チャプター5
「ついたぞ」
老人が言った。
僕はあれから走って走ってなんとかついてこれた。なぜか角を曲がるたび老人はその先を進んでいる。この人は本当に老人ですか、と問いたいぐらいだ。
僕は息を上げる。そんな僕は差し置いて老人はドアを開けて中に入る。
少し休んで顔を上げるとそこには店があった。恐る恐るドアに手を掛けて中に入ると、変な形の壺や、古くて埃のかぶったネックレスなどがあった。アンティークの店だと思う。
辺りの商品を見回すといきなり目の前に何かが落ちてきた。老人が僕に向かって投げてきたのだ。僕はあわててそれを取ってかざしてみる。
ビー玉だ。
透き通った…まるで小さな宇宙みたいにきらきら輝いている。
「きれい……」
ビー玉を覗いて僕は微笑んだ。
「その顔じゃ」
すると、老人が物陰からすっと出てきて話しかけてきた。僕はビー玉から視線を外して老人を垣間見る。
「その顔……?」
「そう、なんに対しても事を左右するのは『思い』じゃ。そしてその思いを一番物語るのは『顔』じゃ」
「思いと顔」
『思い』を物語るのは『顔』、その言葉が心に響く。
「あ、僕今まで悲しい顔してたんだ」
ふと僕は思った。老人は何も言わずに頷く。そうか、僕は知らずに悲しい顔になってた、だから今僕が何を言っても明は元気にならない。
「それはやろう」
いつの間にか老人が僕の目の前にいた。どうやらビー玉の事を言っているらしい。
「ありがとうございます」
僕は素直にもらうことにした。なぜなら、このビー玉を見ていると不思議と勇気が湧いて出る気がしたからだ。
「さぁ、もう日が落ちるから帰るといい」
「あ、本当だ。帰らないと…これありがとうございました」
僕は丁寧に別れを告げ急いで店を出た。
「まちなさい」
けれど、店を出たところで、またいきなり老人に呼び止められた。
「はい?」
僕は首を傾げた。
「これを……これをもって行きなさい」
そして老人は、手に取った本を無理やり僕に押し付けた。なんというか……とにかく古い本だった、ところどころ紙がやけた跡が見える。返すにも返せない雰囲気が見てとれる。
「あ、ありがとうございます……」
僕は受け取った本を背負っていたランドセルに詰め込んだ。それでは失礼します……丁寧に挨拶して今度こそ僕は走って帰った。
なぜだろう……老人は僕が見えなくなるまで悲しく心配そうに見つめていた。でもきっと僕の気のせいだろう……。
◇
「ただいまー」
そうして、家の帰路についた僕は勢い良く家のドアを開けた。
「お母さん……?」
でも、返事がない。僕は留守かなぁ、と思って玄関からロビーのドアに手を掛けた。ゆっくり開くと、お母さんがソファーに座っていた。
「翼」
そして、深刻そうな顔で僕を見ていった。
「翼、よく落ち着いて聞いて……」
僕は耳を疑った。
「明くんが……明くんが車に引かれたの」
次の投稿は明日になります。