初クエストNEWライフ!
ふかふかなベッドに暖かい毛布、心地よい風に乗って鳥のさえずりが聞こえてくる。普段なら重たい瞼も今日はすごく軽い。
「ん~…ふあぁ、、」
誰にも起こされる事無く目覚めた俺は制服を取ろうと机に手を伸ばす。しかしそこにあったのは小さな観葉植物だ。
「あぇ?こんなの置いたっけ?」
周りを見渡すと見慣れない景色が拡がっている。等身大の鏡に城かと思う程大きな窓、そして聞こえてくる笛吹の音。ふと自分自身を見ると着るはずのない服を着ていた。
「…あ、そういう夢か。そっかそっかぁ、よし二度寝しよーっと」
毎日恒例、二度寝時に思い出に浸ろうコーナー!!確か昨日は朝学校行く前にまり姉によしよしして貰って…それで車に……あれ…?えっと、、跳ねられて…もふもふに会って…盗賊に殺されかけて…って待て待て待て、待て!!どんな妄想してんの俺は!ちゃんと学校に行って…大将に連れられて美人の姉ちゃんと…??
寝惚けていた脳がようやく正常に動き出す。
……そうだ…俺転生したんだった…
「大将ー!!!!大将!!!!」
「お、やっと起きたかライム」
「キュッキュー!」
「ちょ、俺昨日あれから何を…うぉあ!?」
ガタガタッと言う音と共に体が地面に打ち付けられる。慌てて部屋から飛び出し、階段を降りたせいで足を踏み外した様だ。何やってんの俺の馬鹿!!
「いてて…」
腰をさすりながら立ち上がるともふもふが俺の近くに寄ってきた。もふもふを抱き上げて大将の居るカウンターへと向かう。
「大将!俺食事後の記憶が…」
「あー?…いやぁ、あれは凄かったなぁ」
「あれ、とは?!なんです!?」
「まさかライムにあんな一面があったとは」
ニタニタと笑うその顔に俺の血の気が引いていく。まさかあんな事やこんな事を!?大衆の前でやらかしてたんじゃ……
「全く、相変わらず意地悪ねザガムさん」
クスッと笑いながら話すこの女性は……昨日の美人姉さんじゃん!?
「ご、ごめんなさい!!俺同意も無しにとんでもない事を…!」
「ふふっ、何を考えたのか分からないけど。昨日は普通に寝ちゃってただけよ、ライムくん」
「へ??」
「アルコール調整をすっかり忘れてて…ごめんなさいね」
あ、なんだ俺やらかしたんじゃない…っぽい?真意を知りたく大将に目を向けると机に突っ伏して必至に笑いを堪えている様だ。これは…多分俺悪くないっすわ、うん。
「はっはっは!すまんすまん、あまりにも慌てていたから面白くてな」
「もう、あんまり新入りくんをいじめちゃダメよ?」
「キューキュ!」
グラスを片手に笑う美人姉さんと店主ながらに昼間から酒を飲みまくる大将、そして腕の中のもふもふ。昨日は完璧に馴染みつつあったが1度寝てしまうと複雑に感じる様になる。まだ開店前と見えて店内に人はほぼ居なかった。
「お詫びと言っちゃあなんだが、朝ご飯用意してあるぞ。食べ終わったら仕事を教えてやる」
「朝ごはん…あ、ほんとだ。これ大将が作ったの!?」
近くの席にはごく普通の朝食が置いてあった。俺が驚いたのはその内容だ。目玉焼きにベーコンにパンという現世の物と瓜二つなのである。
「若い頃にライムと同じ国から来た客が居てな。そいつが1番喜んだメニューを作ってみたのさ」
昔にもこの世界に転生した日本人がいた、という事にも驚いたが今はそれどころではない。何故なら空腹だからだ。あの話は一旦置いておくとして…頂きますと手を合わせる。
「…うんまっ!?何これめちゃめちゃ美味い!」
カリカリに焼かれたベーコンに半熟卵の目玉焼きって全てが完璧過ぎんだろこれ!!パンも今迄食べていたのとは大違いだ。美人姉さん達が何か言っていたが魅惑の朝食取り憑かれた俺は全く聞こえていない。気が付くとすっかり食べ終えていた。
「ご馳走様!すげぇ美味かったよ大将の料理!」
「はっはっは!そいつはよかった。食べた分はしっかり働いてもらうぞ?」
「任せてください!」
「キュッキュ!」
手伝うぜ!と言ってくれているのか、もふもふはカウンターの上に飛び乗った。昨日は余裕が無かった為見れなかったが、よくよく見ると上のプレートには「クエスト受注兼報告」と書かれている。
「ここのクエストは主に討伐依頼、納品依頼、捜索依頼、採取依頼の4つのジャンルに分かれている。とはいえ全て近くの草原か森までの範囲だがな」
大将が奥の棚から取り出した本が現在のクエスト状況を記したものらしい。未報告が5件、受注待ちが10件だ。
「まずは新入りくんにクエストやらせてあげたらどう?その方がわかりやすいと思うわよ」
「それもそうだな。よしライム、俺からの頼みをクエストとして受けてもらおう」
「クエストとして…?」
って事は俺討伐に…?いや流石にそんな無茶振りは無い…よな!?ってか無いであってくれ頼む!
「嗚呼、近くの草原で薬草を6つとガラス石を3つ入手して欲しい。そしてそれを交換屋に持っていき、3つの回復ポーションと交換すればいいのさ。回復ポーションを俺の元へ持ってくればクエスト完了だ」
地味にむずいやつじゃん!!新しい言葉が既に4つはあるんだけど!?
元より勉強や記憶の苦手な俺がメモを取ろうと思いついた。初歩的とか言うなよ??
俺の想像していた異世界ではステータスメニューなどで確認出来たりするのだろう。だがここにそんな優しい物は無い。もふもふが1度開いていたが、あれは異世界転生委員会のものらしいしな。
「えっと…薬草6つとガラス石3つを交換屋で回復ポーション…?に変えてもらえばいいんだね?」
「そうだ。キリアも着いていくだろうし差程厄介ではないだろ」
「あ、もふもふも行ってくれんの?」
「キュキュ!!」
よかったぁぁぁ!俺の付き人よ!!一緒に行ってくれるとは心強い!
安心感を得てやる気に漲った俺は依頼書の受給者欄に名を記す。そして外まで見送ってくれた美人姉さんと大将に手を振り、生まれて初めてのクエストに向かった。
なんの装備もせず、素材を入れる皮袋だけを持って。