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7.修学旅行

それでは本日の一本目です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


面白いと思っていただけた方は、感想や評価をよろしくお願いします。


あと、二話ほどあげます。

 さて、周りのクラスメイトが楽しみで楽しみで辛抱たまらん! という様子が顕著であった修学旅行前日から一夜明け、いよいよ修学旅行がスタートすることになる。


 かくいう俺も、精神年齢はそれなりだが、こういったイベントを楽しめる心は持ち合わせているようで意外にも楽しみにしていたらしい。

 まだ集合時間前なのに何を食べようかと考えていた。


 修学旅行は二泊三日の予定だ。

 母からもお土産をよろしくたのむと言われているため、何を買うのかも考えておいた方が良いだろう。ホテルのお土産売り場で手軽に済ませてもいいが、金はあるためそれなりのものでも買っておくか。


 中学の校庭が集合場所となっているため向かってみれば、まだ15分前だというのにほとんどの生徒が集まっていた。


「なるほど、これが若さか」


「あなたと同い年ですわ、名都さん」


 フッ、とまるで元気な子供を見ている気分に浸っていると、いつの間にか隣にいた安芸城に気分もろともぶっ壊された。


「おはよう、安芸城さん。これはあれだ。俺の精神は大人だから、そういう気分になるんだよ」


「何をおっしゃるのかと思えば……まぁ、話しをしていて偶にそう感じることもありますが。それより、荷物の確認はしっかりなさいました?」


「もちろん。安芸城さんは?」


「フフッ、この安芸城ユイをあまりみくびらないでくださいまし。(わたくし)含め、使用人三人にも確認させましたわ! 完璧以上と言っても過言ではありませんわよ!」


 オーホッホ! とまるで漫画の様に高笑いする安芸城さん。そんな彼女は、日焼けしないようにとつばの広い白の帽子にサングラスまでかけていた。

 なお、学校からは制服で集合するように言われているのだが、本人にその恰好はいいのかと聞いたところ、全く問題は無いとのこと。どうやら教師に許可を取ったらしい。


 ちなみにであるが、彼女――安芸城とはあの自販機であった日以来こうして話すようになった。

 また何か話しましょう、とチャットツールであるLinkの番号も交換している。これはもう友達と呼んでも良いのではないだろうか。


 今世初めての友達が、安芸城のような美少女とはなかなか嬉しいことだ。


 そして話すようになった安芸城は、心なしか以前よりも雰囲気が柔らかくな多様な気がする。その証拠にクラスの中でも人と話している様子を時折見かけた。

 

「では出発するぞ」


 全員が集合したことが確認できたのか、学年主任の教師が合図を出し、次々に駅までの直通バスへと乗り込んでいく。

 各クラスごとにバスがあるのだが、今のところ仲良く話せるのが安芸城しかいない俺はこの修学旅行において移動時間こそがもっとも苦行だと言わざるを得ない。なにせ、普段から俺と話をするような奴などこのクラスにはいないのだから。


 いない、はずなのだが……


「フフ、穴が開きそうなくらい僕を見るなんて……この僕に! 何か用かな?」


「あ、何でもないです」


 どうやら田中君は例外だったらしい。

 芝居がかった仕草で話しかけてくる田中君から思わず顔を背けてっしまったが、彼は気にせず「同性すらも顔を背けてしまう僕の美しさが憎い」なんておっしゃられていた。


「ところで君、よく安芸城さんと話しているよね。名都(なつ)君……でよかったかな」


「お、おう……俺が名都だが、どうした急に」


 「いやなに」と無駄に黒髪を靡かせた彼は、騒がしいバスの中であるにも関わらず、静かにしかしはっきりとした声でこう言った。


「感謝しているのさ。安芸城さん、転校してからあまり馴染めてなかったみたいでね。どうにかしようと僕も話しかけてはいたんだけど、なかなかこれが上手くいかなかったんだ」


 やれやれだよ、と力なく肩を竦めて見せた彼は「この間なんて、あなたじゃない、何て言われたよ」とため息を吐いていた。

 ……あれで馴染めるように話しかけていたのか。


 そんな彼は「それなのに、だ」と言葉を続けた。


「ついこの間から、彼女の雰囲気が柔らかくなったようでね。気にしてみれば、君とよく話しているのを見かけたんだよ。僕は君の影響で彼女が変わったと思っているんだが、どうなんだい?」


「……いや、たまたまなんじゃないか? 確かに話すようにはなったが、結局はそれも安芸城さん自身の結果だろうに」


「まぁ、君がそういうのならそういうことにしておこう。だがそれでも、彼女が変わったことは事実だ。理由はしらないけど、この学校に来たのも何かの縁だ。どうせなら、彼女にも良い学校だったって思ってもらいたかったから、僕としては嬉しい限りだよ」


 ほらあれ、と窓の外を指さした彼につられて見てみれば、隣のクラスのバスが並行して走っており、ちょうど隣り合った位置に安芸城がいた。

 彼女は、クラスメイトの女子と楽し気に会話を楽しんでいる様子であったが、ふいに窓の外から見ていたこちらに気づくと、周りの女子に隠れるようにしてそっと手を振ってきた。


「やっぱり、君の影響かな?」


「さぁな」







 田中君が言動や行動の癖が強いのはともかく、予想以上の人格者で良い奴だったということが判明したバス移動を終え、今度は新幹線での移動だ。


 今世で新幹線と言えば、前世とあまり見た目が変わっていないがその速度は時速500キロを超えて走るものになっている。

 そして、前世の新幹線との一番の乖離は地下を走っているところだろう。


 (ゲート)の発生によって、当初は交通機関に多大な被害が出たとのこと。そこで政府はすべての交通機関を地下へ移す計画を立てたのだそうな。

 ただ、今では車を利用する人はほとんどいないようで、残っているのは駅まで動く自動バス程度らしい。人々の地上の長距離移動手段は完全に電車もしくは新幹線に移行したようだった。

 前世でよく名前を聞いた自動車メーカーも、今ではそのほとんどが電車の部品を制作しているようだ。

 

 閑話休題


 さて、二度目の移動も隣の席は田中君……なんて事にはならなかった。

 現在彼は、俺から少し離れた席で男子と固まって楽し気におしゃべり中だ。


 対して俺は、隣の席の男子と少々気まずい雰囲気になりながら、地下道の壁しか見えない窓の外を眺めているのだった。


 田中君よ。あれだけ人を気遣える君に是非ともこの状況を打破してほしいものである。


 結局、彼どころか誰からも助けが入らなかった新幹線の移動を終え無事(精神は別)に京都へとたどり着く。

 到着後すぐに宿泊予定のホテルへと向かった我が中学一行は、荷物を部屋に置いたらロビーへ集合とのことだった。


 この修学旅行は、一日目は現地のガイドさんにあちこち説明を受けながら観光し、夜には学年全員でゲームをやる。二日目はオリエンテーションを中心で、そして最終日は帰るまで自由行動となっているのだ。


 班員から少しだけ距離を取ってロビーへと急ぐと、大体の生徒はもう揃っていた。

 俺よりも後に来た生徒が学年主任に遅いと怒られたのち、今回ガイドしてくれる方々の紹介が始まった。


 その際、辺りを見回してみれば教師でもガイドでもない、大人が数名いた。

 中には武器を所有している物騒な奴がいたが、彼らが同行してくれる探索者なのだろう。


 案の定、ガイドさんの後に紹介された彼らはこの京都を中心に活動しているフリーランスの探索者らしく、その中の一人はB級とのことだった。


 このB級などのいわゆる探索者のランクは、その探索者の功績や実力によって定められるもので上からA,B,Cの三種類が存在するとされている。

 よくC級は弱いと勘違いされるのだが、そんなことはない。


 探索者であると言うことは、最低でも異能レベルが4を超えているという証明にほかならないのだ。


 そして政府にも企業にも所属していないフリーランスの探索者らしいが、政府にも企業にも属さないフリーランスだからこそ(ゲート)発生時には素早く動けるのだ。

 一例では、突発的な扉の発生で出現した怪物の撃破数はフリーランスの探索者の方がはるかに大きいとされている。

 まぁその分、自身の力のみで稼がなければならない。

 怪物の撃破による報酬や、撃破した怪物の素材を売ることで生計を立てるのが主で、周りのフリーランスの探索者との競争になるそうだ。

 あとは、こういった護衛任務とかかな。


 B級の探索者が代表してあいさつしているのを聞き流す。途中で、自分は来年からどこどこの企業所属になるからよろしくという宣伝をかましていったが、まぁいいだろう。


 こうして俺たちの修学旅行は幕を開けるのだったが、この時の俺は、まさかあんなことになるとは夢にも思っていなかったのだった。

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