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思いの木  作者: 暇したい猫(桜)
本編 思いの木
13/17

エピローグ


『拝啓:志穂に明、おじいさん、それに向こうの世界にいる皆様、お元気ですか。こちらは元気です。僕も中1になってしっかりした、と言いたいところだけどまだまだ頼りないです。

 あ、そうそう。藤崎君と中学で知りあった夢原さんって子と友達になったんだよ。藤崎君とはあのキーホルダーがきっかけだったから、志穂のおかげかもしれないね。

 最後になるけど………』


 ミーンミン。夏の始まりを告げる蝉の声が辺りに鳴り響く。その中で木を削る音がひときわよく聞こえた。


「これでよし!!」


 削り終えた僕は額の汗をぬぐった。


「つばさ君?」


 後ろから声を掛けられて僕は振り返る。

 そこには小学校でお世話になった先生が花束を持って立っていた。


「先生、お久しぶりです」

「……」

「先生?」

「ああ、ごめんなさい。ちょっと動揺しちゃった……」


 先生がゆっくりと僕の隣まで歩いた。そして、花束をゆっくり置く。


「つばさ君はどうしてここに?」


 先生は僕を見て言った。


「……ここにいると、つながっている気がするから。明や志穂と」

「そっか。つながる、か」


 そして、少しばかり沈黙が続く。


「先生もね。つながっていたい人がいたの」

「つながっていたい人……」

「だけどその人は突然いなくなったんだ。ほんと……急に」


 先生は一滴の涙を流す。


「……その人幸せだと思う。いなくなっても、それまでそこにあった思いと時間は本物だから」


 それを聞いた先生は少し驚き、そして、涙をぬぐった。


「……そうね。うん、そうよね」


 そういった先生は空を見上げた。


「いたー! つーばさー」


 直後、丘を登ってくる夢原さんが大きな声で呼んでくる。その声を聞いて藤崎の声も聞こえてきた。


「うん!! 今行くー」

「これからどこか遊びに行くの?」

「はい。これから夏休みの計画を立てようって話になって……」


 僕は先生の方に向き直った。それから、側に置いてあるかばんからあるものを抜き取る。


「先生、これあげます」


 僕は先生の手に小さな小包を置いた。


「え、でも」

「いいんです。何故かあげないといけない気がするから」


 僕はにっこりと笑った。


「それでは、いってきます」


 僕はかばんを持って夢原の方へ走った。


「いってらっしゃい。これ、ありがとうね」


 先生は優しく応えた。

 僕を見送った後、先生は小包を丁寧に開けていく。そして、中身が見えた途端、先生は息を呑んだ。


「ビー玉……!?」


 小包の中に入っていたのは占い師のおじいさんからもらったビー玉だった。

 そのビー玉を先生は懐かしそうに握っていた。それから空に透かしてみた先生は跪いてつぶやいた。


「……生きててよかったよ。輝青君」


 そして、先生は泣いた。

 あれからぼくたちは何か変わったわけでもなく、ただ精一杯生きているだけである。

 けれど、それまでの何気ない思いは本物だから……だからこそ僕は木を削って書いた手紙の最後にこう書いた。


『僕はこれからも精一杯生きて精一杯思いつづけるよ。だって、生きて思うことこそが心だから』


 ――「頑張れ、翼」


 ふと、そんな声が僕の耳に届いた気がした。



次は番外編の物語になります。明日の投稿になります。

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