エピローグ
『拝啓:志穂に明、おじいさん、それに向こうの世界にいる皆様、お元気ですか。こちらは元気です。僕も中1になってしっかりした、と言いたいところだけどまだまだ頼りないです。
あ、そうそう。藤崎君と中学で知りあった夢原さんって子と友達になったんだよ。藤崎君とはあのキーホルダーがきっかけだったから、志穂のおかげかもしれないね。
最後になるけど………』
ミーンミン。夏の始まりを告げる蝉の声が辺りに鳴り響く。その中で木を削る音がひときわよく聞こえた。
「これでよし!!」
削り終えた僕は額の汗をぬぐった。
「つばさ君?」
後ろから声を掛けられて僕は振り返る。
そこには小学校でお世話になった先生が花束を持って立っていた。
「先生、お久しぶりです」
「……」
「先生?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと動揺しちゃった……」
先生がゆっくりと僕の隣まで歩いた。そして、花束をゆっくり置く。
「つばさ君はどうしてここに?」
先生は僕を見て言った。
「……ここにいると、つながっている気がするから。明や志穂と」
「そっか。つながる、か」
そして、少しばかり沈黙が続く。
「先生もね。つながっていたい人がいたの」
「つながっていたい人……」
「だけどその人は突然いなくなったんだ。ほんと……急に」
先生は一滴の涙を流す。
「……その人幸せだと思う。いなくなっても、それまでそこにあった思いと時間は本物だから」
それを聞いた先生は少し驚き、そして、涙をぬぐった。
「……そうね。うん、そうよね」
そういった先生は空を見上げた。
「いたー! つーばさー」
直後、丘を登ってくる夢原さんが大きな声で呼んでくる。その声を聞いて藤崎の声も聞こえてきた。
「うん!! 今行くー」
「これからどこか遊びに行くの?」
「はい。これから夏休みの計画を立てようって話になって……」
僕は先生の方に向き直った。それから、側に置いてあるかばんからあるものを抜き取る。
「先生、これあげます」
僕は先生の手に小さな小包を置いた。
「え、でも」
「いいんです。何故かあげないといけない気がするから」
僕はにっこりと笑った。
「それでは、いってきます」
僕はかばんを持って夢原の方へ走った。
「いってらっしゃい。これ、ありがとうね」
先生は優しく応えた。
僕を見送った後、先生は小包を丁寧に開けていく。そして、中身が見えた途端、先生は息を呑んだ。
「ビー玉……!?」
小包の中に入っていたのは占い師のおじいさんからもらったビー玉だった。
そのビー玉を先生は懐かしそうに握っていた。それから空に透かしてみた先生は跪いてつぶやいた。
「……生きててよかったよ。輝青君」
そして、先生は泣いた。
あれからぼくたちは何か変わったわけでもなく、ただ精一杯生きているだけである。
けれど、それまでの何気ない思いは本物だから……だからこそ僕は木を削って書いた手紙の最後にこう書いた。
『僕はこれからも精一杯生きて精一杯思いつづけるよ。だって、生きて思うことこそが心だから』
――「頑張れ、翼」
ふと、そんな声が僕の耳に届いた気がした。
次は番外編の物語になります。明日の投稿になります。