チャプター9
「着いたぞ」
おじいさんが落ち着いた声で言った。
「ここは……目が覚めた場所?」
大きな大木を見て、ここがその場所だとわかった。おじいさんは僕の手を離して、その木のそばへ行く。そして、ゆっくり深呼吸をしてからこちらを向いていった。
「これは『思いの木』というんだよ」
「思いの木……?」
「そう、これが『思い』をつむいで『想い』にする。そして、『想い』は少年のいた世界と終わりの世界をつなげるもの」
「え……それってどういうこと?」
「平たく言えば、ここはもう一つの世界。死後の世界だということだよ」
「死後の……世界……?」
「そして、この木を使えば生死の世界を行き来することができるということだよ」
死後の世界、生死の世界を行き来する。僕はそんなことを言われても信じられなかった。だから、必死に否定するしかない。
「何を言ってるんですか? 冗談ですよね?」
「冗談ではない。その証拠に見ただろう、昔の友に似た人たちを」
その一瞬、シノの顔が頭をよぎった。おじいさんの顔を見ると、おじいさんははぐらかさずに頷いた。
「ああ、別人ではない。生きていた時の友、本人だよ」
「……」
僕はその一言を聞いて動揺した。もういないはずの志穂や明が、今さっき隣にいたのだ。もういないはずなのに……。
「死後の世界……」
だったら……。
「だったら、今の僕は死んだの?」
その瞬間、カン、カン、カン、といきなり大きな鐘の音が鳴り響いた。
「な、何!?」
「村の方で何かあったようだな……」
「村の方?」
僕は村の方向を見た。
「少し様子を見に行く。少年はここにいなさい。」
「待ってください。僕も行きます」
老人はその言葉を聞いて驚いていた。
「さっきも言ったが、ここは少年のいた世界ではないぞ」
「わかっています……いや、わからないですけど、だからといって放ってはおけません。それに、もう嫌なんです。僕の知らないところで何かが起きるのは」
「……わかった。行こう」
老人は僕の気持ちを察したのか、やさしく語りかけて走り出す。僕もその言葉に答えて、一緒に走り出した。
◇
僕はオレンジ色の灯りがまぶしくて手をかざす。やっと見えた村の入り口にはたいまつに照らされて、大勢の人が集まっていた。
「どうしたのですかー!!」
僕の声を聞いて大勢の人が余計にざわめき始めた。必死に事情を聞こうとしたけど誰も答えてくれない。だけど、ただ一人だけ僕らの声にこたえてくれた。
「お兄ちゃん!!」
大人たちの隙間を掻い潜ってアキラ君が僕らの前に出てきた。
「…お願い助けて。お姉ちゃんを助けて!!」
「落ち着いて、いったいどうしたの?」
アキラ君は一回深呼吸をして言った。
「お姉ちゃんが僕を助けるために激流に飲み込まれたの!!」
次の投稿は明日になります。