4.検診とお嬢様
続けて投稿出来て嬉しい限りです。
それでは本日の一発目! 行ってみよう。
検診当日
いつものように登校してきた俺は、検診までの授業を聞き流しながらグラウンドを眺めていた。
ちょうどどこかのクラスが体育の授業中である。
一年生だろうか。まだ背が低いようで、なんだか微笑ましいものを見ている気分になってくる。
「名都、これを解いてみろ」
「はい」
集中していないことに気づかれたのか、教壇の教師が黒板に書かれた計算式を示して解くように言ってきた。
しかしながら、集中していないとはいえこれくらいなら問題なく解ける。
答えを出してこれで良いかと聞けば、何とも面白くなさそうに「正解だ」と言って着席するように促してきた。
◇
そしていよいよ検診の時間だ。
それなりの時間がかかる検診は、すべての授業が終わった後に行われることになっている。
気合いの入っている奴は良いが、特にこの検診に意味を見出していない奴は早く帰りたいという顔をしていた。俺も、その一員である。
というのも、【異能】の検診はそれ専用の施設でなければ計測することができない。
施設も各校に一つなんて数はないため、学校ごとに予約を入れることになっている。一応個人での予約もできるが、学生のうちは学校でまとめて受ける方がお安く済むのだ。
大型バスを何台も使い、生徒全員で向かった先は超巨大なドーム形状の施設。
この中には【異能】の測定の他に、【異能】の訓練施設も併設されているのだとか。使ったことは無いためよくは知らない。
「それぞれクラスごとに並べ! 三年生から順に行くぞ。しっかりついてこい!」
学年主任の合図で、バスから下車してバラバラだった集団が徐々に整い始める。
年功序列、最高。悪いな一年生、これが世間だ。
まぁ、中は多くの人が一度に測定できるため一年生に回るまでそれほど時間はかからないだろう。
【異能】と一口に言っても、その種類は数多く存在する。そのため、この検診ではそれぞれの【異能】に見合った測定が行えるように様々な機材が用意されている。
前に例で上げた炎の異能なら、その火力や範囲、温度などを測るだろうし、怪力の異能ならどれだけ重いものを持てるのか、みたいな感じだな。
「では各個人、自分の異能を計測しに向かってくれ。終わった者から帰るまでの間自由行動とする。ただし! くれぐれもこの施設から出ないように。いいな!」
あちこちから「はーい」という間延びした声が上がるが、次には早く行こうぜ、競争な! みたいな声がちらほらと聞こえてくる。よほど楽しみにしていたのであろう。
男子のほとんどや女子の一部がさっさと移動していく中、俺はゆっくりと移動を開始する。
似たような系統の異能者が多いと、機材が多いとはいえ順番待ちが発生する。しかし、俺が【異能】として通しているこれは、似た系統の異能者が少ないため然程待つこともない。
そうやって、去年と同じ感じで良いかと考えながら計測場所へと向かう途中、俺はふとまだ移動していない生徒がいることに気が付いた。
金髪に碧眼という日本人離れした見た目に整った顔立ち。中学三年にしては発育の良く、身長は170ある俺より少し低いくらいだろうか。女の子にしては背は高いほうだ。おまけに、顔の両サイドにはぐるぐると巻かれた見事な金髪のドリル。
その少女は、何やら難しそうな顔でその場に佇んでいた。
あんな目立つ子、うちの学年にいたか? と疑問に思ったがそれもすぐに晴れた。
噂の転校生のお嬢様だ、あの娘。
有名私立から突然転校してきたお嬢様、ということで転校してから少しの間はみんなの興味の対象となったらしいが、その性格と凄みでたちまち周りの人は近づかなくなったのだとか。
「大変だよなぁ、あの娘も」
無視して測定に行こうとしたのだが、ふとその少女が気になって振り返る。
案の定、少女は動こうとはしていなかった。
「なぁ、もうみんな移動してるぞ? 君の異能によっては順番が遅れると思うんだが」
「え……っ! か、感謝しますわ!」
見かねて声をかけてやると、その少女……確か安芸城って名前だったっけか?
安芸城は一瞬困惑したようだが、周りに人がいないことに気づくと駆け足で去っていったのだった。
「……しますわって、リアルに言う奴いるんだな」
もしかして、あいつのいた有名私立の学校にはそういうのばかりが在籍しているのだろうか。
頭に「ごきげんよう」とあいさつを交わす学生を思い浮かべて笑いそうになった。
そして自身の測定場所に到着。
予想通りあまり人はいないため、すぐにでも検診が始められるようだった。
「では始めてください」
俺が表向きに提出している【異能】について書かれているであろう紙を見ながら、白衣を纏った測定者の男性が合図を出した。
合図とともに、俺は目視した場所へと一瞬で移動する。
「距離100m……前と変わりはないね。まだいけそう?」
「すいません。もうきついです」
まったくこれっぽっちもそんなことは無いのだが、さも疲れていますよという態度をとれば男性は「そうか」と一言。
さらさらと何かを書き加えると、今度は回数とかインターバルは? と聞いてくる。これについては「変わりなく」と答えておけば万事OKだ。
「異能レベル3ね。結果を渡しておくよ」とプラスチックのような見た目をしたカードを渡されると、そこには俺の名前と所属学校、そして異能レベルが明記されていた。
なお、このカードであるが異界の素材でできたものである。
プラスチックよりも軽く、鉄よりも頑丈という謎素材だが、基本的に異界のものはこんなのばかりなので気にしてはいけない。
そしてここで新たに説明をしておくと、今回使用したのは俺があの存在に叶えてもらった10個のうちの一つ、【瞬間移動】である。なお、望んだ理由は移動とかで楽ができるからである。
自分自身(身に着けている物含む)にしか効果はないが、目に見える範囲に距離を無視して一瞬で移動することができる。
もちろん、100mが限度なんて嘘であるし、やろうと思えば連続での使用も可能だ。
しかしそれをしてしまうと、希少な空間移動系統の【異能】ということも相まって、異能レベルが確実に4を超えることになる。
探索者を目指すことに異論はないのだが、そのために【異能者認定資格】を取らなければならないのが面倒すぎる。その上、空間移動系統ともなれば有名なところを含めて変なところからも目を付けられかねない。後ろ盾も何もない一般中学生には危険すぎるだろう。
故に手を抜く。
今回の検診によって探索者になることは難しくなるが、特にそれを目指して今迄生きてきたわけでもない為構わない。
今世は、俺が納得する形で生きようと決めているのだ。求めていた刺激何て、今のこの世界の普通で十分すぎるほどである。
ありがとうございましたー、とやる気のない声で測定場所から退出する。
すごく暇であるが、基本的にはこの施設内を見てまわるか他の生徒の測定を見学することが通例となっている。
俺もそれに倣って何か面白そうな異能持ちはいないかなと探していると、遠目で数多くの生徒が集まっているのが目に付いた。
野次馬根性丸を出しに知て人の輪に加わってみると、ガラスで閉ざされた部屋の中で検診が行われているようだった。
「ここは、何の測定だ?」
「増強系統だよ。身体強化とかのやつ」
名も知らぬ生徒に尋ねてみると、案外丁寧な返事が返ってきた。
増強系統
いわゆる身体機能の向上する異能のことを指す。力が強くなったり、足が速くなったりはこれに当たるし、感覚の機能上昇もここに分類される。
俺の所持する【直感】や【ある程度の身体能力】もここに分類されるものだろう。
誰が今測定しているのかと覗いてみれば、ちょうど出てきたのは学校一のイケメンと名高い田中君ではないか。
顔良し性格良し頭良しで、おまけに学校唯一の異能レベルも4という彼。噂では探索者が志望なのだそう。
スタート位置だと思われる場所で構えた彼は、白衣の女性の合図とともに駆けだした。
50m四方はありそうな広い空間。そのあちこちに設置された標的をいかに早く破壊できるのか、というのがここの測定だ。破壊される標的は異界金属製らしく、その破壊時の力も測定ができるのだとか。
そんな彼は、ものの十数秒で数多く存在した標的を破壊し、最後には観戦していた俺たちに向けて手を振っていた。
周りの女子生徒たちがわーきゃーと騒いでいる。
「おい、あれ……」
「本当だ。安芸城さんじゃないか」
ふいに集団の中から聞こえた声に、騒がしかった女子が一瞬で静まり返った。
部屋の中を見てみると、安芸城が警棒のような何かを手にしてスタート位置についているのが伺えたのだが、その本人がこちらを鋭く睨んでいるのが見えた。
安芸城の眼力は女子を黙らせる。覚えておこう。
先に測定を終えた田中君が話しかけているのが見えるが、何か言われたのか肩を落として下がっていた。
いったい何がしたかったんだ田中君……
しかし、これだけ注目されるのも仕方ないだろう。
何せ、彼女はかの有名な安芸城グループの娘で有名私立からの転校生だ。
その有名私立というのも、在籍するのはほとんどが異能レベル4の強者であり、中には5、6もいるとかいう話だ。
そんな誰もが注目する中、安芸城さんが合図とともに駆けた。
そしてものの数秒で全ての標的が破壊されたのだった。
安芸城ユイ 異能レベル『5』
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