チャプター6
僕が小学三年の頃、僕は何もないところで思いっきりこけてしまった。
「あっ」
バタン、と効果音が出そうになるほど大げさに転んだ僕は鼻を地面にぶつけてしまう。
「いたい……」
「もう何してるのよ! ほら、手を貸して」
すると、志穂が手を差し伸べてくれた。
「本当に何してんだよ。ほら、貸せよ」
明も照れくさそうに手を差し伸べてくれた。
僕はその二人の手がとても眩しくて、とても嬉しくて、痛いのを忘れて満面の笑みになれた。
なのに……なのに!
◇
明が車に引かれた。僕はその事実を疑った。
「今ね…手術中だけど、重傷だって。それでね……」
「……だ」
「えっ」
「うそだ――――!!!!」
「翼!!」
お母さんが止める間もなく僕は家を出た。どこへ行くのでもなく、行くところさえないのに…。
バタン、気づけば僕は近くの公園で転んでいた。バラバラとひっくり返ったランドセルから荷物が飛び出してくる。
「……」
泣きたくなった。
声がしない。
何も見えない。
誰もいない。
僕一人しかいない。
嫌だ……僕は一心にそう思った。
「お願いです……」
こんな世界抜け出したいと願った。
「お願いです! 神様がいるなら、僕を二人の元に連れて行ってください!!」
そのとき僕の目の前で何かが光った。
「本……?」
僕の前でかすかに光っていたのは古い本だった。そう、あの老人からもらった本だった。
僕はその本をのぞき見る。
『夢の中、思いの中、再び道を選ぶ。選ぶ道、選ぶもの、選ぶ者により違う』
本の見開きにはこう書いてあった。その他には何も書いていない。もう何もないのかと思って僕はページをめくろうとした。まさにその瞬間だった。
「!!」
瞬く間に強く光りだした本に僕はびっくりして目を閉じた。
◇
光が収まって僕はおそるおそる目を見開く。そして、僕はまた驚く。
僕の目の前に見えるのはいつもの公園ではなく大きくてがっしりした大木だった。
「ここ…どこ…?」
僕はもうワケがわからなくなった。周りを見渡しても朝日に照らされて輝いている大きな大木だけ。そう、ここは森の中である。
「何でこんなところに…?」
僕は不思議でたまらなかった。
「いたっ」
けれど、しばらく呆然としていたら、後ろの方から女の子の声が聞こえた。
「声……後ろの方からだ。もしかしたら住民の人かも。住民の人ならここがどこかわかるよね」
僕は立ち上がって声の方向に向かった。
「いたたた……」
僕は声が聞こえた方向に歩いてると、僕よりちょっと年下の女の子がこけていた。
「あの……大丈夫ですか?」
「あっ、うん。大丈夫だよ」
「!!」
女の子が顔を上げた時、僕は驚いた。
「志穂……」
その女の子は志穂にそっくりだった。
次の投稿は明日になります。