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30.孤島

お久しぶりです。

リアルが落ち着いたので、更新します!

 田中君との模擬戦から暫く経ち、今では俺が異能研に推薦入学することは学校中の誰もが知ることとなった。

 まぁもともとランク3なうえ、普段から目立つことのなかった俺である。そんなやつがいきなりランク5になった上、誰もが知る大企業安芸城グループの推薦で異能研へ行くともなれば、注目されるのは当然のことだと言えるのかもしれない。


 そしてそれだけ話題になれば、あることないこと考えるのが人間である。


 クラスメイトにはおめでとうとか、良かったじゃんなどと祝福の言葉をかけてくれることもあるのだが、中にはズルをした、とかあんな奴が、みたいな嫉妬の声も聞こえてくる。


 まぁ当然ながら、面と向かって言われたわけではない。なにせ、その推薦を出した安芸城グループの娘がいるのだ。耳に入れば、彼ら自身どうなるかわからないからこそああやってこそこそと愚痴を言うしかないのだろう。


 つまり、またユイのおかげってわけか……高校進学決定したら、全部含めて何かお礼しなくちゃならんな。


 そんなことを机の上にわざと突っ伏しながら考えていると、ふと目の前に影が差した。

 

「名都君、一緒にお昼でもどうかな?」


 持参した弁当箱をぶら下げた田中君。彼は自分の椅子を向かい側に運び、俺の許可を取ることなく着席した。

 特に嫌がる理由もないため、ここ数日はこうして彼と昼飯を共にすることが多いのだ。


 ユイ? 同じクラスの友達と食べているらしい。この間、話題が俺との関係についてばかり聞かれるとウンザリしていた様子だった。

 女の子は恋バナが好き、というのはいつの時代も変わらないことなのかもしれない。


 昼前に購入していたパンを鞄から取り出した。


「特訓の方は順調なのか?」


「ああ、何とかね。僕の異能は素の能力が高ければ高いほど大きくなるから、基礎をもう一度鍛え直すことにしたよ」


「あれでも十分だと思うんだがな」


「十分、なんてないよ。怪物(モンスター)を相手にするんだ。できることは全て十全にやっておくのは当然でしょ?」


 然も当然の様に言う田中君の言葉を、俺は口にしたパンを咀嚼することも忘れて聞いていた。


 ……なるほど、俺よりもよほど探索者に向いている。


「……来年からも、よろしくな」


「ははっ、まだ合格すると決まったわけじゃないよ。でもそうだな……もし同じ高校なら、その時はまた挑ませてもらうよ。この間のリベンジだ」


「えぇ……勘弁してくれ」


 ため息を吐いてみれば、田中君は微笑んだ上で食事を再開した。


 あ、やらないと言うことは無いんですね。もう君の中では選ってい事項、と。


 目前でおいしそうに食事を続ける田中君に、俺は諦めたようにため息を吐くしかなかった。



 昼休みが終わり、全員が授業の為に席に着く。

 しかし授業とは言っても、受験間近のこの時期にやることは志望校の対策問題くらいだ。各々が専用のテキストを机に出して自習に勤しんでいる。


 対する俺はと言うと、受験では面接くらいしかない為人目をはばからず居眠り……何てすることはない。

 みんなそれぞれ頑張っている中で、一人気にせず居眠りなど、心象が悪すぎる。それに、高校入学で勉強が終わるわけではない。その後も勉強はしなければならないんだ。何なら、勉強しなくてもいいとさえ思っていた大学だって勉強しなければならないのだ。


 そのため、俺もみんなと同じようにテキストを片手に勉強中。ただ、内容は皆の者とは違って高校の範囲のものとなっている。


 ふと顔を上げてみれば、誰もが真剣な表情でテキストと向かい合っている。

 普通なら私語くらいしそうなものであるが、見渡してみても誰一人そんな奴はいない。


 まぁ、当たり前と言われれば当たり前だろう。

 なんせ、全国統一の高校入学試験は二日後に控えているのだ。


 明日は遠方へ受験しに行く者もいるため三年生は休みになっている。

 当然ながら、孤島の異能研を受験するユイと田中君もそうで、明日には異能研までの船が出る港町へ移動する。


 あと、俺もだ。

 何でも、異能研はこの受験シーズン以外では船がほとんどなく、更に受験シーズンであっても限られるのだそうだ。

 そのため、推薦組も受験組と同じ日に面接を受けるのだ。


 これをユイから聞いたときは驚いたものだが、理由を聞いて納得はした。

 異能研を含めた孤島は、以前も言った通り多くの企業が出資し、多くの研究が行われている。いわば、国における異能研究の最先端だ。

 そんな場所に頻繁に出入りできるようにしてしまうと、スパイなどにその成果やデータを盗まれ、大損害を被る可能性があるのだとか。


 そのため、人が多く来る受験シーズンは国家所属の探索者を動員して警備に当たるのだとか。


 ……思考が逸れたな。

 要は、俺も明日移動という訳だ。田中君を含めて、異能研を受験する俺たち三人は安芸城グループが異能研の孤島まで送ってくれるらしい。

 普通は一般船に乗っていくのだが、人ごみによる精神的ストレスと船の運賃という強大な敵から解放されるのは嬉しい知らせだ。


 面接に関しては牧さんが頬を引きつらせながら教えてくれたのである程度は問題ない。

 当日の面接が終われば、後はユイと田中君の受験を待つくらいなものだ。


 やがて終業のチャイムが鳴り、生徒が帰宅の準備に取り掛かる。

 帰りのホームルームでは、担任教師から激励の言葉が飛ぶ。そんな激励を真剣に聞く者もいれば、聞き流している者もいる。


 やはり、人は変わらないものだな。


 



「改めてありがとう、安芸城さん。僕まで乗せてもらって」


「構いませんわ! 同じ学校の知り合いですもの。あなた一人を別にするほど、(わたくし)の器は小さくありませんわ!」


 さて、二日後の朝。

 俺たち三人は現在異能研に向かうため、安芸城グループ所有の小型船の上にいた。

 小型船、とは言ってもさすがは安芸城グループ。設備などは充実しているし、謎技術で揺れはほとんどないしで快適そのもの。

 

 雰囲気だけ味わえば、船旅に出ていると言ってもいいだろう。


 船内の部屋で、模擬テストの採点をしている田中君とユイを尻目に、俺は窓から見える景色を楽しんでいた。


「さて、採点ですが、模擬テストの結果を見る限り、問題はなさそうですわね。自信をもって下さいまし」


「あぁ……一問間違えたか。安芸城さんは満点。流石だね」


「当然の事ですわ! この安芸城ユイ、抜かりはありませんわよ!」


 満点の模擬テストを掲げながら機嫌よく笑うユイ。そんなユイを見て、俺も田中君も思わず顔を見合わせて笑う。

 この三人で行動することが多くなってから、よくやる流れだ。


「二人とも、お疲れ様。紅茶入れておいたけど、飲むか?」


「ありがとう、いただくよ」

「いただきますわ。最近、文月さんも紅茶を淹れるのが上手くなって嬉しいですわ」


「まぁ、面接の練習と訓練以外やることがなかったからな」


 カップを三つ出して、そのうちの二つに均等になるように注いでいく。

 最近、安芸城家のメイドさんから習ったおかげなのか、ユイや田中君の他に、家族からもおいしくなったと褒められている。

 褒められれば頑張れる俺は、気付けば得意と言えるくらいにはなったはずだ。


「ところで、俺なりにちゃんこ鍋ジュースを美味しくなるように入れてみたのがあるんだが――」

「それは止めておくよ」

「結構ですわ」


 進めてみようと思ったが、言い切る前に拒否された。

 おいしいと思うんだがなぁ……と持参したそれをカップに注げば、二人はその様子を見て苦笑していた。


「おいしいはずなんだが」


「とりあえず、文月さんはそれを人に勧めるのをやめてくださいまし」


「あ、はい」


 割と真剣な顔で言われたので、愚痴を垂らすのはここでやめておこう。

 何で、携帯用の武器に手を伸ばしてたんですかねぇ。


 一口含んで、やはり美味いと一人で満足していると、部屋の扉が叩かれる。

 安芸城家のメイドさんだ。


「お嬢様、お客様の皆様。まもなく目的地です。ご準備を」


「わかりましたわ。田中さん、文月さん。用意しますわよ」


 勉強道具を片付けて鞄にまとめていく二人。対して俺はそういうものは持ってきていない為すぐに準備は終わった。


「おお……あれが『孤島』か」


 窓から見えたのは、想像していたよりも大きな島。

 よく見れば数多くの建物が見えるが、あれら全てが異能研究に関わる施設なのだろう。


 初めて見るその姿に、思わず声が上ずった。


「雑誌やテレビでは見たことあったけど、僕も生で見るのは初めてだ。すごいなぁ……」


 隣から窓を覗き込んでくる田中君も、感嘆の声を漏らしている。

 しかしユイはそうでもなかったようで、早くいきますわよ、と窓に張り付いていた俺たちを急かした。


 もう少し浸らせてほしいと思ったが、ユイ曰く、ここに入学すれば間近で飽きる程見ることになるとのこと。

 その言葉に、俺は内心でわかってないなぁと肩を竦めていた。


 

 何はともあれ。



 二人にとって、負けられない戦いが始まるのだった。

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