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31.佐栄垣と水無月

読者ふえろぉ~…! ふえろぉ~…!

 『孤島』


 それはこの日本において、ただ一つを示す言葉だ。

 過去の人間であった俺からすれば、孤島なんていうのは島の呼び方の一つでしかない。


 しかしこの時代、この世界の日本において、その名前は異能研究の最先端の研究施設と探索者を目指す最高峰の高校である異能研を含めた島の名称となっている。


 補足して言うなら、この島は自然にできたものではなく、人工的に作られた島であると言うことだろうか。そのため、それほど大きい島とは言えないのだが、それでも異能研の学生や研究者などがクラスには十分な広さを誇る。


 そんな孤島の港へと到着した俺たちは、荷物をもって外へ出た。


「……なんか、見た感じは普通の街並みなんだな」


 船から降りた俺の第一声は、そんな気の抜けたような感想だった。


 異能研究の最先端と聞いていたものだから、てっきり目の前に色んな研究施設が集まっているものとばかり考えていた。


 しかし、目の前にある光景は普通の一軒家やお店など、どこの町にもありそうなもの。


「生活区域ですもの。当然ですわ」


「生活区域?」


 ユイの言葉に首をかしげていると、隣にいた田中君が口を開いた。


「知らないのかい?」


「ああ。学校の事は知っていたが、孤島に関してはまったくだな」


 受験には必要ないと思っていたからな、と言えば田中君は「名都君ならあり得そうだね」と苦笑していた。


 何でも、ここは学校に通う生徒が日常生活を送るための区域らしく、その生活のための店だったり施設だったりが揃ているのだとか。中には、訓練施設も結構あるのだとか。


「他の区域もあるのか?」


「当然ですわ。後二つほど、この『生活区域』の奥に研究施設を中心とした『研究区域』、その更に奥に『実習区域』がありますわね」


「何だ? その『実習区域』ってのは」


「詳しくは(わたくし)も知りませんが、なんでも異能研の授業で使うそうですわ」


 孤島についてのあれこれを聞いていると、かなりの大型船が着船した。

 あれが今年の受験生が乗ってくる船なのだろう。大きさを見るに、かなりの数が乗っていそうだ。


 それも、あれに乗っている全員がランク4以上の異能者なのだからすごいものだ。


 続々と大型船から降りてくる学生たちを尻目に、俺たちも移動を開始する。

 異能研究専門学校は、この生活区域の奥、研究区域との境目にあるらしい。それなりの距離を移動しなければならないのだが、安芸城グループの迎えが来てくれたため、車で移動する。


 普通に受験しに来たら、徒歩で向かわなければならないらしいのでこりゃあ楽だ。


「……ん?」


 車に乗り込む直前、ふと俺の直感が何かを感じ取った。

 感覚的にこれは……視線? それもうっすらではあるが敵意……?


 どうしましたの? と車の中から俺の顔を覗き込んでくるユイに、何でもないとだけ答えた俺は、その視線を感じる場所へと目を向けた。


 続々と移動を開始している生徒の中の誰か……ではない。

 むしろ逆だ。逆方向からだ。


 だが、その方向に広がるのは海だった。人の気配などまるでない。


「何だったんだ?」


 首をかしげて考えてみても、何かわかるわけではなかった。

 納得のいかないモヤモヤとした感情を抱えながら、俺はユイや田中君たちと共に異能研へと向かうのだった。





『敵……脅威……ワタシノ……』





「では、以上で面接は終了です。何かご質問等はございますか?」


「いえ、特にはないです」


 面接官の口から終了を告げられ、練習どおりに部屋を出る。

 そこから暫く歩き、校舎を出たあたりで大きく息を吐いた。


 思っていた以上にでかく、そしてキレイな見た目をした異能研。

 その見た目から分かるように、校舎の中の造りに関してもなかなかのもので、俺が知るどこの校舎よりも良いところだと言えるだろう。


 ここを出るまでの間に、トレーニング施設やらよくわからないがすごい機械が置かれた部屋も見かけたことから、設備はかなり充実していることが見て取れる。

 

 まぁ、ここに通う様になれば何度も目にすることになるのだ。今気にしていても仕方ないだろう。


 とりあえず、他二人の受験が終わるまで何をして待っていようかと考える。

 研究区域にはまだ入れないし、生活区域までは一人で行くには遠すぎる。土地勘もないため下手に動き回らないほうが良いだろう。


「さて、どうしたものか……」


「おや、こんなところにいるということは、君も推薦を受けたのかい?」


 顎に手を当てて考えていると、後ろから声がかかった。

 振り返って見てみれば、そこにいたのは所謂白ランと呼ばれるものに身を包んだ黒髪の男子生徒。


 彼は校舎の出入り口付近の壁を背にして寄りかかり、こちらに視線を向けていた。


「推薦は受けたが……誰だ?」


「フッ、それはお互い様だからこうして声をかけたんだ」


 俯かせている顔は一目で田中君レベルの整った顔立ちであることが伺える。

 そんな彼は、ゆっくりとした足取りで俺の側までやってくる。


「俺も同じく推薦を受けた者だ。つまり、君と同じ将来を期待されたエリート、といったところだね。同じエリート同士、仲良くしようじゃないか。


 そう言って差し出された手は握手を求めているのだろう。

 拒否するのも失礼かと思い、俺は「ど、どうも」とその手を取る。


 しかし……エリート、ねぇ。

 推薦を受けたことで自身が付いたのか、もともとこういう考えだったのかはわからないが、そういうのはどうなのかとは個人的な意見だ。

 否定はしないが、あまりそう口に出すものではないだろう。


「ところでお前……あー……」


「そういえば、自己紹介がまだだったね。佐栄垣(さえがき)公麿(きみまろ)だ。佐栄垣エンターテイメントの推薦を受けてここに来た」


 佐栄垣エンターテイメント。俺も聞いたことがある名前だ。多分、探索者に興味がないような奴でも知っている者は多いだろう。

 日本を代表するエンタメ系の企業で、とくに有名なのが『高異能シミュレーター』だろう。

 シミュレーション技術で、自身があたかも高いランクの異能者になったような体験ができる装置だ。その再現度はなかなかのものなんだとか。

 しかし、エンタメ系の企業まで出資してるのか……。


 にしても、公麿って平安貴族を思わせる名前だな。


「佐栄垣か、わかった。にしても、その推薦って……」


「まぁ、うちの親の会社だね。ただ、コネだなんて思わないでくれよ? これでも、親に認めさせるための努力はしたからね」


「お、おう、そんなことは考えてねぇよ。名都文月だ。一応、安芸城(あきのじょう)グループの推薦を受けている。……まぁ、よろしく頼むよ」


「……安芸城? 君が、か?」


 俺の紹介を受けて、困惑したような表情を浮かべた八重垣。

 その問いに頷いてやると、彼は「どういうことだ?」と首をかしげていた。


「どうかしたのか?」


「ああ、いや。安芸城グループには、俺たちと同い年の()がいるはずなんだけど……その()ではなく、君を選んだのか……?」


 その娘、というのはユイのことを指しているのだろう。

 たぶん、俺と言う存在がいなければ彼の言う通りになっていたのかもしれないが、彼女は現在受験会場の方で試験を受けている最中だろう。


「そいつとは知り合いなんだが、彼女なら今試験を受けているぞ」


「……なるほど、大体理解したよ。安芸城グループは、身内より君を囲うことを優先したのか。ふむ、俺個人としても君に興味が出てきたよ」


「そんな趣味はねぇからお断りだよ」


 じろじろと俺の顔を見てくるので、シッシと手で追い払う仕草を見せてやった。


「冗談さ。けど、そうか。彼女と知り合いなのか。一つ聞きたいんだが、彼女は元気かい? 俺も顔見知りみたいなものだからね」


「元気だぞ。ついこの間まで、俺を鍛えるために大剣ブンブン丸してたからな」


「……よ、予想以上に元気なようでよかったよ」


 苦笑しながらも、どこか安堵した様子を見せる佐栄垣。

 話の内容から察するに、彼はユイの知り合いか。恐らく、ユイが転校してくる前の学校と関係があるのかもしれない。


 とりあえず、ユイや田中君以外に仲良くなれそうなやつがいたことにホッと内心で安堵した。


「ふぅ~……き、緊張したぁ~!」


 それからしばらくの間二人で話を続けていると、校舎から人が出てきた。

 出てきたのは女子生徒。若干青みがかった髪を先端部分で緩く縛り、髪と同じ青い眼鏡をかけた彼女は、そんな言葉と共に大きく息を吐いていた。


 俺と同じところから出てきたと言うことは、彼女も推薦を受けた生徒なのだろう。


「おや? 彼女は……」


「知り合いなのか?」


「ああ、同じ中学だ。まさか、彼女が推薦を受けるとはね。まぁ、彼なら納得のいく話だ」


「佐栄垣?」


「おっと、こちらの話だ。知り合いだから挨拶に行くが、名都も来るかい?」


 佐栄垣の案に乗り、二人でその女子生徒のもとに向かう。

 佐栄垣の様子が少し変な気がするが、そもそも先ほど知り合ったばかりでこいつがどういう奴かまだよくわかってないんだ。それがおかしいと判断することが間違っているのかもしれない。


「やぁ、水無月さん。君も推薦を受けたんだね」


「あ! 佐栄垣君! よかったぁ~!」


 佐栄垣が声をかければ、少々オーバーな反応を見せる水無月と呼ばれた少女。

 ふと、そんな彼女の目が俺に向いた。


「佐栄垣君の知り合い?」


「いや、さっき知り合った同じ推薦組の名都だ」


「どうも、名都です」


 軽く会釈する程度の挨拶に留めておく。

 こう、お互いの知り合いを通した自己紹介って、ちょっと遠慮がちになるのはなんでなんだろうか。


 しかしそんな俺の心情とは別に、彼女は俺のすぐ傍まで近づき、いきなり俺の手を両手で握った。


「はじめまして! 佐栄垣君とは同じ中学校だった水無月(みなづき)花蓮(かれん)です! ぜひ仲良くしてくださいね!」


「お、おう……よろしく」


 真正面から目を合わせてくる彼女の行動力に、俺は思わず後退(あとずさ)ってしまった。

 ニコニコと俺の目を覗き込んでくる水無月と、それにどう反応していいのかわからない俺。


 この状況をどうしてくれようか、と考えていると目の前の水無月から「あれ?」という声が上がった。


「あ、あの……何ともない?」


「は? いや、今まさしく大困惑してるんですが?」


「……そ、そうなんだ。ご、ごめんね。いきなり……」


 パッと手を放して俺から距離を取る水無月。

 よくわからないが、俺も対処法に困っていたところだ。それで良しとしておこう。


「さて、推薦組は全員揃ったみたいだから、これから親睦を深めに昼食にでも行かないかい?」


「これで全員なのか?」


「ああ。何人いるのか、質問の時に聞いていたからね。推薦何て稀だから、これでも多いくらいなのさ」


「あ、佐栄垣君。私、お昼は(いさむ)君に呼ばれてるから、そっちに行かないと……」


 佐栄垣の提案を遮ったのは、水無月。どうやら、彼女は他の人との約束があるらしい。

 それを聞いた佐栄垣君は、「あー……」とどこか納得のいくような表情を浮かべていた。


「確かに、彼ならそうだろう。わかった。それじゃぁ、また同じ学校なんだ。よろしく頼むよ」


「うん! こちらこそ! 名都君もこれからよろしくね!」


「あいよ、よろしくな」


 それじゃぁ! と言って別の校舎へと駆けだしていく水無月。

 そんな彼女の後姿を見送りながら、俺も話を切り出した。


「さて、佐栄垣よ。実は俺も昼食は先約があるんだ」


「なるほど、では俺は一人寂しくボッチ飯にでも勤しむとするよ」


「いやボッチ飯って……お前も来たらいいじゃないか。ユイとは知り合いなんだろ? 同じ中学の奴がもう一人いるが、気のいいやつだしすぐ仲良くなれると思うぞ?」


 田中君ならきっと、初対面の誰であってもすぐに仲良くなれることだろう。流石は田中君、とんでもないコミュ力だぜ。


 しかし、それでも佐栄垣は苦笑するだけだった。


「ありがたい申し出ではあるけど、断っておくよ。何もできなかった俺には、顔を合わせるのは難しいからね」


「……? どういうことだ?」


「……なるほど、話してはないんだね。なら、彼女に『すまなかった』とだけ伝えておいてほしい」


 それじゃぁ、入学式に会おう


 そう言って佐栄垣は去っていく。

 あった時と比べて、少しばかり元気のなさそうなその背中を見送り、俺は受験が行われている別校舎へと向かった。


 佐栄垣の口ぶりからして、やはり前の学校でユイが関わった騒動か何かがあったのだろう。

 本人が口にしない限りそれを俺から聞くことは無いが、少しだけ何があったのか気になってしまった。


 ……ああ、気になった、と言うのであればもう一つ。


「水無月、だっけか。何か、気になったんだよぁ……」



面白い、気になると思っていただけた方々!

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