そうだ、イベントへ行こう! 2
三人が着ている衣装は、今ネットで人気の、PCゲームの主要キャラクターのコスチュームで、
勇者 (そのままなのだが?)、姫であり聖女(合ってた)、そして魔王。
一番の人気は、美しく強い魔王だと言う。
そして、張り切って魔王に成りきっているメルヒオールは、昼休憩も取らずに今も何処ぞで撮影に勤しんでいるはずなのだが。
「マジあいつ何処にいるんだ?」
「一応一通り回ったはずなんだけど、居ないな」
会場を一周したのだけれど、メルヒオールの姿は見つからず、
「もう置いて帰ろうぜ」と言う玲音をなだめ、再び会場を回る。
会場には様々な格好をした人達がいる。人間でないものもいるが、大概が何らかのキャラクターを演じていて、
でもその中の誰よりも横を歩く玲音が全てにおいて圧倒的に一番だとラインハルトは心の底から思う。
現に玲音が会場内を歩けば写真を撮りたいのだろうカマラメンが後ろをそわそわとついて来る。
「なぁ、ライ。埒が明かないから別々で探すか?」
玲音はそう言うが、そんな訳でラインハルトとしては彼を一人にしたくなく、
「いや、こっちもはぐれたら困るから一緒に探そう」と、
玲音の側を離れず一緒にいる。所謂牽制というやつだ。
それでもそんなものは全然気にしないというヤツもいて、
ちょっと目を離した隙に玲音は男二人の囲まれていた。
「あっちで主要キャラで集まってるんだけど、一緒に来ない?」
男の格好を見るに同じゲームのキャラクターで、それを口実に玲音を誘ってるのだろう。
またか。とラインハルトはため息をつく。そもそも玲音がそのまま黙ってるはずもなく、
「は? そんなの行かねーし」
姿は女神のようであっても玲音は何気に口が悪い。先ほどから何度もこのやり取りを繰り返し、驚き立ち去っていった者が数知れず。
今度もまた同じだろうと眺めていれば、
「──いい! まさにギャップ萌え!」
そんなことを言われながら、逆にぐいぐい迫られていて、
玲音自身も言っていたが、腕力とかに関しては本当にからっきしらしく、助けを求めるようにこちらを見た。
保護者であるメルヒオールが居ない今、大人である自分が玲音を護らなくては。と、
考えるより先に体が動いていたラインハルトは、玲音と男達の間に入ろうと一歩踏み出したところに、
先に割り込む人影がある。
人影は、同じくイベント目的で来ただろう三人の男達。
ラインハルトの知らない衣装を纏った色素の薄い背の高い男達は、見るに日本人では無さそうだ。
最近は外国人も増えていると言っていたのできっとそうだろう。
その内の一人が、最初に玲音に迫っていた男達を突き飛ばすように押し退けると、
代わりに玲音の前に立ち見下ろす。
怪訝な顔を向ける玲音。
だがラインハルトは、男が纏う雰囲気に不穏なものを感じて、
直ぐ様間に割り込むと、玲音を自分の背後へと隠した。
「──どけ」と、
言われた訳ではないが、男から発せられた短い言葉がそんな意味を持つような気がして、
ラインハルトは、嫌だと答え、腰に下げていた剣の柄に手を添える。
携えている剣はもちろん本物ではない。こちらでは銃刀法違反というものがあるらしく、
話は変わるのだがその為に、ラインハルトの愛剣も部屋にしまったままとなっている。
だから今、ラインハルトが手を掛けている剣はメルヒオールが小道具として作ったもの、柄と鞘だけの。
ただ、拘りがあるのかちゃんと金属で出来ていて、
それはそれで武器となり駄目なんじゃないかと思ったが、今は逆に有り難いかも知れない。
目の前に立つ三人はラインハルトより屈強な男達。しかも明らかにこちら、玲音を狙っている。
ラインハルトは剣を腰から引き抜くと、威嚇の為に眼前に構えた。
「何の用だ?」
そう問うが、男達は最初の一言以外、言葉を発することはなく、ただ虚ろな目をこちらに向けるだけで。
(何かに、操られているのか?)
──だが、
ラインハルトのそんな思考は、男達が繰り出した攻撃に中断される。
最初に言葉を発した男がこちらに拳を振るう。
大ぶりに振られた拳に、ラインハルトは逆に懐に飛び込むとみぞおちに鞘を突き当てる。
そして、苦しげに呻いた男の身をそのまま押し込んで、もう一人の男へとぶつけた。
体勢を崩した男は一旦放置して、背後から飛びかかろうとしていた男へと、向きを変えぬまま脇から鞘を突き当てると、振り向き様に男を蹴り飛ばす。
最後に、仲間の体を必死で押し退けようとしている男の側に立つと、鞘を喉元に突き付け、そして、
「もう一度聞く、何の用だ?」
息も切らすことなく静かに問いかけた。
けれど男は、先ほどまでの感情のない虚ろな表情ではなく、恐怖で怯えたような顔をしていて、
ラインハルトには理解出来ない言葉で何か喚いている。
「──ライ」と、
背後から困った表情の玲音が声を掛けてくる。
気づくと周りには人だかりが出来ていて、その人だかりの隙間からメルヒオールがやっと姿を現した。
事の収拾はメルヒオールと、その仲間だという者達に寄って速やかに行われた。周りの人だかりにはこれはイベントの余興だと話し、騒ぎとなることはなかった。
「大丈夫ですか、玲音様」
一応主催者側に報告に行っていたメルヒオールが戻ってきて尋ねる。
「俺は大丈夫だけど・・・、」と玲音がこちらを眺めるので、
「あれぐらいは大したことないよ。それより何だったんだ?」
ラインハルトは玲音に安心さすように伝えた後、男に問いかける。
メルヒオールは、玲音に目を向けて、
「あつらは観光客でたまたま参加してたらしい。
本人達もよく分かってないみたいだけど、何故か急に玲音様に激しい憎しみを感じたそうだ」
「えっ! 何で俺!? 俺なんもしてないじゃん!」
自分を見て言うメルヒオールに玲音が抗議の声を上げる。
確かに、玲音と二人で会場を歩いていただけで、呼び止められることは何度もあったが、憎しみを向けられるほどのことはなかったはずだ。
メルヒオールもそこはちゃんと理解しているのか、こちらを見て、
「何か感じたか?」と聞くので、
ラインハルトは思い出す様に少し黙る。そして、
「何かに操られてるようには見えたが」
そう答えれば、
突然、「精霊の気配はするか?」と、
別な話を聞いてきたメルヒオール。
ラインハルトは訝しげな表情で尋ねる。
「どういう意味だ? 何か関係があるのか?」
「あいつらから微かな精霊の気配がした」
「でも、こちらでは精霊などいないのだろ?」
精霊はエデルガルトより生まれた、ならば女神が居ないここでは、その存在はいないはずだろう。と、
だけど、それはちょっと違うとメルヒオールは言う。
「あちらと同じではないが、こちらにも精霊はいる。
ただ日本にはほぼいないだけで」
いてるのか!?と驚くと同時に、日本にはいないということに、
「何か理由があるのか?」と不思議に思い聞いてみれば、
「向こうにはまだ普通に女神信仰があるからな。精霊信仰も。
日本ではそういう信仰はほぼ無くなってしまった。信じる人が無ければ存在は出来ないだろ?」
魔王の衣装を纏ったままの、女神信仰とは真逆にいるメルヒオールがそう静かに言う。
ある意味、この男も魔王という信仰の信奉者ではあるのだろうが。
その対象が現在行方不明という現状。
精霊が絡んでるかも知れない事、玲音が襲われた事とも何か関係があるのだろうか?
更に詳しく話を続けようとしたラインハルトだが、
「なぁ、まだ話続くのか?」
うんざりしたような玲音の声に遮られる。
「俺、いい加減着替えたいんだけど?」
眉間にシワを寄せ、だけど、相変わらず麗しい顔で言う。
一応、玲音が襲われた件について話していたのだけど、
ラインハルトはそう思ったが、仕方ない。
「そうだな。じゃあ───」
「──あっ!! やべっ!」
帰る提案をしようとしたこちらの言葉を遮ると、玲音は声を上げ、急いでラインハルトの背後へと隠れた。
その行動に、何事だと振り返ろうとしたラインハルト。
「あ、ライ動くな! ちょっと今、顔見知りがいるんだって!」
隠れた背後から顔を少しだけ出して玲音が言う。
その視線の先を追ってみれば、金の髪の少女の後ろ姿。
───何だろう?
最近、何処かで見たような・・・?
でも、すぐには思い出せず、
「ライあんまり見るな、バレるだろ!」
玲音の声に、もうその姿を目で追うことを止めた。
だから、ラインハルトも玲音も気づくことはなかった。
振り返った少女が青い瞳を鋭く細めこちらを見ていたことは。
仲間と飲みに行くというメルヒオールを置いて、二人で帰る電車内。車内はそんなに混んでもなく、座席に並んで座る。
「ライって強かったんだな?」
端の席で手すりに頬杖をつきながら玲音が言う。
「一応、勇者を名乗ってる訳だからな」
弱くちゃ話にならないだろ?と苦笑いするラインハルト。
玲音にとって俺の立ち位置ってどうなってるんだろう?と少し切なくなったが、
玲音は、ふーん。と呟いた後、
「めっちゃカッコ良かったじゃん」と、笑顔で言った。
それで、その一言だけで、
今日の戸惑いや疲れが全てチャラになってしまう。
それは、誰でもいいという訳でなく、玲音であるからこそで。
「そう言うことだよなぁ・・・」
ラインハルトの小さな独り言を、え?っと聞き返す玲音に、
何でもない。と首を振ると、停車した駅で増えた人混みに、会話はそこで終えた。




