EX チャプター2
風が頬に当たる。少し肌寒く感じた。
そっと目を開けると、目の前が眩しくて手で影を作る。指の隙間から見える光は一直線にこちらを向いていた。
「……ん」
やっと目が慣れてゆっくりと背伸びをした。もう空は夜の顔になっている。
「いよっ」
男の声がして私は振り向いた。自転車のライト越しに右手をあげて挨拶してくる「誰か」がいた。
「……」
「あれっ、反応なし?」
興味心身にこちらを見つめてくる。
「誰?」
「『誰?』とは失礼なやつだなぁ」
ライト越しにいる彼は興味を無くしたようにそっぽを向く。
「別に話さなくていいだろ。ここは幼稚園じゃないし」
「あ、うん。そうだね……」
笑いながら話しかけてくる彼に少しテンポを崩されていきながら私は答えていた。彼は何もかもすべて笑い飛ばしているように見える。私はそんな彼の後ろ姿に親近感がわいた。何もできない自分をそのまま見てる感じがして。
しばらくした後、私は彼に聞いてみた
「この木は君が植えたの?」
「うーん……ちょっと違うが、まぁそんな感じかな」
「へー」
私はまた木をちょこっと押す。それと同時に木の葉っぱ達が挨拶をするようにカサカサと揺れる。
「でも、勝手に植えて良いの?ここ一応、公共の場だよね」
その言葉を聞いた途端、うめき声を上げて彼が胸を押さえた。
「それは言わないでくれ……」
どうやら聞いたらいけなかったらしい。
「なんか君、この木みたいだね」
「ははは……案外、間違ってないかもな」
脱力した体を精一杯持ちこたえて彼が姿を現す。短髪できちんと髪をそろえている。服は普通のシャツとジーパンだったけど、いかにも青年だ。
「この木はまだ成長途中だがここから一歩も延びようとしない。俺と同じだ」
「……」
まただ。また、私と同じものを感じる。
「さーてと!! もう遅いし、送ってくわ」
「え、でも……」
「何があったかわかんないけどさ。帰ることをお勧めするよ」
「でも私、家を飛び出してきたから……」
正直、帰りたくはなかった。
「ちょっと待って」
すると、彼が手探りで何かを探す。
「あった」
そして、彼はポケットから丸いものを2つ取り出した
「ビー玉?」
片方のビー玉をこちらに投げてくる。私は落としそうになりながらそれを取る。見たところ、何の変哲もないビー玉だ。
「空に透かしてみろよ」
「……」
私は言われたとおり空に透かしてみる。すると、ビー玉の中にある気泡が自転車のライトを浴びて煌めいていた。まるで宇宙がそこにあるかのようだった。
「すごい」
彼も同じようにビー玉を目にあててみる。
「本当にすごいよな。こんなちっぽけなビー玉でも宇宙があるんだぜ」
「うん」
「もし勇気が出ないならそれを貸してやるよ」
「え」
「俺の大事なお守りだ。なくすんじゃねーぞ」
「・・・・・・ありがとう。私、帰るよ」
彼は満足したかのように頷いた。
そうして、私は彼に見送ってもらう事になり、彼の自転車の荷台に乗っかった。彼が自転車をこぎ始める。
「あのー、二人乗りっていけないですよね」
「おまえ、そういうところにうるさいな」
「一応、学校の先生を目指していますから」
「なら降りるか?」
「……」
私は黙りこける。歩き疲れて棒になっている足を彼は見抜いていた。茶化すように彼が返答を待つ。
「いじわる」
「へへ……それじゃー、スピード上げるぜ!!」
勢い良く風が拭いてくるのを肌で感じる。風に乗っているのがわかる。
「……また会いに行っていい? もっと君と話がしたい」
「『思いの木』の下でなら、いつでも!!」
この小さなビー玉が、早速私に勇気をくれたようだった。
次の投稿は明日になります。