希望の光
こうして大将は俺に街を一通り案内してくれた。商店街には日用品と素材を変えられる「売店」、フィールドで取れた素材を冒険に必要な物と交換してくれる「交換屋」、薬草や傷薬のある「薬屋」など必要不可欠な店が揃っているのだ。その他にも広場や公園など楽しそうな場所もたくさんある。
「そしてここが武器や防具の生産、及び売買も行っている武器屋だ」
「よぉザガム。わしの所へ来るなんぞ久しいじゃないか」
商店街とは少し離れた洞窟の様な場所で立ち止まる。奥にあった黒い置物が動き出した…と思ったがどうやらここの主人の様だ。絶対今の言葉言っちゃダメだわ、うん。
「こ、こんにちは…!」
「おぉ?珍しく見ない顔だな」
「こいつは転生者でな、俺の家で匿う事にしたのさ」
「ほぉ…。生きてるうちに見れるとは驚きだ」
そう言って武器屋のじいちゃんは俺をマジマジとみてくる。もふもふは…威嚇してないな。ならこの人も安全か。といつの間にかもふもふが俺の安全レーダーになっているのはここだけの話。
「お主も冒険者を目指すのか?」
「いや俺は…」
「こいつには冒険者より商人ぐらいが最適だろうさ」
「うむ。その方が安全だ。どうみてもこのへなちょこは冒険者向きではない」
結構ざっくり言ってくるなこの人!!へなちょこって言うなよ!?なんとなく分かってたけど!
「じゃあまた近い内に来る。こいつが来た時は色々と教えてやってくれ」
「任せておけ。…転生者よ、そなたの名前は?」
「えっと、、ら、らいむ、です」
「ライムか。覚えておこう。わしはディアック・ノルドだ。ノルド爺さんとでも呼んでくれ」
俺が頷くとニッと笑ったノルド爺さんの歯は所々欠けている。これも戦いの痕跡なのだろうか。
「じゃあ次に行こうか、きっとお前も喜ぶだろうさ」
「俺が喜ぶ?」
「あぁ、男なら全員が喜ぶ場所だ。キリアは怒りそうだがな」
まさかまさか…!!ここで来る?!あの店来ちゃう!?男なら誰しもが喜ぶ場所と言ったらあそこに間違えない!!
心躍らせながら向かった先は案の定美女で溢れるお店だった。
「お疲れ様ですご主人様!」
「うはぁ…!!」
思わず変な声を出してしまった俺は慌てて口を抑える。露出が激しめの服を着た者、逆に美ボディを完全に隠した者…いや何にせよ美しい!!桃源郷だよここ!!うっひょ~!
「あらザガムさん、こんにちは。そちらのお子さんは…?」
「俺の店で匿う事になった転生者だ。こいつも男だからな、よろしくしてやってくれよ」
「よ、よろしくってどゆこと!?大将!?」
「がーっはっはっは!!」
現世でこういうのとは1度も関わった事が無い俺は大将の言葉でいかん事を考えてしまう。いやいや鼻血出るから!!妄想をやめろ俺の脳みそ!
「キュ!!」
「痛い痛い痛い!!もふもふ!しっぽ痛てぇよ!」
「そんな怒る事ないだろキリア~、お前もまた来ればいいじゃないか」
大将の言葉にヒートアップしたもふもふのしっぽは待った無しである。毎回バシッと効果音が入りそうな勢いだ。かと言って落とす訳にもいかず、しっぽが外を向くように抱き直す。大方俺だけズルい!とでも言っているのだろう。
「そうだ。よかったら皆さんでご飯食べていかない?丁度開店時間なの」
「それもいいな。ここの飯は美味いぞ~!」
「じ、じゃあお言葉に甘えて…」
緊張のせいか声が上擦る。そして異常な程に心臓がうるさい。童貞にはこれきついって!!
「ではこちらに」
案内された場所は俗に言う大人の店の雰囲気だ。なんで知ってるかって?そりゃそういう物ぐらい見るからな!?俺も男だし!!
俺の隣に大将、そして向かい席にもふもふが座る。ソファに腰を下ろした途端、過去最高に慌ただしかった一日の疲れを身に染みて感じた。
「ここの椅子は特殊な魔力が備わっていてな、座るだけで人々の体力を回復してくれるのさ」
「すげぇ…これもこの世界では普通なの?」
「ま、そうだな。こういう店に来れば大体がそうだ」
すっかり聞き慣れてきたこのテノール音の声。もしかして俺ってば意外に順応性が高いのか?と思い始めた頃。目の前では先にもふもふが綿菓子らしき物を頬張っている。これがきっとこいつのご飯なのだろう。
「ところで…転生者よ」
「は、はい?」
「何処かへ行く宛てはあるのか?」
「いや…無い、です。正直数時間前に来たばかりだから。この世界の事もよく分からないし、魔力とか言われてもピンと来なくて…」
ハッと気付いた時には10分程時間が経ってしまっていた。俺は一体何を…いや何を言ったんだ…?腕を組み、真剣に話を聞いてくれていた大将は俺の口が止まるなり言葉を発した。
「1つ謝っておこう。このソファには新規者の心に秘めた思いなどを引き出させる効力もあるんだ。少しだが過去の話を聞かせてもらったぞ。ライムくん」
「え、俺なんて言ってた…?」
「とりあえず女に疎い事がわかったな!」
「マジで俺なんて言ってたの!?!!?」
完全に記憶が無い…何を言ったか分からないのが怖すぎんだろ。大将がやけにニヤニヤしてるのすら不気味!!こんな事言っちゃ失礼だろうけど!
「あとは名前を聞いた。フルカワライムというらしいじゃないか」
「あ、はい…そうです」
「お前の居た日本とやらはどんな世界なんだ?」
「…えっと……どんな世界…」
日本がどんな世界かなんて考えた事もなかった。知らずに生まれ、育った国。故郷。それ以上でもそれ以下でも無い。何かを見せようと思ったが転生の際に服以外は全て消滅してしまった様で手持ちも0だ。
「…人がすっごい多い国かなぁ。魔法とかモンスターとか、そういうのは遊びの中だけって言われてる世界」
「なに?魔力が無いのか!?」
「うん、モンスターもいないし戦闘なんて事も、冒険もない」
「ほう…そんな世界があるとはなぁ」
この世界の人からすればさぞ驚く事なのだろう。明るく笑うばかりの大将が目を見開いて話に食い付いて来た。概念に関して言えば現世とは正反対なんだよなこの世界って。
「またいつか聞かせてくれよ、その日本とやらを」
「もちろん!俺の知ってる話で良ければ」
「はっはっは!楽しみにしているぞ!…では話を戻そうか」
完全に俺のせいで脱線したんだよなこれ…。まじでごめんなさい。そんな意味を込めて軽く頭を下げる。
「行く宛てがないのなら俺の店で働かないか?」
「え、、いいんですか!?」
「丁度今は人手が足りないんだ。朝昼晩の3食と風呂、着替え、寝床付き。その代わりみっちり働いてもらうがな!」
これ以上はない好条件だ。数日後には何も無いフィールドを永遠と彷徨う覚悟をしていた俺は一気に人生が明るく感じた。大袈裟って言われるかもしんねぇけどそれぐらい幸せな事だよこれ!衣食住の全てが揃うなんて!
「働かせてください大将!」
「よし決まりだ!最初に言った通りライムは家族の仲間入りだな!」
「キュキュ!」
それを聞いたもふもふは嬉しそうに跳ねている。すると話を聞いていたらしい美人姉さん達が豪勢な料理を運んできた。
「転生祝いと家族増員祝い、ですね。今回は私共からのプレゼントよ」
「うわすご…料理がめっちゃある!」
「お飲み物もありますよ~。いっぱい召し上がれ」
キラキラと光る飲み物とほっぺたが落ちそうな程美味しい料理、そして美人姉さん達!!これ以上ない最高な食事会だ。
「いっただきまぁす!!」
俺は大きな骨付きの肉に思いっきりかぶりついた。