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体育祭は恋のバトル 2

「もう帰ってきたのかい?」

トボトボと観覧席に戻ってきたラインハルトに、上から見てただろうエデルトルートが笑顔で言う。


先ほどまでは誰もいなかったこの部屋も何組かのグループが増えて少し騒がしい。

そのせいか隅の席へと移動したエデルトルート、その隣に座り大きく息をつく。


「なかなか盛大なため息だね」

エデルトルートは漏れでる笑いをこらえそう言うと、サイドテーブルに置いてある水筒を開け、付属のカップに液体を注ぐ。

香りからするにそれは珈琲で、

「ラウルのとこで入れて来たんだよ」と、ラインハルトの前にカップを置いた。

「後でラウルも来るみたいだけど、まぁ、どうぞ」


勧められたカップを受け取り、一口飲んで落ち着くと、

「何だか分からないですが、玲音に嫌われました」

肩を落として言うラインハルトに、エデルトルートは苦笑する。


「上から見てたけど、別にあの子は嫌った訳ではないと思うよ」

「めちゃくちゃ睨まれましたけど?」

「そうだね」

肯定されて凹むラインハルト。


「そんなことでめげてどーする? レオディアスを見習わないと」

レオディアスのあれは不屈の精神だとラインハルトは思う。

さっきも思いっきり無視されてたし・・・、また思い出して更に凹む。


エデルトルートは肩を落としたままのラインハルトを覗き込み、

「あの子は怒ったんじゃなくて、拗ねただけだよ」

「そう・・・なんですか?」

「うん、──多分?」

「・・・・・」


何気にこの元闇の精霊もなかなか良い性格してるなと、対の精霊を思い出す。

「何となく、似てますよね? エディシアスに」

そう言うと、エデルトルートはちょっと複雑な表情をした。


「ま、何はともあれ、君には頑張って貰わないと」

「頑張るって何ですか?」

エデルトルートの発した言葉に投げやりに尋ねれば、


「玲音が好きなのだろう?」

当然のことのように返される。


「───は!?」

瞬時に赤くなる顔。

「いやっ・・・! えっ!?」


「ん? 何だ、違うのか?」


「違っ・・・・!

・・・・・っ、

・・・・・、・・・・・違わないです」

ぼそっと呟いた後、真っ赤な顔でうつむくラインハルトと、

それを聞いて満足そうに頷くエデルトルート。

( ホント、マジ何? これ・・・)


「でも、残念ながらこちらでは婚姻は16才にならないと無理なんだよねー」


「──ぶふぉっ!! ゲホッ、ケホッ・・・・ッ」

落ち着こうと口をつけた珈琲をエデルトルートの言葉でむせる。

「・・・大丈夫か?」

「ケホッ・・・大丈夫、です・・・。

急に飛躍し過ぎですよ・・・」

ラインハルトはむせながらも答えると、


「俺は別にどうこうなりたい訳ではなくて、ただ可愛いなぁって・・・」

あ、ちょっと変態ぽい発言かもと思ったけど、エデルトルートは別に気にならなかったのか、

「そうか、でもあの子を狙ってる人は沢山いるからね。早めに動かないと手遅れになるよ」

細い長い指で頬杖をつき、楽しそうな視線をこちらに寄越す。


やっぱり似てるな。そう思いながら、

「もうこの話は止めましょう」

何とか平常心を回復させてそう言えば、エデルトルートは声をたてて笑った。



部屋の片隅でそんな会話を繰り広げていた二人の側に近づいてきたのは、

先ほどから部屋で一番煩かったグループ。

その一人、エアコンが効いてるとはいえ、この初夏にやたらとゴテゴテとした服を着た、茶色い髪を向こうの貴族のように巻いた化粧の濃い女。


女の醸し出す高慢そうな雰囲気に、

( 服だけ変えたらそのまま貴族様って感じだな )

そう思って眺めていれば目が合った。

女は値踏みするように上から下までラインハルトを眺めた後、ふーんと笑う。その笑みに全身に悪寒が走る。


だけど女はこちらには何も言わずに、静かに女を眺めているエデルトルートに目を向けると、

「ごきげんよう。貴方が田中様の奥様ですって?」

ふんっと鼻を鳴らしてそう言う。


エデルトルートは挨拶の言葉を口にした後、

「私はレオディアスの妻のエデルトルートという。失礼だが、そちらは何方だろう?」と、尋ねれば、

「──なっ!? (わたくし)を知らないだなんて・・・っ! 

私は西園寺グループの───」


知られてなかったことが悔しかったのか、西園寺さんだか何だか名乗った女は、ベラベラと自分の素性を語っているが、

エデルトルートもラインハルトも全く興味がなく、

だけど、とりあえず女が語り終わるまで我慢して待った。


「──まぁ、いいわ」

やっと語り終わった女が一息つくと、

「それにしても地味な格好ね、あんな美しいレオ様の側には相応しくないのよ、貴方。

大して綺麗でもないくせにっ!」

エデルトルートを見下ろしたまま女は言う。


レオ様って誰だ!?とツッコミたい気持ちのラインハルト。

エデルトルートは確かに華やかとは言い難い、無地でグレーのサマードレス姿だし、

原型を留めないほどコテコテに盛った女の顔よりかは、全くのすぴっんだけども、圧倒的に整ってるのだが?

そもそも精霊に不細工な者などいるはずもなく。


何言ってるんだろう、この女は?

呆れた視線を送っていれば、再び女と目があった。

「しかもレオ様という夫がありながら、またこんな見目の良い男と!

全く、なんてふしだらなの!」

女はそう声高に罵る。


いやいやいや、ちょっと待って。

多分言われてるのは俺のことだろうとは思うけど、その後ろに侍らせてる男達は何?

明らかに身内ではなさそうなキラキラした男達を引き連れた女に言われても。と、ラインハルトは更に呆れる。

エデルトルートに至っては、とても楽しそうな顔をしている。


その楽しそうな顔のまま、何か言おうとしたエデルトルートだったが、女の後ろ、部屋に入ってきた人影に目を止め一旦口を閉じた。

そして再び口を開く、その人物に向かって言う。

「──レオディアス」と、



「何だか楽しそうな顔だね、エデル」

そう言いながら部屋に入ってきたレオディアスは、固まったまま立ちすくんでいる女の横を通りすぎると、愛しい妻の傍らに向かう。

「玲音は?」

エデルトルートの問いかけに、彼女が座る椅子の手すりに寄り掛かると、

「出番は昼からみたいだから、一旦君の元に戻ろうって」

身を屈め、その黒髪に唇を落とし言う。

それを受け、「そうか」と呟いたエデルトルートは、夫を見上げ小さく笑う。


ここまで、すごく自然に一連の動作をこなす二人。

ただし他の者は置き去りに。


置き去りにされた女は、「──ちょっと・・・!」と、声を上げたが、

声に反応し、一瞥を向けた男の視線に、言葉を詰まらせる。

(・・・うん、やはりこの顔のは怒らすと怖いな )

間近で見ていたラインハルトも、その瞳に少し戦慄を覚えたほど。


──が、レオディアスは視線を和らげ笑みを浮かべると、

「あんた誰? 何か用でも?」

いつもと違う粗野な感じで問いかける。

「──!? (わたくし)はっ───」

「──あ、やっぱりもういいわ。

いいからどっか行ってもらえるかな?」

自分が問いかけたくせに答えようとした女を遮り、笑顔のまま、どうでもいいように切り捨てる。


女の顔がみるみる赤くなる。

( ヤバくないか、これ?)

それを見ているラインハルトの顔が逆に青くなる。

そして、爆発しそうな女が口を開いた。


───が、


女の声は形になる前に、二つの声に遮られる。

「ここ涼しーい!」

「カミラ、皆さんに失礼になるから静かに」


パタパタと手で扇ぎながら入ってきたカミラは、顔を真っ赤にして立ち尽くしている女を見て立ち止まり、

化粧などしなくても睫毛に縁取られハッキリとした黒い瞳を向け、艶やかに色付いた赤い唇を開くと、

「どうしたの? このオバサン?」と、こちらに尋ねた。


こっちに振るな!と、慌てたラインハルトだったが、女はカミラの美貌に怯んだようで開けた口を閉ざした。

そして、続いて入ってきたラウルが、

「この子は口が悪いから・・・、すまないね、お嬢さん」

穏やかに微笑みかけながらそう言えば、

爆発しそうだった女の表情が元へと戻った。


──最後に、

「お昼はどうしますか? 一応人数分作ってますけど」と、

メルヒオールが入ってくる。

女が従えていた男達に一瞥を向け、道を塞ぐように立ってる女を、邪魔だ。という顔で見下ろすと、

元へと戻っていた女の顔が、瞬時に赤く変化する。


そして、「きゃぁーーーー!」と、テンション高く声を上げると、真っ赤な顔を両手で隠し、キャーキャー言いながら部屋から走り去った。

残された男達も状況が読めないながら、女の後を追って部屋から出ていった。


もう一人状況が読めないままの男、メルヒオールは、

「何なんだ? あれ?」

部屋の出入口を見つめ呆れた声で言う。


背後から近づいてきたレオディアスがそんな男の肩をポンと叩くと、

「色男は大変だな」と、

笑いを堪えて言う。その姿に、元々の原因をつくったのは誰だよ・・・と、ため息がでるラインハルト。


走り去った女と同じく、赤くなったり青くなったりと忙しかったラインハルトは、

体育祭だからという訳ではないが、疲れ果てふかふかな椅子にぐったりと身を沈めた。



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