チャプター11
それから数分の間、僕たちは一生懸命木に力を加え続けた。だが、動かない……子供二人だけの力ではどうにもならなかった。だけど、あきらめるわけにはいかなかった。必死に押し続ける。
「なんでそこまでするの……?」
すると、僕たちを見ていた村人たちの中から一人の少女が出てきて言った。後ろ髪が三編みでいかにも村娘風の子だった。
「なんでそこまでするの?そこまでする理由は何?」
村娘風の少女が真剣に聞いてくる
「だって友達だから」
「えっ」
「友達だから助ける。ただそれだけ」
村娘風の少女は一瞬驚いたが再びまじめな顔で聞いてくる
「自分が犠牲になるかもしれないのに?」
僕は軽くため息をして言った。
「僕、思うんだけどね。別に理由はいらない気がするんだ。どうこうするとかじゃなくてシノは僕の友達で僕はもう一度友達と遊びたい。そんな感じ。」
「……」
「それに自分を犠牲にしてるつもりはないよ。『遊びたい』って思ったのは自分だし、何より体が先に出るぐらいだから後悔もしていないと思う」
僕は苦笑しながら「今まで自分自身ぐだぐだ考えてたのにね」と追加して言った。
たぶんバカなのだろう。自分でもどういえばいいかわかんなくて口ごもる。
「変な人」
村娘風の少女はそう言って僕たちに近づき、一緒に木を押す。
「あ、え、……いいの?」
僕は慌てて村娘風の少女に聞いた。
「いいの!……私もお姉ちゃんと遊びたかったから」
「えっ」
「もう!! いいから、力入れなさい」
「あっはい!!」
僕は村娘風の少女に怒鳴られてまた力を入れる。「もう…」といった感じで村娘風の少女がまた話し出す
「私ね、いままで村のはずれとかでお姉ちゃんの姿を見かけてたの。そこの小さい男の子と一緒に遊んでてね、すーごく楽しそうだったからいいなって思ってた。でもお母さんが遊んではいけないっていうから我慢してた」
「そっか……」
僕はやっぱりシノは一人だったんだと実感する。
「でも、あなたの言葉を聞いて決めた。私、お姉ちゃんと遊びたい!! まだ子供だから大人の事情ってよくわからないけど、たぶんどうにかなるよ。うん、きっと大丈夫!!」
村娘風の少女が胸を張って言い切った。僕はなんだか救われたような感じがした。僕の言いたいことを言ってくれたのだとわかった。そして、仕切り直そうとした時、
「俺も手伝わせてくれ。おぼれている譲ちゃん、俺の店のお得意様なんだ」
「私も手伝うわ。転生できなくても意外とこの生活気に入ってるし」
商人の格好をした男性や綺麗な女性が群集から飛び出して言ってくれた。
他にも村長や農家の人々が名乗り出て、結局はみんなで役割分担をして救出作業が始まった。
「男たちの力見せるぞ。せーの!!」
――『ドン!!ミシミシ……バシャン!!』
木は無事に倒れ、渓流の両側を挟むようにそびえ立つ二つの岩にうまく引っ掛かった。
「さぁ、私たちも行くよ!!みんなきっちり結ぶんだ」
二つの岩に子供たちが持ってきたロープでしっかり結びつける。
「あともう少しじゃよ、がんばれ」
「あ、はい……!」
力のない人や老人はシノの様子を見てくれている。
「さぁできたよ。行ってやんな。後はまかせたよ」
農家のおばちゃんに背中を押され僕はこけそうになったが何とか持ちこたえた。
僕はそのまま歩きにくい木の丸太部分を渡ってシノの垂直線上で足場を固定した
「いいよー!!」
その声を聞いてシノが息を呑む。
「……それじゃ、いくよ」
心の準備ができた瞬間、シノは両手を離し片手を大空に向けて滑るようにこっちに流されてくる。誰もが固唾を呑んで見守っていた。
ギュッ……僕はきちんとシノの片手を取って上体を起こして、木の上にしがみつかせた。それと同時に辺りは喝采で満ちた。シノは恥ずかしく頭を下げ、僕はとにかくほっと安心した。
「よかったね。シノ」
「もう『志穂』でいいよ」
「え」
「いろいろと知っちゃったんでしょ。だからもう志穂でいいの」
志穂はにっこりと微笑む
「うん……そうだね」
僕は照れくさそうに微笑み返した。木から降りた僕達は村人に囲まれてびっくりした。「よくやったな」とか声を掛けられたが、ほとんどは志穂に対して「いままでごめんな」という言葉をかけていた。
そんな中、人混みの中からおじいさんが手招きしていた。僕は一人気付かれないように村の方へと戻る。それを見ていたアキラ君は僕たちをこっそりつけてきていた。
次の投稿は明日になります。