
心の中でツッコミを入れるが、
「そうか! なるほどな」
「・・・・・」
少年の答えに、うん、見た目通り馬鹿でよかった。と胸を撫で下ろす。
だけどマサトは、玲音と並んで座ったままのラインハルトを指差すと、
「だけどお前はやっぱり気にくわない!」と、こちらを睨み付けてくる。
「気にくわないって言われても・・・、別にお前に気に入られる必要もないしな」
ラインハルトがそう言えば、ぐぐぐっ!と一旦悔しげな顔をしたマサトだったが、
急に何かを思い出しのか、勝ち誇った顔をして、
「言っとくけどな! 俺はちっちゃい頃からの玲音を知ってるんだからな!」と。
いやいや、それって・・・。
ラインハルトは呆れた顔でマサトを見上げたが、流石にいい加減脱線した話に、
「マサトセンパイさ、呼びに来たんじゃねーの?」
玲音はうんざりしたようにマサトに言うと、立ち上がる。
「──ライ。ちょっと行ってくるわ」
そう言って、こちらに視線を落とした玲音だったが、何かを捉えたのか、その視線が再び上がる。ラインハルトの背後へと。
怪訝そうな少年二人の視線に、ラインハルトも振り替えれば、
数人の体格の良さそうな男達が見える。あの、イベントの時と同じような。
やはり外国人なのか。と、ラインハルトは近づいてくる男達を眺めた。
しかも人数も増えている上に、この前の男達より戦いに慣れていそうだ。
そう言えば、メルヒオールが何か言っていたな ?その関連だろうか。
そして、あの時と同じならば、目的も同じはずだ。
「──おい、マサトだったか? お前、玲音を連れてグランド正面の観覧席に行け」
ラインハルトは立ち上がり、玲音を背後に隠して言う。
「──あ?」と、名を呼ばれた少年は不機嫌な表情を向けたが、
「マサト、ここはライのいうこと聞いた方が懸命だから」
玲音の一言で、彼なりに何かを覚ったのか、チッと舌打ちすると、玲音と共に後退する。
だがその動きに連れて、男達が加速した。
「走れ!!」
ラインハルトは振り向くことなく背後へと声を掛けると、
向かって来る男達に上体を伏せ足を払ってその進行を止める。
そしてその回転そのままに軸足を変えて、振り向き様に男を蹴り倒した。
けれども多勢に無勢で、男の一人が玲音の後を追ってしまった。
「──くそっ!」
その後を追おうとしたラインハルトだが、まだ目の前に男が二人残っている。このままだとこの二人まで連れて行ってしまうことになる。
( 観覧席までたどり着けば何とかなるはずだ )
何とか頼む!と、ここは気持ちを切り替え、ラインハルトは男達と向き会うことに決めた。
その玲音とマサトは校舎を横切り疾走している。
「マジ、無駄に広いんだよなー」
ブツブツ言っているマサトを玲音が急かす。
「マサト遅い! 早くしろっ・・・って、うわっ!? もう来てんじゃん!」
振り向いて見た男の姿に玲音が驚く。
「えっ、マジかよ!?」
アイツ役に立たねぇじゃん!と、同じく男を確認して文句を言うマサトに、
「だから、早くしろって!」
玲音がもう一度急かすように言う。
マサトが言うアイツとは、ラインハルトのことで。
(・・・ライ、大丈夫かな?)
追いかけて来た男の姿に玲音はそう思ったが、そんなことを考えてる場合でも無さそうで、
「ヤバいヤバいヤバい、何アイツ、めっちゃ速くね?」
今更ながらに必死になったマサトが玲音に追い付くと、そのまま先に廊下の角を曲がった。
あっ、薄情なやつめ!と、マサトを追って玲音も加速したが、
ドンッ!と、何かにぶつかった音と共に角に消えたはずのマサトが転がり出てきた。
だけど、加速していた玲音も直ぐに止まれるはずもなく、
角から出て来た人物に、
( ──!! うわっ、やべ! ぶつかる!!)
と、衝撃に身を構えたが、
どういう訳か、トンッと軽くその人物に受け止められて。
「・・・・・?」
来なかった衝撃に不思議に思い上を仰げば、
「大丈夫かい、玲音」
にこにこと微笑むレオディアス。
何時もなら瞬時にその腕を振りほどいてしまうとこだが、
父親である男の強さを知っているから、それが心強く感じられて、
「──親父っ!」
そう声を上げた玲音に、レオディアスは嬉しそうに目を細める。
そして、背後から玲音に襲いかかろうとしている男を一瞥し、静かに腕を上げると、
ピンッと、指を弾いた。
「邪魔だな」
ただそれだけで、崩れ落ちる男。
レオディアスはまた直ぐに視線を玲音に戻すと、
「玲音そろそろ出番ではないのか?」と、
倒れた男など既に眼中にない様子で、再びにこにこと笑顔で言う。
そんなレオディアスに、
「親父っ、ライが──!」
玲音はすがり付き声を上げた。




