money
ある街に、ある伝説をもつ泉がありました。その伝説というのは、泉の前でお金が欲しいと願うと、願った通り、お金が泉の中から現れるというものでした。しかし、街にはそんな伝説を信じる人はいませんでした。
街にはA氏という男がいました。この男は毎日ギャンブルに明け暮れた生活を送っていました。そんなA氏はある日とうとうギャンブルに負け、財産を全て失ってしまいました。
A氏は家賃も払えなくなり、パン一切れ買うお金さえ失くしてしまいました。
途方に暮れていたA氏の頭に、一瞬、泉の伝説が頭をよぎりました。A氏は、あの胡散臭い伝説を信じていた訳ではなかったのですが、藁にもすがる思いで、泉に向かいました。
泉についたA氏は、泉の前で、
「お金をくれや。たんまりくれや」
と、泉に向かって叫びました。
すると、泉の水面が黄金色に輝き始め、中から沢山のお金が出てきました。
A氏は驚き、喜びました。
「伝説は本当だったのか!」
A氏は沢山のお金を持ち帰って、街の人々に伝説は本当だったと伝えて歩きました。勿論、街の人は伝説を信じてはいませんでした。しかし、お金のないあのA氏が大金を持っているという事実を目の前にすると、街の人は、やはり伝説は本当なのかしらん?という風に思えてくるのでした。
しばらくすると、街には豪邸がずらりと並ぶようになりました。そうです、街の人はみんな、泉に願ってお金持ちになったのです。
この泉には不思議な点が一つありました。人によって、お金の出る量が違ったのです。しかし、街の人はそんなことを、気にはしていませんでした。お金が手に入ればどうでもよかったのです。
豪邸が立ち並ぶ街の外れに、一軒だけボロボロの家がありました。ここに住むR氏は、生まれた時から貧乏でした。そのため、人一倍お金持ちに憧れていました。R氏は貧乏生活から抜け出すため、真っ先に泉に願いに行きました。しかし、R氏にだけは何度願ってもお金は出てきませんでした。
R氏はこんな伝説に頼った自分が恥ずかしくなり、これからは努力してお金を稼ごうと心に決めました。
そんな訳で、R氏だけはボロボロの家に住んでいるのです。
こんな街の様子──豪邸が立ち並んでいる街と、その端に一軒立つボロボロの家の風景──も長くは続きませんでした。5年後、街の人は全員がお金を失い、貧乏になりました。街にはR氏の家のような、ボロボロの家だけが並びました。
また財産を全て失ってしまったA氏は、また泉に向かいました。向かっている途中、A氏はボロボロになっている看板があることに気づきました。
なぜ今まで気付いていなかったのだろうかと思いながら、何気なく看板を眺めると、「先の泉危険。立ち入り禁止。」と赤い字で書いてありました。そして、その下には黒い字で文が書いてありました。A氏が読んでみると、「泉はお金を生み出すのではない。あなたが将来手にするであろう全てのお金を、願った人に一括で生み出す泉だ。ここで願ってしまうと、将来お金を得ることができなくなります。」
これを読んだA氏はその場で倒れ込みました。
この話を聞いたR氏は首を吊りました。