チャプター10
シノたちの家とは反対側、村を西に行ったところに幅が狭い渓流があった。
幅が狭いといっても、いつも流れが強く大きな岩が流れを邪魔して通れるところではなかった。
「ここでいいんだよね? アキラ君」
「うん! ここが下流だよ」
僕とおじいさんはアキラ君の案内でシノがおぼれたという渓流の下流付近に来ていた。
辺りを見渡せば下流付近にも村人が集まっていた。
「お兄ちゃん、あそこだよ!!」
アキラ君が指差した場所は渓流の間からひょこんと飛び出た大きな岩だった。そこにシノがしっかりとしがみついていた。
「シノ!!」
「君は!! どうしてここに!?」
「そんなことよりすぐ助けるからね!!」
僕はシノを助けようと浅瀬まで入ろうとしたが流れが強すぎて入れなかった。
「無理しないで!! 君もおぼれちゃう!!」
シノが精いっぱいの声で言う。確かにこの流れではまともな救出は無理だと思う。
「どうしよう。近道しようとして滑って……いつもはこんなに流れがすごくないのに、どうして……」
アキラ君が涙ぐみながら訴える。
「誰か浮くものを持ってきてください、浮き輪とかなんでも良いから。あとロープも!」
僕は村人に向って言う。ここの地域に詳しい人なら迅速に動いてくれると思ったからだ。でも、村人たちは誰一人動こうとはしなかった。
「どうしたんですか? 今、目に前でおぼれている子がいるんですよ」
それでも村人はざわめいているだけで、誰も動こうとはしなかった。
「無駄だよ。少年」
一緒についてきた老人が、僕の後ろでシノの様子を見ながら言った。
「無駄ってどういうことですか」
「言葉通りだよ。いくら言っても周りは動かん。」
「なんで!!」
「シノが記憶持ちだからだよ」
「記憶持ち?」
すると、おじいさんは要点だけを説明する。この世界の人たちは普通は生前の記憶は失われている状態でこの世界に来る。だが、時々生前の記憶を持った状態で来る人がいるらしいのだ。
その人をこの世界では総称して『記憶持ち』と呼んでいた。そして、この世界では記憶持ちに関わった人は転生しづらくなるといわれている。
「誰しも自分が大事だ、だから誰も関わらない……何が起こるかわからないから、巻き込まれたくない」
「なにそれ……?」
それだったら、シノはいつも一人だったのか……?
「翼!!」
シノが大きな声で呼んで僕は我に帰った。
「私は大丈夫だから。一人でも何とかしてみせる」
そう言うとシノは岩に身を乗り出したが、
「痛っ、きゃっ!!」
右足の痛みで体制を崩した。シノはなんとか両手で岩につかまったが、今にも流されそうだった。
「うぅ……何かないのか、なにか……」
僕一人ではどうにもならない。でも、他の人も頼りにできない。そう思った僕はシノがいる付近のそのまた先の下流付近を見回した。
傾いて渓流に落ちそうな木、その先にある渓流の両側を挟むようにそびえ立つ二つの岩。
「これならできるかも」
僕はひらめいて、傾いた木に向う。アキラ君も僕についてきてくれた。
「ごめんな、お前も生きたいんだろうけど力になって」
傾いた木に着いた僕は力いっぱい木を押す
「お兄ちゃんどうするの!?」
追いついてきたアキラ君が聞いてくる。
「この木を倒すんだ!! とにかく、シノの手を掴めれば上体を起こせる」
「そっか、橋代わりにするんだね」
そう言った後、アキラ君も一緒に押してくれた。
次の投稿は明日になります。