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思いの木  作者: 暇したい猫(桜)
本編 思いの木
12/17

チャプター12


 村に着いた僕たちはその入り口で立ち止まった。僕はおじいさんに聞いた。


「どうしたんですか、急に?」

「先ほどの話の続きをしようと思ってな」


 おじいさんはただ一言だけ言って聞いてきた。


「もとの世界に戻りたいか?」


     ◇


 村と渓流をつなぐ街道を歩く村人の中、志穂は村の子供たちと一緒に話しながら帰っていた。あれから数分してやっと村の人々から解放されたのだ。


「でも、先に帰るんなら、言ってくれればいいのに。翼たら……!!」

「大変だよ!! 『志穂』お姉ちゃん!!」


 村の方から急いでこちらに来る人影がいた。アキラ君である。


「どうしたのアキラ君?」


 志穂は冷静にアキラ君に聞いた。アキラ君は志穂の手を握って言う。


「お兄ちゃんがもとの世界に帰ちゃうよ!!」


     ◇


「本当に帰るのかね?」


 後ろからおじいさんが確認してくる。


「うん。お母さんが心配していると思うし、やり残したことがあるから」

「そうかぁ……そうだな」


 おじいさんが弱々しく答えると同時に僕たちは『思いの木』に着いた。僕は後ろに向き直して言った。


「それに僕には僕の人生がありますから!!」

「……それを言われては手出しできんな」


 おじいさんは諦めたようにため息をつく。そんな中、僕は聞きづらそうな顔をして聞いた。


「あの一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

「なんで僕をこの世界に?」

「……プレゼントしたかったから」


 おじいさんが恥ずかしそうに言う。


「えっ?」

「志穂にプレゼントしたかったんだよ!! 友達を!!」


 恥ずかしそうにしていると思ったら、いきなり怒り出した。


「なのに今時の若者はだらしないったらありゃしないぜ。だから偶然、花を植え替えたお前を見て一目置いていたんだぞ」


 僕はそのペースについていけなかったが、なんとなくおじいさんにも子供らしい一面があることはわかった。


「ん、まって。もしかしてそのためだけに?」


 こくりと首を縦に振る。


「ぷっ」

「なっ!!何笑ってるんだよ」

「ごめんなさい…。だけど、子供らしい発想だな、って」

「悪かったな!!」


 おじいさんが顔を背けながらすねている。


「それでは僕はこれで……」

「あ、ああ。帰り方は覚えているか?」

「はい。『少年の魂をつなぎとめているのは少年にあげた本だ。だからそこは心配ない。少年はただ木に触って帰りたいと思えばいい』ですよね」


 僕は元の世界への帰り方を確認して思いの木に触ろうとした。


「まって―――!!」


 だけど、僕の真横から声が聞こえてくる。そして、だんだん大きく早さが増していた。


「とう!!」


 そして、真横から志穂の姿が見えたのと同時に、志穂の体当たりを受けて僕は飛ばされていた。


「いったぁ~。何する……!!」


 上体を起こした僕は志穂の顔を見て驚いた


「泣いてるの……?」

「泣いてなんかいない!!」


 志穂は強がっていたが今にも泣きそうだった。


「あんたはいつもそう!! 心配させないようにいつもひそひそして」

「あ、いや、そんなつもりは……」

「……かえ…の。本当に帰るの……。悪いけど、向こうには友達もいないのよ!! 一人で大丈夫なの!!」


 ついには耐えられなくなって、志穂は泣き出した。僕は志保の頭を優しく撫でながら呟いた。


「……帰るよ。大切なことを教えてもらえたから」

「大切なこと……」

「うん。『そう思うのなら行動しなさい』って事を」


 あ……志穂は自分が翼に言ったことを思い出した。


「確かにここに残るのも一つの手だと思うけど、それだと何もできない僕のままだから。何ができるかわからないけど、今僕がやれることをやりたいんだ」


 僕は志穂の真正面に見て言った。


「……」


 志穂は黙ったまま、服のポケットに手を入れて何かを取り出し僕に差し出した。


「あー!! 僕の失くした写真!! と、キーホルダー……?」

「ちょっと寂しくなっちゃって。そしたら写真のこと思い出して。記憶があれば思いの木を使って生前の世界にいけるから見に行こうと思ったの」


 志穂が照れくさそうに言う。


「そしたら、姿が黒いもやもやになるし、翼の席がわからないし、明には見られるしで1日目は失敗。次の日にやっと写真をみつけたのに今度は翼に見られて。ついどっちとも持ってきちゃった。」

「ということは、あの黒い霧は志穂だったの」

「うん。だから返す。そして、ごめん。」


 志穂は差し出したまま謝った。僕はキーホルダーだけ取って立ち上がった。


「これだけ持っていくよ。これは藤崎君のものだから」

「……この写真は?」

「志穂にあげる」


 志穂は一瞬驚いたが、あきれた声で小さく言った。


「ありがとう」

「それじゃ、今度こそ行ってきます」


 僕はみんなを見渡しながら思いの木に触った。すると、引っ張られるように僕は木の中に吸い込まれていく。


「元気でな。少年」

「向こうでもしっかりするのよ」


 おじいさんと志穂が見送る。

 僕は頷く。そして、もう少しで木に飲み込まれる僕は再び声を掛けられる。


「お兄ちゃん!!」


 その声はアキラ君だった。アキラ君はまだ小さな子なので、一生懸命走ってやっとここにたどり着いたのだ。


「またね! またね!!」


 走りながらアキラ君は叫ぶ。


「もうクラスのみんなから嫌に思われないでね、翼お兄ちゃん!!」

「えっ!!」


 まさか……アキラ君も。そんな思いを持ったがそのときにはもう僕は完全に木に飲み込まれた。そして、小さくなっていくみんなの姿を見ながら僕は眠る。


     ◇


「行っちゃったね」


 志穂はいつまでも僕が消えた方向を見ていた。ゆっくり目を閉じてやっとのことでおじいさんを見つめる。


「よかったの? 少しぐらい伝言を頼めばよかったのに」

「……何のことかな?」

「翼を連れてきたのは私のためだけではないはずだよ、輝青おじいちゃん」

「いいんだよ……。これで……これで!!」


 おじいさんは思いの木を見上げながら言いきった。見上げた思いの木は空色に輝いていた。


     ◇


 トン……何かが僕の顔にあたって僕は起きた。目を開けたとき、まず夜空が見えた。

 そして、僕の側には夜空に舞い散る空色の桜と一本の枯れた樹があった。

 気づけば僕は丘の上にいた。


次の投稿は明日になります。

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