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らいむの異世界奮闘記  作者: 苺ノ森
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酒場の大将ザガム・ルーティア

「はっはっは!!いやーいきなり大変な目にあったみたいだな!一杯飲むか?」

「いや…酒はいい…です…」


そう言うとおっさんはジョッキ1杯分を一気に流し込む。その様は酒豪の言葉が誰よりも似合う様な風格だ。


「キリアを付き人にした転生者なんだろ?だったらお前も今日から俺の家族の一員さ」

「あ、ありがとう…ございます…?」


どうしても語尾に疑問符が着いてしまう。そりゃそうだろ!まさかこの人がキリア…もといもふもふの義父だったなんて信じらんねぇわ。


賑やかで楽しそうな声が下から聞こえてくるここは三階の一室だ。今まさにおっさんと俺は1対1の面接状態にある。店内に引きずり込まれた後、もふもふのキュキュ言葉がわかるらしいこの人は事情を知るなり俺を匿ってくれたのだ。

おっさんの名前はザガム・ルーティアと言い、もふもふの元の名はキリア・ナルクと聞いた。


「家族なんだからそんなに畏まらなくてもいいだろう?普段通りに話してくれてかまわないからな!」

「ありがとう…えっと、マスター、?」

「マスターでも大将でも、なんならパパとかでもいいぞ!はっはっは!!」


初対面でパパって呼べるやつとは俺友達になれねぇよ!!絶対陽キャだよその人!!アイアム陰キャ!


苦笑でその場を凌いだ俺はオレンジジュースの様な甘い飲み物を喉に流し込む。ほんのり甘いそれは不味くもないが美味くもない…というか慣れない味だ。


「キュキュ!」

「嗚呼、元からお前の言う通りにするつもりさ」


不意に立ち上がった大将は何やらクローゼットをガサガサと漁り始める。ストローで飲み物を啜りながら様子を見ているといきなり衣服が俺の方に飛んできた。


「おわっ!?」

「それを着ておけ。今の格好だと転生者感が丸出しだからな」

「キュー!」

「着替えたら店の裏に来な!この街を案内してやるさ」

「は、はい!」


バタンと勢いよくしまった戸の音に思わず肩が跳ねる。場に流されて返事をしてしまったが大丈夫なのかこれは…。いや今更悩んでも意味ねぇか。


着古したブレザーとワイシャツを脱いで受け取った服に着替える。この世界の衣服は案外着やすい物だった。布製の白い半袖とグレーのズボン。少し俺にはサイズが大きい為、ベルトでキュッと絞る。


「はぇー…これが俺…か」


鏡に映った自分は服以外何も変わっていない。しかし唯一変わった服のせいで別人の様に見えた。それもそのはず、普段から家に居る時も出掛ける時も面倒だからと制服のままだったのである。


「こら!いい加減しっかりしなさい!」

「だって面倒くせーんだもん…」

「貴方ね、私はそんな子に育てた覚えはありません!」


いつしか母さんと交わした会話が脳内に蘇る。身なりについてはよく怒られたっけなぁ。改めない俺に呆れてもう何年も生活の事以外では口を聞かなくなった。無論、父親もである。


「はは…馬鹿らし。何思い出してんだか。ったく俺らしくねーな!見た目もだけどよ」

「おーい準備はまだかー!置いてっちまうぞー?」

「い、今行きまぁす!!」


付属の水晶が中央に埋められたネックレスを首にかけ、革製の指ぬきグローブを手にはめる。着ていた制服はハンガーにかけてクローゼットを閉めた。…もう二度と開けないだろうこの場所を横目に、1階へ続く階段を駆け下りる。


「まずここが俺の仕事場、酒屋バーデンだ」


表に出た俺に一番最初に教えてくれたのはやはりこの場所だ。俺はもふもふを抱いて三階建ての建物を見上げると感嘆の声を上げる。


「すげ…草原から見えてたのはこれだったんだ」

「クエスト受注に依頼、軽い商売もやってるからな!言わばこの街の中心さ」


いやほんとすげぇよここ!現世にあったら絶対某アプリの人気スポットになってるって。特別着飾らない装飾が逆に良さを際立てているのだ。

すると近くを歩いていた痩せた男がこちらに向かってくる。


「おーっすマスター!新入りですかい?」

「おぅよ!キリアを付き人にした俺の新しい息子だ」

「兄ちゃんついに付き人になれたのか!こりゃめでたいわ!あとで飲みに行くぜ」

「キューキュ!!」

「はっはっは!飲みに来い!俺もキリア待ってるぞ」


うーん…何だこの疎外感は。いやそりゃそうか。もふもふは短いしっぽを左右に振っている…という事はあの男は安全なのだろうと予想が着く。


「あんちゃん、兄ちゃんの事頼んだぜ?」

「は、はい!」

「よっしいい返事だ!街観光楽しめよ~!あと盗賊共には気をつけてな!」


ひらひらと手を振って去っていく男の背中には生々しい傷跡が見えた。途端に現世ではほぼ感じる事のなかった危険性を感じる。ゲームの様に上手くいくわけもなく、一歩間違えれば死ぬリスクが高い。この世界がイージーどころかベリーハードモードだと確信した俺は唾を飲み込む。


「ここで生きるならそれ相応の覚悟が必要…って事か」

「ま、冒険者になるならな?」

「わ!?大将聞こえてたのかよ!?」

「はっはっは!耳は昔からいい方なのさ」

「キュ…キュキュッ!!」


途端にもふもふが俺の腕の中でバタバタと暴れ出す。地味痛てぇなこいつのしっぽ!!


「そんなに慌てるなキリア、大丈夫だぞ?」

「もふ…キリアはなんて?」

「お前を冒険者にさせないでってさ」


もふもふ…俺の事心配してくれてんのか?人の姿で話すとどうもチャラい様な…お調子者に聞こえるが、話だけを聞いているととても優しい奴なのでは?と思えてくる。


「ありがとうなもふもふ」

「キュー!」

「よし、じゃあ次は商店街をザッと案内しよう。今日はほとんどの店が閉まってるからな、詳しい事は後日説明する」


さっきまでは怖かったはずの殺風景な商店街もこの二人のお陰か自然と怖くない。大将の頼もしい背を追いかけて街の中心部へと向かった。

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